袖すり合うも多少の縁?いえいえ、これは多生の縁ですよ
私はそっと飲み屋の扉を閉めるとその店を後にした。
別のお店で飲んだ私はそのまま取った宿のベッドに潜り込むとぐっすりと朝まで眠ったのだった。
久々にゆっくりとベッドでノビノビ寝たので早朝でも寝起きはバッチリだ。いやー、誰も追ってこないって、イイね?
そんな訳で、ギルドに行く前のミドリとまったりした時間を部屋で過ごしながら、スティックでビシバシと枕を叩きつつ、今後の方針をぼんやりと思い浮かべる。
とりあえず、ワンの街を出てきたものの目的地はない。目的はあるんだけどね?
私が世界と敵対するような謀略が本当にあるのなら、事が起きる前に停めたいところなのだけど。
本当にあるかな、そんなもの?糸口すら掴めず、終わる気すらするのだけど?
……なんとなく漫然とした不安を感じ始めたので、今晩はどこで飲もうかと思考をシフトする。
まあ、なるようになるだろう。残りは酒を飲みながらでも考えるさ。という訳で、
「ビィさんはF級ですか。依頼は薬草採取ですから問題ありませんね。頑張ってきてください」
「はーい」
私は今晩のお酒代を稼ぐべく、ギルドで今日も薬草採取の依頼を受注するのだった。
この辺だと、薬草はプルプル草だね。まあ、プルプル草は区別つくわ。
「はい。無事達成ですね。お疲れさまでした」
「はい、ありがとうございましたー」
今日のノルマもこれで終了ー。じゃ、飲みに繰り出すかー。
「あ」「あ」
仕事も終わったので良さげな飲み屋を選んで中に入ろうとしたところで昨日の少女と鉢合わせした。
私も彼女も気まずそうな表情をしているので互いに察する。
「……どうぞ」「……どうも」
出て行こうとする彼女に道を譲ると、互いに視線を合わせないようにして横切った。
関わらない。私は関わらないぞ?
すれ違った少女はそのまま夜の雑踏に消えていった。
「……」「……」
今日もお酒を飲もうと思ったら、別のお店でまた例の少女と鉢合わせした。
「……あのさ?」
「いえ、何も言わないで?大丈夫、大丈夫だから?私、このサラダ食べ終わったらすぐ出て行くから。ね?だから互いに見なかった事にしましょ?そうしましょ?」
「……わかった」
「あ、嬢ちゃん、今混んでるから相席でいいかな?」
例の少女と同じテーブルだった。
「……」
「……」
「……」
「……わかってるわよ、何も言わなくても!急いで食べてるんだから何も言わないでちょっと待ってよ!」
プレッシャーに耐えきれず、何も言ってないけどキレられた。
「いや、もう、その、ゆっくりでも何でもいいよ。もう、構わないからさ、ね?」
幼気な少女が涙目になりながらサラダを頑張って咀嚼してる姿はイッソ嗜虐的になりそうで困る。
いや、年齢的にはたぶん今の私とそう変わらないんだけどね?
「おっちゃん、ひとまずエールひとつ」
「あいよー」
私は注文を終えると、黙々とサラダを咀嚼する彼女を観察する。
「あのさ?サラダを残して出て行くって選択肢はなかったの?」
「ないわよ?このサラダに申し訳ないでしょ?すぐ食べ終わるからもう少し待ってよ?」
「いや、だから今更だしもう急がなくていいよ?というか、もうこれ、無視し続けるの無理じゃない?」
モシャモシャ
「……明日には私、この街発つわよ?」
おっと、これは私の我慢がたらなかったか。
「あと1日分我慢すれば良かったかぁ。なんかごめん」
モシャモシャ
「あなたは悪くないわ。私が迂闊に口にしたのがいけなかったの」
「……ねえ、初対面だよね?」
モシャモシャ
「たぶん、初対面よ?」
「たぶん?」
モシャモシャ
「難しいの。でも私の事、見覚えないないでしょ?」
改めて彼女を観察する。物静かそうで落ち着いた雰囲気のある女の子。
寒そうだなとは思ったが黒いノースリーブの服を着ていた。ただ、一致する知り合いは一人もいなかった。
「はい、エールお待ちー」「お、ありがとー」
私はグラスを傾けててエールを煽る。
「プハァ。美味い。
うん、そしてやっぱり知らない」
モシャモシャ
「でしょうね。
……あなた、ご飯は?」
「酒だけでいいよ。
……初めて会った時に驚いた理由を聞いても?」
「ダメよ?ちゃんと栄養は取らないと。そんなにお酒って美味しいの?
……私が知ってたのは次の二つだけ。『あなたが王都にいたこと』そして『最近王都で勇者と今代の聖女が出現したってこと』。だからあなた、もうしばらく王都にいるものだと思ったのよ?」
「美味しいよ。ご飯はねぇ、あんまり食欲湧かないタチだから。夜はお酒だけでいいんだよ。
……ふーん、赤の他人の私がどこに居たか知ってる、ねぇ?どこ情報なんだか?」
「いけないわ?美味しいご飯は生きる活力なのよ?食べないと、明日も頑張ろうと思えないわよ?
……余計なお節介で教えてくれるのがいるのよ。しれっと自分の情報は教えてくれないのね?別にいいけど。で、どうする?もっと踏み込む?そろそろ知り過ぎじゃない?」
「ご忠告痛み入るよ。でも私は活力よりも今日の辛苦を癒したいかな。ほら、百薬の長って言うじゃない?
……確かにそろそろ切り上げ時かなぁ?ただ、ココに私がいるの、そんなに驚くことかな?」
「飲んで食べれば万事解決じゃない。私も飲んでみようかしら?
……私の予定ではね、今朝から王都に行って、着いた頃にはあなたはツヴァイに行ってるだろうから鉢合わせしないで済んで、勇者と今代の聖女を確認したらまたこの街に戻ってるくる予定だったの。それが3日前から予定が狂いっぱなしよ?」
「必要になるまで飲まなくていいんじゃない?私も必要じゃないから食べてないだけだし?
……今朝から?」
「そ。なんか職場に頭のおかしいお客様がやってきて、一日休暇が延びたの」
「あちゃー、それはご愁傷様。一口飲んでみる?」
私はエールのグラスを彼女に向ける。
「遠慮しとくわ。そこまで辛いと思ってないし……あなたと話す機会ができて、その、とても、なんというか……それなりに楽しかったわ。それじゃ、食べ終わったし私は行くわ」
彼女の皿を見るといつの間にかサラダは消えていた。
「そっか。私も楽しかったよ。うん、いつかま」
ズドゥゥゥッッッン!!!
別れの挨拶を交わしてるところにお腹に響く破裂音が鳴り、お皿とグラスを揺らした。
彼女と二人して外に出て周りを見る。
すると、たぶんこの街の領主が住んでいるであろう大きな邸宅から黒い煙があがっていた。
隣りの彼女の表情をちらりと窺ってみると、とても苦い顔をしてこうぼやいた。
「まだ延びるのかしら、私の休暇……」
……やっぱり飲む?




