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拝啓、高木様  作者: dede
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呼び方を変えるのはいつだって照れくさい


「ティーリス、ビィちゃん。お帰りなさい」

軒先で鉢に水をあげてた奥さんがこちらに気が付いた。

「ああ、ただいま」

「ただいま、です」

「すぐに朝ご飯の支度しますね」

そう言って、パタパタと足音を残し台所に消えていった。

「いい奥さんだね、ロリコン」

「30代だっつーの!」

「いや、歳の差がさー。あと昨日めっちゃ私浮気疑われたじゃん?

今の私相手に、さ?隠し子じゃないんだよ?浮気だよ浮気?疑惑深まるの、仕方ない」

「……誤解だ」

「できたわよー?」

「はーい、今いきまーす」


「美味しいです、奥さん」

「うんうん。いっぱい食べてね。……それにしても紛らわしいわね同名って」

「いやー、大叔母の名前をそのまま付けられちゃって」

「いいえ、良い名前を貰ったと思うわ。2,3回しか会った事はなかったけど素敵な方でしたもの。あなたも良く似てるわ。とっても美人さんね。あなたもビィさんみたいな素敵な人になってね」

「……はい頑張ります」

結局私は私の親戚の子って事にした。なんか若返ったって話をしても混乱するだろうし。

私の親戚のビィちゃんは田舎から出てくるついでに私からクリフの墓参りをお願いされました。その後私は冒険者として旅に出ます。そういう設定。

ところで私、奥さんの前でそんな良い事した覚えないけど?何かあっただろうか。ティーリスの酒を何本か空にした記憶しかない。

「それでビィちゃんはいつまでいるの?」

「あ、いえ、午前中には経ちたいと思います。ここには大叔母の代わりにクリフさんの墓参りにうかがっただけなので」

「え、そうなの?残念だわ、家族が増えたみたいで嬉しかったのに」

意外なことに本当にそう思っているようだった。出会い頭に滅茶苦茶詰め寄られたので本当に意外なのだが。

まあ、ティーリスの私への接し方が異性へのそれではなく親戚の扱いだったので不安がなくなったのだろう。

「それなんだがな、ビィ。旅立つ前にケインの倅のところと、冒険者ギルドに一緒に行かないか?」

「え、なんで?」

「旅をするならこの街の冒険者ギルドで登録してた方が何かと都合がいいだろうよ」

「え……あ、ああ。そうだ……そうですね」

確かに。ここで新しく冒険者登録してた方がいいかもしれない。以前の登録したライセンスもあるにはあるが、若返ったって説明するのが面倒だし、ここでしがらみを全て清算するのは悪くない。なーに、Cランク程度しかなかったんだ。未練なんてなかった。

「でもケインさんのせ……息子さんのところには何しに?」

「私と二人でビィの後見人として登録しようと思ってな。奴ならきっと請け負ってくれるだろう」

「……不要ですよ。確か冒険者として登録するだけなら未成年でも制限なくできましたよね?」

「ああ。だが後見人がいた方が信用を得やすいのも確かだ。まあ、ほとんどがこちらの都合だ。後見人でいた方が君の情報が入ってきやすい」

「……なるほど。それじゃあ、お言葉に甘えさせて頂きますね」

「……おおう」


「なあ、ケインとこと結構交流あったの?」

「ああ。まあ、元々ケインとは昔一緒に住んでたし。あいつが亡くなった後も色々付き合いがあってな。今も親しくさせて貰ってる」

「そっかー。私は息子さんが10代だった時に一度会ったキリだなぁ。あの時はビックリしたよ、突然養子とるって言い出してさ」

「……まあな、アイツも要職について貴族になっちまったから跡継ぎとか必要になったんだろうさ」

「だったら結婚して子供作ればよかったのに。あいつ、だいぶモテてただろ?そういう話、してくれなかったけど随分噂聞いたぞ?」

「……お前のせいかな。この悪女め」

「は!?聞き捨てならないな、どっからどうみても聖女そのものじゃんか?見なよこの溢れんばかりの母性を!」

「せめて禁酒してから言おうな……っと、ココだ」

ティーリスが指差す建物は、確かに貴族の邸宅としては質素だったけれど、やはりそれなりに大きなウチだった。

ティーリスは門番をしている男の一人に声を掛ける。

「すまぬ、当主にティーリスが来たと伝えてくれるか。それで分かるはずだ」

「わかりました」

そういって門番は扉をくぐって邸宅に入っていく。

「なんだ?客か?」

開いた扉から男の子が顔を出した。

「あ、ティーリスさん!いらっしゃい!」

「おお、ノートか。また大きくなったな」

今の私と同じぐらいの年頃で、まだ幼さが残った顔に人懐こそうな笑顔を浮かべている。

そのノートと呼ばれた少年は、チラっと私を見ると緊張を走らせた。なんだなんだ、人見知りか?

