モヨコ嬢は斯く語りき
「ある」
「そう。その候補は何人?」
「ひとつ」
その私の言葉に彼女は満足そうだった。
「そう。たぶんそれで合ってるわ。
……そんなに緊張しないで?お互い何ができるか、隠しごと抜きで話すには話しておく必要があると思ったの。あと、その、……ビックリするかと、思って」
「ビックリするってば。それにタイミングが悪過ぎ。……ホントに?」
「ホントに」
まあ、敵対するならカミングアウトするのは悪手か。
「ハァ。いいよ、信じてあげる。でもね、あなたが昔私が殺したあの肉団子だったとしてもさ、結局あなた何者なの?私、あの時、きっちりトドメ刺したよね?」
70年前にティーリス達との旅の末に滅ぼした肉の塊。
魔力を直接ぶつける、なんて荒っぽいことしたのって後にも先にもあの時だけだったから、それを知ってるモヨコはたぶんあの肉団子で合ってると思う。
と、思うのだけど、身内では魔王と呼んでいたその肉団子は確かに塵も残さず消滅させたハズだった。
モヨコは少し思案した後
「もちろん答えるわ?答えるけど、足を動かしながらで、いいかしら?その、私のせいとは、分かっているのだけれど、これでも割と急いでいるのよ?」
彼女は煙が未だ上がっている領主の屋敷を指差した。
「あ、ああ。ごめん」
私とモヨコはまた走り出した。
「……確かにあの時私はあなたに殺されたわ?」
わー、覚悟してやった事とはいえ本人にきっちり言葉にされると、なかなかメンタル削られるなぁ。
「その後に、領主の娘のモヨコとして転生したらしいのよ」
「転生」
「記憶を持ち越した上での、生まれ変わりね。……正直こんな記憶、要らないのだけど。前世の記憶、1時間弱だし」
「え、そんな短いの?」
それ、記憶持ち越す意味なくない?
「そうよ。あなたと殺し合ってた記憶しかないわ」
いや、うん、私加害者だけど。私加害者なんだけど。1時間弱しかない自分が殺されるだけの記憶って、ない方がマシなのでは?悪夢じゃん。
「……おかしなものよね?それまでも私生きてたハズ、なのよ。そうよね?それなのに、そこからしか記憶がないのよ。ねえ、それ以前の私ってどうだったの?」
「そうだね、生きてたよ。……あんまり聞いて楽しい状態じゃなかった、かな」
魔族の男、ウェイブの根城でひたすら強い魔物を生み出すのに使われてた。私は初め観た時、生き物だとは思わなかった。お肉で作った装置だと思ってたよ。
「そう。なら、いっかな。もう、私モヨコだし」
1時間弱のせいでそんな顔をされるのは、意に沿わないもの、っと彼女は付け加えた。
「え、私、どんな顔をしてた?」
「泣きそうよ」
「え、やだなー。そんな訳ないじゃない?笑い出すの堪えてたくらいだよ?」
「それはそれでどうなのよ?それでも謝らないのはさすが……いいえ、既にもうあの時謝ってたか。謝罪は不要だし、苛めたい訳でもないの。感謝してるくらい。死にたくないって強く思ってたけど、おかげで初めて生きてるって感じれたの。ここよ」
領主邸の門の前にきたので、二人とも足を止めた。
屋敷の中は不自然に静かだ。時折、金属の擦れる音や男の話し声が断片的に聞こえてくる。相変わらず館の一部は燃えており、鎮火作業をしている様子は伺えない。
夜の闇の中、炎の明かりが私とモヨコの顔をオレンジに照らす。照らされた肌の箇所だけが熱く、夜風がその熱を奪っていく。
「だから、前世の私があなたに言いたかったのは『ありがとう』ぐらいよ。恨んではいるけど、憎くはないわ。……じゃあ、行きましょうか」
「……わかった。……ん?分かったけど、分かんないんだけど?結局モヨコは何ができるの?」
「あ」
彼女は目を泳がせた。
「それはおいおい……。時間がないし行きましょ?」
ちょっと!?趣旨は!?お互い何ができるか知っときましょうって趣旨は!?




