森のクマさん
「さて、リクエストどうする?あ、でも聖女の行進はナシ。今は気分じゃないから。いい?」
ミドリとハッパはコクコクと頷く。二人は思い思いに思いついた曲を伝えてくる。
「お、いいね。じゃ、今日は童謡シリーズで可愛くいこう」
私達は思いついた童謡を片っ端から弾いていく。ミドリがハミングし、ハッパはゆらゆらと体を揺らしていた。
足を進めていくと、まばらだった木々はやがて鬱蒼と生い茂り、森を成していった。
ガタガタ草は群生しておらず、移動距離がかさんだ。まあ、事前に薬屋のオババから聞いてた通りなのだけど。
実際には至る所に生えてるらしいのだが、年中育つ弊害としてなかなかまとまっては育たないらしい。
「え、手伝おうかって?うーん、いいよ、大丈夫。今はこの辺の土地を覚えたいから歩き回りたいんだ。でもありがとね、ハッパ」
ハッパからの折角の申し出を断ると、次の曲をかき鳴らし始めた。
最近忙しかったからね、たまにはゆっくり歩き回るのもいい。
なーんでか、ワンでもトゥルブでも目的なんてなかったハズなのに結局忙しくなって出て行かなくちゃいけないハメになってるからね。
ゆっくり過ごせるうちはゆっくり過ごしたいよ。特にこの辺は土地勘ないからね。
歩き回ってアレコレ覚えておきたい。他の街とも勝手が違うみたいだし。
「あ、ココにもみっけ」
私はしゃがんで見つけたガタガタ草を根本付近で切り取ると袋の中に放り込んでいく。
「あ、痛いって」
ミドリが私の髪を引っ張って早く早くと次の曲を促す。
「焦んなくてもまだまだ時間あるって。ミドリはせっかちだなぁ」
私は顔を上げて空を見上げる。
うん、木々が生い茂り過ぎて空が見えん。暗い。いや、でも体感的にはまだお昼だから。
「いや、うん。だからまだ、時間あるし。明日もあるから。だから、ね?ミドリ?」
ジト目のミドリからの追及を避けるように、またウクレレを手に取ると弦を揺らすのだった。
「おや、随分集まったね?」
「……あれからずっと森に籠ってたからね?」
本当はね?初日だから適度に切り上げようと思ってたのに、ミドリが曲を弾けとうるさくてね?
いや、最近アレコレお願いしてたから労いの意味も込めて弾いたけどね?私もたくさん弾けて楽しかったけどね?
「いや、さすがにもっと早く帰ってこいよ?冒険者だからって、この辺の森は夜分危険だからな?」
「はい、以後気を付けます」
フクロウが鳴いている。辺りはすっかり真っ暗だった。おかげで門番のおっちゃんにも怒られた。
その足で薬屋に薬草を持っていく。薬屋は、そんな時分にもやっていた。
「鮮度も処理も申し分ないよ。今お代を持ってくるさね」
そう言って店の奥に引っ込むと、すぐにお金を持って戻ってきて私に手渡す。
「お疲れさん」
「ありがと……そのさ、名前、聞いていいですか?」
「ん?オババでいいよ」
私は首を横に振る。
「名前、教えてくれない?」
「変な子だね?あー、……シャルルだ」
薬屋のオババは照れ臭そうに答えた。それを私は口の中で繰り返す。
「シャルル……うん、シャルルね」
「あんまり連呼するんじゃないよ?今じゃ名前で呼ぶヤツなんざいないんだから。むしろオババと呼んでくれ」
私はニコリと微笑んで答えた。
「ごめんね、シャルルさん」
「っ!やめな、その顔で名前なんて呼ばれたら妙な気になっちまうだろ!」
薬屋のシャルルさんは、そんな困惑した表情で私に怒っていた。
「え、オババそんな名前だったの?へぇー、なんて言うか……可愛い」
「ですよねー」
私は居酒屋のカウンターで飲みながらシミュラさんと話していた。
「シミュラさん、私と飲んでて大丈夫なの?」
「いいのいいの。どうせ常連ばっかりだから。ほら」
観ると、お客は勝手に自分でグラスに酒を注いでいた。
「……いいの?お会計とか」
「いいのよ。誤魔化す客なんていないんだから。……誤魔化したら、後が恐いんだから」
そのシミュラさんの言葉と目線で、何人かコチラから顔を逸らした。
……まあ、未遂だ。問題なかろう。
「それにしても、シミュラさんもシャルルさんの名前知らなかったんですか?」
「物心ついた時から薬屋のオババだったからね」
「ご家族は?」
「旦那さんは5年前に亡くなってね、子供はいなかったハズだよ。なんだい、気になるのかい?」
「あー、ちょっとだけ」
そう言って私はグラスを傾けて喉を潤す。うん、今日もお酒が旨い。
「……シャルルさんってお酒飲むんですか?」
「いーや、聞いた事ないね」




