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拝啓、高木様  作者: dede
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父のギターと夜中の騎士たちの騒乱


「ここにいたのね!ビィ、この忙しい時にお願いだから迷子にならないでくれる?」

やってきたモヨコは開口一番そう言った。濡れ衣である。

「わかったから。とりあえず出してくれる?」

「当然よ。鍵、借りるわね?」

モヨコは見張りをしていた騎士にそう、断りを入れる。

「え、でも隊長から命を受けてます。彼女には魔物をこの街に呼び込んだ疑惑が……」

「無実よ。隊長には後で私が怒られるわ?それとも言い訳のために私に気絶させられる?今、時間がないの、早く選んで?」

「え、いや……。どうぞ」

騎士はモヨコに鍵を渡す。モヨコはすぐに牢を開けると私を出した。

「ありがとう」

「礼は不要よ、こちらの不手際だもの。それよりも、手伝って欲しいの」

「呼び寄せられた魔物の団体様の件だよね?」

「そう。今各所に騎士や冒険者を配置しているけど、人数が足りてないの」

「んー、ちょっと一人にさせて貰っていい?」

「え?」

私はモヨコの耳元で小声で囁く。

(少しミドリと相談したい)

(……わかったわ)

「上に出てすぐ横の小部屋がトイレよ」

「……わかった」

歴史家と騎士が何とも言えない表情をしている。私がすごい我慢してたみたいになってる!

「あ、そこの歴史家も牢屋から出してあげて?」

「え?この変質者も?」

「必要なんだ。お願い。あと、領主様のギターも持ってきてくれる?この後使うんだ」

私はそこまでお願いして、荷物とウクレレを持つとトイレに向かった。


「出てきて」

私はトイレに入るとミドリを呼ぶ。

するとミドリとアカリが出てきた。

「場所、わかる?私には遠くて分からないんだ」

二人とも、揃って北の方を指差した。

「近い?」

二人とも首を横に振った。

「そう……」

そんな話を二人としているとトイレの扉がノックされた。

「入ってまーす」

「私よ」

鍵を外して扉を開けるとモヨコが入ってきた。

そのままモヨコは扉を閉めて鍵を掛けた。

「ちょっとモヨコ、狭いよ?」

私は壁際ギリギリまで身をひく。

「我慢して?一緒に話した方が、話しが早い。あら?ミドリの他にもいたのね?初めまして、よろしくね」

アカリはその言葉にニコリと微笑んで応えた。

「それで、手伝ってくれるの?」

「ねえ、魔物が集中しそうなのはどこ?」

「圧倒的に北の門の方ね。騎士たちはそこに集中させているわ。他はまばらだから、冒険者にお願いしている」

「それは好都合。いいよ、手伝うよ。でも、騎士たちと連携する気はないし、他に用事があるから。道中の魔物を蹴散らすぐらいしかできないよ?」

「正直もっと当てにしたいのだけど……仕方ないわね。でも、用って?」

「他の精霊を見つけたんだけど、私の事が分からないし妙に攻撃的になってたんだ。結構危ない能力持ってるし放置するのは恐いんだよ。……ううん、そうじゃなくても単純に心配なんだ」

「そう。精霊って?」

「ミドリやアカリみたいなの」

「他にもいるのね。危ない能力って?」

「精神操作。あと、生命力を吸い取る」

「……それはそれは。まるで、あなたみたいね?でも分かったわ。私も一緒に行く」

「え、魔物の方が大変じゃんか」

「その精霊も放置してたら、街に害になる。放っておけないわ?それに、あなたみたく、生命力を吸い取るのよね?」

なら私との相性、抜群じゃない?、と私の頬を手のひらで撫でながらモヨコは言った。

「ちょっ!?」

私は逃げようとするが、後ろが壁でこれ以上下がりようがない!

モヨコは更に体を寄せてくる。私は顔を逸らして、なるべく距離を取ろうとする。

「あら、私の体のこと、心配してくれてるの?大丈夫よ?」


私に、あなたの能力は通じない。っと、モヨコは私の耳元で唇が触れるか触れないかの距離で囁いた。


「そうじゃなかったら、私との戦いはもっと楽だったのにね?魔力を直接ぶつけるなんて、手間かけなくて済んだのにね?」

ま、だから私は楽しめたのだけど、っと呟きながら彼女は私からようやく離れた。

昔、私たちが魔王と呼んでた肉団子には私の黒い靄は効かなかった。

おそらく肉団子の『産み出す』能力と私の『奪い取る』能力が相殺し合った結果じゃないかと、身内では推測していたけど実際のところは知らない。

私は胸元を抑えながら呼吸を整える。

「……今も生み出す能力あるんだ?やっぱりあの黒い犬って?」

「ええ、私が生み出してるの。ここに呼び出してみる?」

「やめて。もっと狭くなる」

モヨコの影から黒い犬が出てきた。

「何で出したのっ!?」

「……何となく」

「……まあ、いいや。じゃあ、行く支度しようっか?ミドリ、もう少し歌ってくれる?」

ミドリはコクリと頷く。今回はミィを助けるためだから協力的だ。

私たちは最小のボリュームに絞ると自分自身に『スピード』の魔法を掛ける。そして私と歴史家に『マジック』を掛けた。

「ねえ、ビィ。私にも、掛けて?」

「……聖女のお手並み、拝見させて貰おっかな?」

「……ケチね。『スピード』」

モヨコは拗ねた目で私を見ながら自分自身に魔法を掛けた。

「騎士たちってまだ屋敷にいる?」

「いるわよ。まだ支度しているハズ。でも、そろそろ出立の頃合いね」

「おっと急がないと。モヨコ、トイレ開けて」

「……開けないと、いけない?」

え、なんで嫌がってるの!?

私達がトイレから出ると、外で待っていた歴史家とギターを持ってきた騎士がギョッとした顔をしていた。

「……二人でされてたのですか?」

「いや、そんな訳ないじゃん。バカな事言ってないでピアノの部屋に急ぐよ?」

私達4人はピアノのある部屋に移動した。

歴史家は椅子に座り、騎士からギターを受け取ると軽く鳴らしてチューニングを調整し始めた。

私もピアノに座ると軽く指をストレッチする。

「何をされるのですか?」

事情を知らない騎士が訪ねてきた。

「音魔法でこの屋敷にいる騎士全員を強化するの」

「え、そんなに大勢に掛ける事ができるのですか!?」

「音が聞こえる範囲なら人数を選ばないからねー」

支援魔法の方が圧倒的に効果が高い。代わりに音魔法は圧倒的にコスパがいい。支援魔法より魔力を使わない癖に音が聞こえれば人数は無制限だし、持続時間も長い。

それに効果が微々たるのは1人の時で、演奏者が2人、3人と増えていくと効果が爆発的に上がっていく。使い手が少ないからなかなかセッションできないんだけどね?

今回は私と歴史家の2人だけど、そこは『マジック』で嵩上げてしている。

「じゃ、歴史家さんの行けるタイミングで始めて。私がそれに合わせるから」

「よろしいんですか?」

「セッション不得意なんでしょ?無理しないの。私なら大丈夫だから。じゃ、お願い。始めて」

「……わかりました」

歴史家がギターをかき鳴らして歌いだす。

私もそれに寄り添うようにしてピアノを弾いていく。

「あ、分かります。じんわり力が湧いてきてます」

「あら?私にも掛かるのね?」

やがて歴史家と私のギターとピアノが演奏を終えた。

「……ビィさん、何かされましたか?普段より高い効果だったようですが?」

「気のせいじゃない?じゃ、あとは二人とも手筈通りに。モヨコ、行こうか?」

私は席を立つと走り出した。

「あ、待ちなさい。って、早いっ!?」

私はあっという間に玄関の扉を開ける。扉を開いた先の屋敷の庭には領主様と大勢の騎士が鎧姿で並んでいた。

ざわついているのは、先ほどの魔法が突然掛かったせいか。

空を見上げると、綺麗な月が先ほどより高い位置に浮かんでいた。雲一つない。星が瞬いている。

屋敷の一部は焼け落ちていたが、既に鎮火済みだった。

「ちょっと、待ちなさいってば!」

後ろを振り向くと、必死な形相のモヨコと黒い犬が追ってきた。

「……」

私はそれをニヤニヤしながら確認すると、騎士たちの合間を縫うように駆け抜けていく。

「待ちなさい、待ちなさいってば!」

私とモヨコの登場にますます騎士たちはざわめいた。

「あ、父上。先に行ってます」

「あ、ああ。気を付けてな……」

私とモヨコと犬は騎士たちを通り過ぎると北の門に急いだ。


「って、良い訳ないだろ!?皆の者、モヨコに続け!」

領主様と騎士たちも慌てて馬に乗り、私たちに続いて北の門に向かったのだった。


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