さよならはいつだって(自己都合により)突然に
「ティーリス、ありがとよ。これ、本当に私にとって最高の服だわ」
「喜んでもらえてよかったよ。これでまだ王都に滞在できるな」
「いや、私は行くよ?」
「なに?」
ティーリスが怪訝な顔をしたが、もう行くと決めていた。
「前の服より大好きだけど、やっぱり前より遮断する力が弱いんだよ。そんなにグズグズしてられそうにないんだわ」
「だからって急じゃないか?数日ぐらいは大丈夫だろ?」
「いや、正直出る気満々だったから。もう気合入れ直すの面倒なんだよね?」
「……そっか。じゃあ、いいわ」
「え、それでいいのかよ!?」
ガネスさんはどうやら納得いかなさそうだが、ティーリスはくたびれた感じで手の平を振る。
「遅かれ早かれ、だ。名残惜しいが、逆に言えばそれ以外に理由がない」
ティーリスは口にしないが、聖女にも会ってしまった後だしね。後はシミュル家が後見人してくれるかどうかなんだけど、正直私は魅力薄いんだよなぁ。
「まあ、二人が納得してるなら赤の他人のオレがとやかく言えねーけどさ?」
「バカ野郎!3日間一緒に飲み歩いた仲じゃないか!私とお前らはもうマブダチだよ!ポンヨウでもいいよ!」
「……名前、分かるか?」
「え、ほら?あれだろ?……ほらあれだ!」
「せめて俺の名前は出せよ!?」
「いや、大丈夫大丈夫!覚えてるって……ガネスさんだ!ガネスガネス!ほら、ちゃんと覚えてるだろ?で、二人が……」
「名乗った覚えないって言ってるぞ?」
「せめて言えよ!?あとココぐらい喋れよ!?」
二人がガネスに耳打ちする。
「……ここまで来たら一貫したいんだと」
「私のマブダチ宣言返せ!」
「お前もその前に名前ぐらい聞けよ?ん?」
二人が更にガネスさんに耳打ちする。
「「とはいえ、ココまで楽しかったぜ☆」「貴重な体験をさせていただいたでゲスよ」」
「二人分、大変だなぁ……」
「なんで二人とも口調変えて喋るんだよ!?」
「え、キャラ変えてるのかよ!?」
「……すまん、二人ともシャイなんだ」
ガネスさんの後ろでおっさん二人がとてもニヤニヤしてた。絶対違う!
「……とはいえ、ホントに一緒に過ごせて楽しかったよ。酒はうまかったし、生きてるうちに精霊様の御姿を見れるとは思ってなかったわ」
ガネスさんはカラカラと笑っていたが、それはティーリスがひと睨みするまでの事だった。
「ほぉ?お前らも俺の酒を飲んだか?」
「あー……」
「……ま、俺もいいものを見させて貰ったよ。老い先短い身でまさかミドリ様達が揃われてる姿をまた観れるとはな」
「全員じゃないよ?」
「一人でも貴重な存在だ。あれだけ揃われて一同に歌われるなど、神話級だぞ?……いや、お前に言っても仕方ないことか」
日常的に入れ代わり立ち代わり集まって歌って踊ってるからね。私んトコ、溜まり部屋みたいになってるんだけど?
「ビィんとこ、何かとすげーな?まあ、誰にも喋れないんだけどな」
「ごめんね、私このまま行くから。受付のミルチェさんにはよろしく伝えといて?」
「え、このまま?せめて食料とか……もしかしてお前、普段から飯、いらないのか?」
「……」
「うん、そうだよ。便利でしょ?」
「……ああ、便利だ。不思議と羨ましいとは思わないが。人生の半分損してないか?」
私はウクレレを掲げる。
「その半分は色々と補ってるから大丈夫」
「ま、人生の楽しみ方は人それぞれだよな?じゃ、さよならだ。またどこかで」
そう言ってガネスさんが右手を差し出してきた。
私がその右手を握れないでいると、彼は強引に右手を掴むとギュっと強く握り、またすぐに放した。
そしてニカッと笑った。
「こんぐらいなら、大丈夫だろ?」
「……どうなるか、分からなかったってのに。ちゃんと許可取るって言わなかった?」
「次から取るって。今回は許可くれなさそうだったからな?」
「……ばーか。そのうち大けがしてもしらないから。……死ぬなよ?じゃ、ティーリス」
「おう」
「すまないがシミュル家の皆に不義理を働いちゃった詫びを頼む」
「ったく、面倒をかけやがる」
「元々お前が言いだした事だろうが?あ、これ渡してて。滞在費って」
私は手持ちの金を全額ティーリスに渡した。ティーリスは一応受け取ったが嫌な顔をした。
「受け取って貰えなさそうなんだが?」
「その時は孤児院に寄付するなり、お前が貰ってくれればいい。ああ、あとお願いしてた事も頼む」
「もちろんだ」
「……またな?すぐ戻ってくるから、それまでくたばるなよ?」
「知らんな?寿命なぞ知らんから早くお前の方が戻ってこい。ドラムの練習も怠るなよ?」
「あはは。なるべくそうするよ。じゃあな」
そうして私たちは暫しの別れとなった。
数日後、ティーリスは流れていく羊雲を眺めながらつぶやく。
「あいつは今頃、ツヴァイの街に着いた頃か……」
その頃、私はこう叫んでいた。
「よっしゃ、ようやくトゥルブの街に着いた!」




