酒は飲んでも飲まれるな
まだ薄暗い中、夜露で濡れた草を踏み分け墓地に来ていた。
ドバドバドバ……
「なあ、ビィ。何やってんだ?」
「ん?酒」
ピチョン。最後の一滴までワインをクリフの墓石振りかけた。
「なあ、やっぱ年か?忘れちまったか?クリフは飲めなかっただろうが」
「知ってるさ。お前ら二人が初めて酒を飲んだ時、私もいたじゃんか。忘れやしないよ」
忘れるものか。クリフは数回飲み込むとすぐ青白くなって吐き出して。
ティーリスはもう少し粘ってジョッキ一杯飲み干したけど、真っ赤になってすぐ寝ちまったっけ。
それ以来こりたのか、いつも茶か上等な水を好んで飲んでいた。
「いーや、忘れてるね。魔王を倒した後の飲み会でも無理やり飲ませて吐かせてたじゃねーか」
「あー……忘れたな」
だってさ、皆で飲もうぜって宣言したのに一人だけ水持ってんだもん。
「ま、そんな事ももうないさ。な?旨いだろ、酒って」
「そうだな。あっちにゃリーダーもケインもいるんだ。楽しく飲んでるだろうさ。あいつら楽しそうに飲むもんな」
「なにさ?私と飲む酒はまずいとでも言うんだ?」
「お前の飲み方は痛々しいんだよ」
「……そりゃ悪かった。改める気がない辺りが特に。ま、それはさておき始めようか?」
私はティーリスから借りてきたギターを取り出して軽く弦を鳴らす。
「リズム、頂戴」
「おうよ」
そういってティーリスは足踏みと手拍子でリズムを刻んでいく。
それに合わせて、私もサイドギターの旋律を乗せていく。
曲は、『聖女の行進』。私たちのパーティが初期の頃に作った楽曲だった。
若い頃に作った曲だから拙いところもたくさん目につくけれど、本来は楽しくて賑やかな楽曲だった。
でも今は下手くそなギターと手拍子・足踏みだけのスカスカした感じ。
まあ、ドラムなんてここまで持ってこれないし。私、ホントはこの曲キーボードだし。
でもベースもボーカルギターもサイドギターもいないんだから、仕方ない。あいつらが悪い。
最後の一音を鳴らして余韻を響かせる。そして……
「……あなたの今後が喜びで溢れていますように」
私はその言葉と共に高めた魔力を大気に放つ。放たれた魔力はクリフを中心にほんのりと光り、消えていった。
残されたのは清らかな空間だった。
「ありがとうな」
「……クリフのためなんだから、これぐらいのサービスはするさ。じゃ、帰って朝飯にしようか?」
と、すぐに踵を返して墓を後にした。
俺の時も、とか言い出されるのが恐くて早足になっていた。もちろんサービスはするけど、3度目でも慣れやしなかった。
でもきっとこの私の後ろを追ってくるこの爺さんのために、きっと4度目をするのだろうという予感もあった。
ああ、嫌だ嫌だ。酒が飲みたくなってきた。クリフに全部やるんじゃなかった。
白み出した東の空に、山の輪郭が露になっていた。
今日はまだ始まったばかり。
迎え酒は楽しいが、きっと後ろの小うるさい小僧が昔と変わらず許してはくれないだろう。
やたら酒の話になってビビってますが、(誰とはいいませんが)モデルにした人物にアルコール依存的な情報はありませんので、あしからず。




