表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、高木様  作者: dede
28/45

反転する月時計


私は今、大きなT字路に立っている。

左には『ツヴァイ』。右には『トゥルブ』。背後には王都だったらしい『ワン』だ(さすがに名前は知ってた)。


「む~」

かれこれ5分立往生している。

素直に進むならツヴァイだ。これから寒くなるので南へ向かう旅人は多い。

この国の食料が集まる都市としても有名だ。だからここで食料を買い込み、冒険に出たり商売するものも多い。

しかし思う。私ツヴァイの方から来たんだよ。なんか戻るの、つまらなくない?

右を見やる。人がまばらで閑散としている。そっかー、みんな寒いの嫌いかー、私も嫌いだー。

「むむむ」

私はウクレレを取り出して地面に立てた。

悩むのに飽きたのでウクレレに決めて貰おうと思う。

私は手首にスナップをきかせると、独楽みたいにウクレレを回転させた。

「うおっと!?」

くるくる回ったウクレレは私の方へと倒れてきたので慌てて横に避けた。私の方に倒れてきたという事は、だ。

「……ハァ。まあ、ありがちだよね……って」

はたと、ウクレレを掴もうとする手を止めて、ウクレレのネックが指す方を見やる。

そこには、王都にある学園の大きな校舎が見えた。

「さすがにもう、それはないわっ!!」

どんな顔してノート君やタカネと会えばいいのさ!?


「いえ、戻られては如何です?王都に」

「は?」


声のする方に顔を向けると、身なりの良い、やせ型の少し神経質そうな青年が立っていた。

「しばらく見させて頂きましたが、どうやらお嬢さんは王都を発とうかお悩みのご様子。お節介ながら声を掛けさせて貰いました」

「はぁ……」

正しくは右に行くか左に行くかで迷ってただけなのだが。


「迷われていたという事は用事がある訳ではないのでしょう?それなら、もう少し滞在された方がいいでしょう」

「えーと、なんで?」

「歴史の変わり目に立ち会えるからですよ」

青年はニヤリと笑う。

「これは極秘で入手した情報なのですが、なんと今、王都に新たな勇者と聖女が誕生したそうなのです。近々お披露目があることでしょう。王都を発つのはそれからでも遅くないでしょう?」

「はぁ……」

「おおっと、反応が薄いですねお嬢さん?さてはご存じでしたかな?」

「ええ、まあ」

「ということは、ツヴァイとトゥルブ、どちらに行こうか迷ってらっしゃるのですね?」

「まあ、そうですけど」

「勇者と聖女を旅先で待ち伏せする出待ち組でしたか。これは失礼。正解はツヴァイですよ。過去の勇者の旅をなぞるハズですから」

「なるほど」

つまり行くとしたらトゥルブってことな。理解した。

「色々とご説明、ありがとうございました。それでは」

「え、あれ?ちょ、ちょっとお嬢さん?そちらはトゥルブですよ?ツヴァイは反対です」

「はい!それでは!ごきげんよう!」

私は駆け出した。


「……ついてくるなー!」

「ついて行ってもいいじゃないですかー?」

「いいわけあるかー!」

ひょろひょろとした見た目の癖にやけに体力があった。というか、何故に追われてるんだ私?

「そもそもお前誰だよっ!」

「わたくし、『歴史家』のサクジと申します」

「そんなロールねぇーよ!?」

「魂の職業です」

なにそれカッコイイ……とでもいうと思ったか!ただの趣味じゃねーか!

「それでは自己紹介も済んだ事ですし、今後良しなに」

「私の方が済んでない!する気もない!」

「いえいえ。私の興味を惹いた、それだけで充分ですよ?」

あれだけ勇者と聖女を頑なに避けてるのです。何かありますよね?

「絶対つき止めさせて貰いますよぉ?」

こちらを見る目が完璧に捕食者のそれになっていた。

「親から、美味しいお菓子貰っても知らない人についてかれちゃダメって言われてるんだよ!こっち来んな!」

言われた事ないけどな?

「フフフ。なるほど。ご実家は裏稼業をされてたんですね?」

こっちはこっちで邪推しすぎだ!ウチの実家は農家だ!あと私この数日叫びっ放しなんだけど!?そろそろ普通の距離感で会話したい!


王都ワンに隣接するもう一つ都市、トゥルブ。

騎士の収穫量が国内一で有名な街である。

「よっしゃ、ようやくトゥルブの街に着いた!」

私はそのまま街の衛兵の詰め所に駆け込んだ。

「ちょっと衛兵さん衛兵さん、助けて!」

「どうしたお嬢ちゃん」

「知らない男にずっと付きまとわれて困ってるの」

私が指差すと、その先でサクジが「待つがいい!」と叫びながらこちらに走ってくるのが見えた。

「お、おおう。そりゃ災難だったなお嬢ちゃん」

「ええ。とっても怖かったわ」

「もう安心だ。我々に任せたまえ」

そういって衛兵さん達は心強く請け負ってくれた。

私は入門の手続きを済ませるとそそくさとトゥルブの街に入っていく。

後ろに「待ちたまえーっ!?」「通させん!」というやり取りを聞きながら。


いや実際トゥルブより、ツヴァイとの交流があるのには寒さとか食料以外にも訳がある。

遠いんだよ、トゥルブの街。ツヴァイは約3日だがトゥルブは10日掛かるんだよ。

そこに私たちは3日で到達した。

……3倍の速度!別に急ぐ理由なんてないのに!あの変態歴史家のせいで!

というかご飯要らない私についてくるってアイツ、どんなスペックしてるんだよ?

まあ、いい。あの歴史家とはここでおさらばだし。歴史家名乗ってくる癖に王都での歴史の変わり目とやらに立ち会えなかったんだと思うと少し溜飲が下がった。

さあ、疲れた疲れた。こんな時は酒だー。

ってことで、もうそろそろ日が沈みそうな時刻だし、飲み屋で一杯ひっかける事にした。

適当に良さげな飲み屋を見繕うと、早速に中に入る。


「……驚いた。あなた、こちらに来たのね?」


少女が言った。知らない少女がそう言った。

いや、お前も誰だよ?


3日って、何かを投げ出すには十分な時間だと思うんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