「あ、あの、ティーリスさん、こちらの子は?」

私はスカートの代わりに軽くズボンの左右を摘まんでお辞儀をする。

「初めまして、ビィ・ミヨリアと言います。私はティーリスさんの、……ティーリスさんの?」

私はティーリスとの今の間柄がうまく言葉にならなくて思わず顔を見てしまう。ティーリスは呆れたように

「だからさっき言っただろう?私は君の後見人だよ。ビィ、こっちはノート。シミュル家の長男だ」

「は、初めまして。ノート・シミュルと申します」

彼も右手を胸に置き、正式な形式で挨拶を返した。

「お待たせしましたティーリス殿。おっと、ノートもいたのか。で、そちらのお嬢さんは?」

「初めまして、ビィ・ミヨリアと申します」

「ビィ・ミヨリア……同性同名か。君はビィさんのお孫さんかな?」

「いいえ、ご存じの方のビィは私の大叔母にあたります」

「なるほど……そういえば彼女も独身、だったか。すまないね、随分と似ていたものだったから。それでティーリス殿、今日は何かご用件で?」

「ああ、このビィ譲のことでな。今回彼女の後見人になることにしたのだが、できれば君にもなって貰いたくてな」

それを聞いてシミュル家当主は難色を示した。

「ふむ。理由を聞いても?正直初対面の人間の後見人と言われても困ります」

「私もこの歳だ。長生きはする気だがいつどうなるか分からんからな。保険を掛けておきたい。なに、ミヨリア家の人間だまったく知らないわけじゃなかろう?どうか助けてくれないか?」

ん?こいつ、そんな事考えていたのか。気の回し過ぎなんだよ。

「ふむ……だがなぁ」

「あの……大丈夫ですよ。ティーリスさんが私の後見人を引き受けてくださっただけでも僥倖です。ですから、ね?」

と、最後はティーリスに向けてこれ以上の申し出を止めるように促す。

「あの、ビィさんは、これからはこの街に滞在するのですか?」

と、そこで今まで黙っていたノート君が口を開いた。

「いいえ、冒険者登録を終えたらすぐに旅立とうと考えてます」

「え……そう、なのですか」

その息子の様子を見てシミュル家当主は思案すると

「ではこうしよう。半年、我が家に滞在しなさい。その間に私は君の事をよく知ることができるし、君は安定した環境で力を蓄える事ができる。悪い話じゃないハズだ」

ふむ。確かに悪い話じゃない。普通に考えればこちらに都合が良すぎるくらいだ。でもなぁ……長い。

「半年は長すぎます。一か月です。それなら条件を飲みましょう」

「それは……随分と短くなったな?」

「なら話はなしで。こちらとしても最大限譲渡してひと月なのです。私としてはシミュル家の後見人はあったら嬉しい程度なのです」

「ふむ……なら仕方ないか。ひと月で手を打とう。ようこそ、我が家へ」

当主はにこやかに右手を差し出した。私も笑顔で握り返す。

「はい、しばらく御厄介になります」

「ところで今まで貴族と交流は?」

「いいえ?」

「そうなのか。随分と礼儀作法が身に付いているし、私やティーリス殿に物怖じせずハッキリ意見するじゃないか」

「よかったです。作法は大叔母の指導の賜物です。物怖じしないのは……無知故です。以後気を付けます」

「ああ、悪いと言ってる訳じゃない。ただ相手は選ぶように」

「あ、あの」

ノート君も躊躇いがちに声を掛けてきた。そして手を服で拭うと右手を差し出してきた。

「これからよろしく、ビィさん!」

「ええ、よろしくお願いしますノートさん」

ノート君は、しばらく私の握った右手を見てぼんやりとしていた。


(血はつながってないハズなんだがなぁ……)

「どうしたんです、ティーリスさん?」

「何でもないさ。それより大丈夫か?」

「何がです?」

ティーリスは声を潜めて言った。

「ひと月酒が飲めないんじゃないか?」

……っあぁぁぁぁぁぁ!!!!?

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