魔族の年下の女の子
それは宿帳に名前を書き込んでる時だった。
「……あちゃー、関係者の人?」
「だったら?」
「だから来たの?」
「違うよ。言った通り私はココにお酒を飲みに来たんだよ」
シミュラさんは、額に手を当てて苦悶してたけど
「……うん、わかった。まあ、だろうさ。でもあまりその名前は名乗らない方がいいと思うよ。特にお年寄りの前では」
「あー、やっぱりそんな感じ?」
「ビィちゃんも、ちょっとは事情を知ってる感じ?」
「ま、こんな名前だから」
というか本人だけど。
シミュラさんは苦笑いを浮かべる。
「すまないね?若い人はさほどでもないんだけど、お年寄りは未だその名前を覚えてる人が多いのさ」
「……いや、うん、仕方ないって分かってるから」
「ごめんね?私自体はビィちゃんに悪い印象は持ってないんだけど」
「ううん、それだけで充分だよ」
そうして私はシミュラさんの宿で一泊するのだった。
「そんなのないよ?」
「え、ないの?」
翌朝、朝食を食べ終えた私はシミュラさんにギルドの場所を尋ねたところ、ないと言われた。
「ビィちゃんは、そんなナリして冒険者だったんだね?」
「ビギナーもイイトコだけどね?」
「いーや、一人でこの集落まで来れたんだもの。大したもんだよ。
でもね、生憎ここは村ですらないからね。そういう施設はないんだよ。特にこれから雪が振るとほぼ陸の孤島みたいな状態なのさ。
まあ、でもそうさね。肉なら私の所で買い取るよ。薬草なら薬屋のおばばに直接持ってけば買い取ってくれるハズ」
「ほんと!?」
「これからの時期、どちらもあって困るもんじゃないからね。薬屋の場所、教えてあげるよ」
シミュラさんから貰った地図を頼りに薬屋に顔を出す。
「ごめんくださーい?」
「あいよ。ちょいお待ち」
しばらくすると、店の奥から老婆が顔を出した。
「はいはい、何の用だ……」
彼女は私の顔を見るなり固まった。その理由は分かるけど、敢えて知らぬ振りして問い質す。
「どうかしましたか?」
「いや……本人、じゃないよね。あんた、ビィという名前に覚えは?」
「大叔母です」
私の回答に頷く。
「なるほどね。じゃあ、私が驚いた理由も分かるね?あんたはあの女と若い頃に瓜二つだ。よくココに顔を出せたものだね?」
「……未だに何が正しいか分からないんですが。地元の酒が旨いと、私に自慢してた人がいたんです。気に食わない人でしたが、すごい美味そうに。だから飲みに来ました」
私の返答に彼女はしばらく無言で睨んでいたが、「ハッ」と短く息を吐きだすとやれやれと頭を横に振る。
「……そうかい。まあ、あんたはあの女じゃない。だからあんたにアレコレ言うのは筋違いなのは分かってるさ。割り切れない気持ちはあるがね。で、今日は何の用だい?」
「シミュラさんの紹介で来ました。こちらで薬草の買い取りをしてくれるって。だからここら辺の薬草について教えて貰おうって」
「なるほどね。それは私も助かる。待ちな、サンプルを持ってくるよ」
私はズルいと思う。本人なのに他人の振りをして。けれどいちいち説明する訳にもいかないし。
シミュラさんは黙っておいた方がいいと言っていたけれど、そうもいかない。
シミュラさんは知らないのだろうけど、なんせ本人だ、顔が割れてる。むしろ親戚だと始めから名乗った方がトラブルも減るだろう。
……謝って済むものなら、謝って済ませたいぐらいなのだけど。私が悪いと言う訳にもいかないし。けれど魔族に明確な非があったとも言い辛い。
強いて言うなら色々条件が揃ったことが互いに不幸だった、というのが私の見解だったし歴史家の見解だった。
あ、ちなみに、ここでの薬草はガタガタ草だった。薬屋のおばばに習った。こんな私にも丁寧に教えてくれた。……少し、胸が痛んだ。
私より少し下ぐらいか。あの当時なら10代だったろうと思う。
「よう、嬢ちゃん!酒は美味かったろ?」
「ああ、すごく美味かったよ!」
「だろう。で、今日はどうするんだ?」
「今晩も飲みたいからね、採取とか狩猟してくるよ」
「え。嬢ちゃん一人で大丈夫かい?」
「大丈夫大丈夫。じゃあ、行ってきます」
「そうか、まあ、気を付けてな」
「ああ、適当にやるよ」
という訳で、集落の外にやってきました。
「という訳で、出てきていいよ」
そうしてミドリとハッパが現れた。ウクレレを鳴らしながら、ガタガタ草を探す。




