寝起きは膝枕に限る
「……なかなか起きないね?」
「ええ」
あれ、私、また、ヤっちゃってないよね……って、さすがに不謹慎かと少し反省。
モヨコはあいかわらず辛そうな表情で目覚めない父親を見つめている。
顔見知りの騎士に襲われたり、父親から刺されそうになったり、モヨコも動揺してるハズなんだけど弱音を吐く様子を見せない。
ふむ。こういう時は、お願いするかぁ。私はウクレレを取り出すと
「ミドリ、いいかな?」
スッ、と私の傍らにミドリが現れた。
「!魔物っ!?」
モヨコが驚いて、かばうように自身の体で父親を覆った。
「違う違う!このコは私の友達!安心して大丈夫だから!……ん、魔物?」
何か引っかかるものがあったけれど、ミドリが髪を引っ張って抗議するので思考が中断した。
「っったい、痛いってば。モヨコ、魔物って言ったのは謝って?さすがに彼女に悪いよ」
「そ、そうね。ごめんなさい、突然だったから驚いてしまって。
ちゃんと見たら、知的だし、感情豊かだし、可愛いし、似ても似つかないわね」
昔の私の方がよっぽど……と、暗い表情で続けた。うん、さっき昔は昔宣言したんだから改めて落ち込むなって。
ミドリはモヨコの言葉で機嫌を直した。
「でね、彼女のために治癒の歌、歌って欲しいんだけど、ダメかな?」
ミドリは目を瞑って腕を組み、思案するポーズを取っていたけれど
やがて右手の人差し指と親指で輪を作り、OKのサインをすると片目を開けてニヤリと笑った。
おお、ミドリがやる気だ!音魔法の曲なのにやる気だ!ガネスが不憫になるぐらいやる気だ!
「じゃ、お願いね。いっくよー」
私はウクレレを弾き始め、ミドリは私の肩に座ると合わせて歌い始めた。
「……きれいな、歌声」
「っ!?嬉しいのは分かったけど、ミドリ、声量押えるか私の肩から下りて!?」
「あ。その、なんか、ごめんなさいね?」
「別にモヨコのせいじゃないから。ミドリのこと褒めてくれてありがとう」
「……私も、足が楽になったわ。ねえ、ビィって吟遊詩人だったの?でもビィは歌ってないわね?」
「吟遊詩人だよ。私は音魔法使えないんだけど、ね。これで領主様もだいぶ楽になるはず」
「ええ、ありがとう。それに、ビィも、その、演奏、とっても上手ね?」
「ありがと。それで、聞きたいんだけど。この屋敷に楽器ってある?少しやりたい事があるんだけど、コレじゃ心許なくて」
私は私のウクレレを顎でしゃくる。
「……そうね、心当たりは二つあるわ。一つは父の部屋にあるギター。もう一つは館の中央にあるピアノ」
「おお、いいね。ご領主様、ギター弾くの?いい趣味してる。ピアノは誰の?」
「母上の、だったわ。父上のギターは、その、母上と演奏したくて、って」
「へぇーそれはそれは」
私はモヨコの膝の上で眠る男を見る。
「まあ、今回はピアノかな。口で場所、説明できそう?」
「ええ。けれど、何をする気なの?」
「何って?ピアノだよ?」
弾くんだよ。
「……うぅぅぅ」
「!父上」
「……娘の膝枕というのも悪くないものだな?」
「母上に言いつけますよ?……良かった」
「なーに、許してくれるさ?……心配かけてすまなかった。危ない目に合わせてすまなかった」
「いいえ、母上はきっと、拗ねると思いますよ?……謝罪は不要、なのです。無事、だったのですから」
私は一人、牢屋の道を逆に進む。彼女の震える声が聞こえないフリをしながら。
親子の大事な時間だ。邪魔する気はないよ。私、そういうのよく知らないんだけどさ。それぐらい分かる。
「だからあなたも今は静かにね?」
「当たり前です。私、これでもロマンチストなんです」
でも後で色々教えてくださいね?っと付け加えたので私は頷いた。
まあ、歴史が好きな人間なんて大抵ロマンチストだよね。
さーて、私は私で空き時間でひと仕事片づけますか?




