恋バナしよっか?
「どうしてビィが犯人役に適してるの?」
モヨコが不満そうに尋ねる。あーあーもう、拗ねちゃって。
「そちらの騎士団長さんにばっちり隠し部屋を発見したところを見られててね、既に私、疑われてるんだよね」
「そんな報告、私は受けてないわ」
「さも当然のように言ってるけどモヨコ、ただのメイドだよね?
いや、ま、領主様には簡単に報告伝わってると思うし、この後詳しい報告もあると思うよ。まずは魔物に備えるって言ってたから」
「いえ、でもほら、変質者や一緒にいた騎士君は事情知ってるから訂正するわよね?」
「口止めしてるから」
「え?」
「領主かモヨコが許可しないと事情は話さないようにお願いしてるから。
あ、牢からは私が見張りの騎士を操って抜け出してその後気絶させたって筋書きでひとまず説明するように、二人に伝えてあるよ」
いやー、モヨコが戻ってくるまで結構時間あったから口裏合わせるのに充分だったよ。……二人とも難色示してたけど。人がいいなあ、まったく。
「もしかして、突然屋敷を飛び出したのって」
「フフ、『待ちなさいってば!』って、逃げる私とそれを追うモヨコが、バッチリ騎士たちに目撃されてるね?」
「……いつから筋書き考えてたのよ?」
「騎士団長に誤解された辺りかな。あ、これ、何かに使えないかなーって。ってな訳で、説明よろしくね?私は行くから」
私はモヨコにヒラヒラと手を振る。
「え、何言ってるの?ダメよ。一緒に帰るわよビィ。本当の事を報告して、これからの事は改めて考えましょ?」
モヨコの返答に私は残念な気持ちになる。
「あのさー、分かってるモヨコ?お兄さん死んじゃうかもだよ?分かってよ、これが一番ベターな選択だって」
「分からないわ?ビィがそこまですることはないし、される云われもないもの。これは我が家の問題だから」
「違うでしょ?、これはトゥルブの街の問題、さらにはこの国の問題なんだよ。
正直、こんな些事で健全な統治者を失脚させたくないんだよ。大丈夫、大丈夫。精々、街中歩けなくなるだけだから」
私は笑顔で答える。そういう生活、昔はずっとしてたから平気平気。
一方モヨコはキッと私を睨みつける。胸元でふよふよ浮いていたミィはそれを心配そうに見上げていた。
「大したことじゃない。ちょっと、冗談みたく言わないでよ、ヘラヘラ笑ってないでよ!今、真面目に話してるの、大事な話をしているの!」
「え、ヤダ困る。私の個性死んじゃうじゃん。
……ごめんね。こんな下手くそなシナリオしか用意できなくて。でもね、あなたの協力は不可欠だけど、私も絶対譲る気ないんだ」
私は思った以上のモヨコの反抗に驚きながらも、諭すように微笑みかける。
「あなたに謝られる筋合いはないし、謝ったって許さないわよ。……すぐ解決するわ?だからそれまで我慢して?」
モヨコは苦悶の表情で不満を飲み込むと、そう私に確約した。
それに私は苦笑いを浮かべる。
「だから私は大丈夫だってば?ま、期待しないで待ってるよ」
するとさらにキッとモヨコに睨まれた。
「分かってないわね?ビィ、私はあなたに怒っているのよ?」
「え、なんでさ?」
「私はね、ビィ。ビィと友達になれたと思ったのよ。それなのに、できたばかりの友達を私から遠ざけるようなマネを、あなたはしてるのよ?」
友達。友達かぁ。新鮮な響きだなぁ。
歳取ってからだとなかなか出来にくいんだよなぁ。かといって若い頃は交友を深めるどころじゃなかったし。
90過ぎてから、友達宣言受けるとは思ってもみなかったよ。
「……ごめんね」
「言ったでしょ?謝罪は不要よ。謝ったって許してあげないって。でも何より私は自分自身に腹を立てているの。
友達に頼っても貰えない不甲斐ない自分に。この状況をどうにもできない自分に」
「仕方ないって。モヨコは十分良くやってるよ」
「いいえ、許せないわ。待ってて、すぐに解決してビィを迎えに行くから」
期待せずに待ってると、いつもの調子で言いそうになったけど、モヨコがあまりに本気なので
「分かった」とだけ答えた。
「行く宛はあるの?」
「いいや。まあ、適当にフラフラしてるよ」
「ならオススメの場所があるわ。ココから更に北に進むといいわ」
「こっから北?山ばかりだよね?」
私はすっとぼけて、そう返答したけど、モヨコだしトゥルブの街だから知ってるかな。
「魔族の集落があるのよ」
案の定予想していた答えが返ってきた。
「魔族関係って、私が一番近づいちゃまずいトコじゃない?」
「大丈夫、平気でしょ。それに寒い地域だから強いお酒が名物らしいわ」
「張り切って行っちゃうよ!」
「ほんと、好きなのね?……元々うちの街に騎士が多いのは魔族の襲撃に備えてだったけど、魔王討伐後、それもなくてね。
魔族との交流によって収益も得ているし、だいぶ態度は軟化してるわ」
「そうなんだ。じゃ、まずはその集落を目指してみるよ。いつまでとどまってるかは分からないけど。
まあ、他所に行ってもミィに聞けばザックリと分かると思うよ」
「そうなの?」
モヨコの胸元にいたミィは、コクコクと得意げに頷いた。
「そう。じゃあ、頼りにしてるわね。正直足取り掴めなくなったら、うちの神様に聞こうと思ってたけど」
「神さまへのお願いごとの敷居低すぎじゃない?」
気兼ねがなさ過ぎる。
「いいのよ、うちの神様、放っておいてもあなたのこと、観察してるみたいなんだもの」
「それ、イヤなんだけどなぁ。……うん、じゃあ、そろそろお別れしよっか。モヨコが帰り着く頃にはちょっと早い朝食だね」
「待って」
モヨコがパーンと手を叩いた。
「一旦洞窟を出て、焚火を焚きましょう」
「へ?」
モヨコは照れ臭そうに視線を外した。
「朝まではまだ、時間があるわ。
その……憧れていたのよ、友達と夜通し語り明かすのって。せめて朝までは付き合ってくれてもいいでしょ?一旦お別れする埋め合わせよ」
「いいけど……ご飯ないよ?お腹空いてるんじゃない?」
「いいわよ、そんなの。今の時間の方が貴重だもの。そうね、恋バナでもする?」
「恋バナかー。ないなぁー。モヨコあるの?」
「私もなかったわ」
そっかーと、二人して笑いながら洞窟の出口へと歩き出したのだった。
ある日のワンの街。
「ミルチェがうちに来るとは珍しいな?」
「ええ、その、ビィさんの事で後見人のティーリス様にご報告が」
「……何かあったのか?」
「その、トゥルブの街で、クーデターを起こした容疑が掛かってます」
「……この街を出て1ヵ月も経ってないんだがなあ。そうかそうか。……いや何やってんだアイツ」
その時、扉がノックされ、若い女の声が聞こえてきた。
「すいません、こちらティーリス・カーティス様のお宅でよろしいですか?」
「そうだが、どなたかな?」
「私はモヨコ・ビッグムーンと言います。ビィさんのことでお話に伺いました」
その頃のビィ。
「やばい。どこにも行きたくない」
腰まで温泉に浸かりながら、グラスにお酒を注ぐともう一杯と杯を傾けた。
「カァっ!!堪らんね!」




