保護者同伴に耐えうるだけの実力者
しばらくこの街に滞在する事が決まったので別に急ぐ必要はなくなったのだけど、折角出てきたのでティーリスを連れ立ってそのまま冒険者ギルドまで足を延ばした。
「へぇ、今こうなんだ?キレイなもんだ」
ギルドはレンガ造りの大きな建物で、まだ色褪せていない外壁に、角の欠けやヒビといったものが見当たらなかった。
「3年前に建て替えたからな。ココに来るのはいつぶりだ?」
「ソロになってからは来てないから……40年ぐらい?いや、もっとか」
「お前その間何度も来てただろうが?もっと仕事しろよ」
「だいたい来るときお休みモードなんだよ。休日に職場なんて近づきたくもないね」
「なあ、お前今日ココに職に就きに来たんだよな?」
「ああ、そうだった。まあ、書類書くだけじゃん冒険者なるのなんて」
「そんな舐めたマネしてるとすぐ死ぬぞ、っと若いヤツには言うトコなんだがな……」
「ベテランの再雇用だ。古巣に戻ってきたって感じよ」
「お前ココ40年ぶりってさっき聞いたぞ?」
まあ、無駄話してても始まらないので建物の中に入った。
へぇ、ココも酒場やってるんだな。チラホラと飲んでる奴がいる。羨ましいこってーと思ったが、やたらハイなのできっと徹夜明けに就寝前の一杯といったところか。お疲れ様。
いや、でも、やっぱ羨ましい。飲むのに混ぜて貰いたい。
「お前はこっちだ」
ティーリスに襟元を掴まれる。
「後生だ、一杯だけ」
「うるさいよ死にぞこない。今生が滅茶苦茶伸びたばっかだろうが」
ティーリスに受付嬢の待つカウンターにまで引きずられた。
「あ、あの。この度はどう致しましたか、ティーリス様?」
「いや、何。今日はこいつの付き添いだ。ほら、さっさと済まさんかい」
「……わかったよ。あの、すいません。冒険者に登録したいのですが」
「……あの、このお嬢さんを冒険者に登録されるんですか?」
なぜか受付嬢は私じゃなくティーリスに尋ねた。
「そうだ。後見人には私の名前を頼む」
「ティーリス様が後見人に、ですか?……わかりました」
そこでようやく受付嬢は私に顔を向けて書類とペンを渡す。
「お嬢さん、お名前は?」
「ビィ・ミヨリア」
「ではビィ様。冒険者登録の説明をさせていただきます。といってもしていただく事は単純で、こちらの書類にお名前、役職、あと出来ましたら特技や拠点を書いていただけましたら登録完了です」
「わかりました」
私はペンを受け取り項目を埋めていく。
「どうぞ」
「はい、承りました。ロールは吟遊詩人ですか。珍しいですね……あの、魔法職でしたら特技欄に使用可能な魔法の記入をお願いできますか?」
「今は使える音魔法ないよ。曲は幾つか弾けるけど」
「え、ないんですか?それで、吟遊詩人を名乗られるので?」
「ええ」
「あの、余計なお世話かもしれませんが魔法が使えないのでしたら一般的な戦士職で登録されては如何ですか?」
「剣とか武器を持って戦うのが苦手なんです」
受付嬢の笑顔がヒクつく。
「では、せめて比較的安全なマッパーや運び屋などどうでしょう?こちらの方がまだ募集が掛かりやすいです」
「いえ、吟遊詩人で」
「魔法の使えない吟遊詩人なんて、パーティーメンバーの募集を掛けても誰も集まりませんよ?」
「ソロ志望ですから」
受付嬢が涙目で私を指差しながらティーリスに訴えかけている。ティーリスが無言で首を横に振る。意地悪だなぁ。
「……ップ。ク、アハハハハッ」
突然で酒場の方で飲んでた男がこちらを見て笑い出した。
「……。それでお姉さん、問題ないので受理をお願いします」
「え、いや、ちょっと。ガネスさん、無視するの?」
「構ってあげる理由もないですから。さあ、早く受理を。私はこの後飲むんだから!」
「え、何!?午前中からこのお嬢さん飲む気なの!?」
「禁酒前に溜めなきゃいけないの!」
「バカが。それを俺が許すハズないだろうが!あと、さすがに初日から酒臭い状態でシミュル家に行く気か」
「え!?シミュル家って、あの!?」
「じゃあ私はどうすればいいってのさー!?」
「飲むなって言ってるんだよ!」
「……よくもまあ、無視きめこんでくれたなぁ」
後ろを振り返ると、私たちの方を見て笑っていた酔っ払いの男が立っていた。
私は怯えた表情で黙ってティーリスの後ろに隠れた。
苛立ち気に眉間に皺を寄せたティーリスが、私の襟をつかむと無言で前に立たされた。
「……っケ!保護者同伴じゃないと何もできねーお嬢ちゃんが来ていい場所じゃねーんだよ」
あ。ああ、確かに!私今、保護者同伴で職場に来てるような立ち位置だ!思春期だったら恥ずかしくて立ち直れなかったかも!
まあ、この歳になるとそんな恥ずかしいって気持ちなくなっちゃったし、昔は保護者なんていなかったし、想像でしかないけどね。
「あ、大丈夫です。私危ない事する気毛頭ないんで」
「……なあ、ティーリスさんや?」
「あん?」
男は私から後ろにいるティーリスに視線を移した。
「身内に箔をつけたいのかもしれないが、こりゃ流石にあんまりじゃねーか?あんたも耄碌したもんだな」
「そうか。問題ないと思うがな」
「ハァ。残念だよ。ともかくだ」
もう一度男は私に顔を向けると膝を曲げて視線を合わせた。顔が近いせいか酒臭い息が顔に掛かる。う、羨ましくなんてないんだからね!
「どうしても冒険者やるってんなら、絶対パーティー組めよ?しかも前衛職だからな。じゃないとマジ死ぬからな!
どうしても集まらない時は一緒に行ってやってもいいから、絶対に一人で行くなよ。マジでマジで死ぬから!……ハァ、酔いも覚めちまったし帰るわ」
そう言って男は酒代を置いてギルドを後にした。
「ん……あれ、普通にイイ人?」
「あいつ、気のいいヤツだぞ?」
「ガネスさんはA級で後輩の面倒見の良い方ですから。慕われてますよ」
めちゃくちゃ優秀じゃん!?
「あ、あと、ティーリスさんの事、みんな知ってるようだけど有名人なの?」
「……ティーリス様は5年前までココのギルドマスターをされてました」
「言ってなかったか?」
聞いてないよー。
「もういいや。それより登録の受理を」
「ハァ。もういいです。わかりました」
そう言って受付嬢は書類を持って建物の奥に引っ込んで、しばらくするとカードを持って戻ってきた。
「はい、こちらがビィ様のギルドカードになります。ビィ様は新人ですので、G級からとなります」
「G!?」
え、私が昔登録したときDからだったのに。いつの間に下がそんなに増えてるんだ!?
ちょっと待て。今さっきまで私、A級と前ギルマスにナマいってる小娘(G)してた!?
やだ、恥ずかしくて死にたい……。




