プレゼント
9/19 さすがにあんまりだったので曲名を消しました。それに合わせて微修正。
「いい機会だし、ミドリー、治癒の歌、たまにはリクエストしていい?」
ミドリはイヤそうにフルフル首を振る。
「でもあなたがケガさせたんだよ?」
ミドリは足元で痺れているガネスさんを見下ろす。ミドリは諦めたように頷いた。
「うんうん。ありがとね」
私はウクレレを取り出すと、音魔法『治癒の歌』を弾き始めた。それに合わせてミドリが歌っていく。うんうん、歌ってくれるのはいいんだけど、20m先は遠くて聞き取りづらい。音ずれてないかな?大丈夫かな?
「……おおっと、すげーな?」
痺れが取れたらしいガネスさんはむくりと上半身を起き上がらせた。足場が急に動いたのでその場に立っていたミドリが今度は地面に倒れこんだ。
「ビィ、魔法使えるじゃないか?嘘ついてたのか?」
「いーえ?ミドリに歌って貰わないと使えないんだわ」
「自分では歌わないのか?」
「歌うと私の半径20mよりヒドイことになるよ?」
ガネスさんが顔をヒクつかせた。
「これよりもか?」
「これよりもなんだよ」
ほんと、ビックリだー。
「でもミドリ様が歌ったら音魔法発動するんだろ?」
気が付けばガネスのミドリの呼び方が様付けになっていた。
「するんだけど、ミドリ達を人前に晒したくないし、そもそも音魔法の歌嫌がるんだよ」
「え、なんでだ?」
「なんか、吟遊詩人がみんな音魔法しか歌わないから嫌なんだって。まあ、私も嫌だけど」
流行りとかならいざ知らず、ホントに効果があるのしか歌わないだよね。もっと色んな音楽、演奏したり歌ったりしようよ。
「ああ、実用的なもんに偏りがちだもんなぁ。さすがにダメとも言えないが……」
「ああ、まったくもって嘆かわしい」
「言い回しが歳より臭い」
しばらく一階をブラブラした後、食料を受け取りにまた入口に戻ってきた。
「お、上等な食材使ってるじゃないか。こりゃティーリスさん奮発してくれたな」
「良かったじゃん」
「ビィも食べるだろ?少し離れるから、食べ物取りに来いよ」
「ん?あ、私はいいよ」
「遠慮するなよ。さすがに腹が減ったろ?」
「私いらないんだよ。ずっと食事中みたいなものだからさ。それより、追加のお酒って届いてない?」
「ない」
「ティーリスってばケチだなぁ」
「持てるギリギリまで酒をガメてきたお前が言ってもなぁ……」
ようやくガネスさん達の食料を確保できたので、本格的に最下層を目指すことにした。
「……つってもなー、ほぼ歩くだけなんだけどな?」
と、20m後ろをトボトボとついてくるガネスさんがボヤいた。
「だから声張れつってんだろーが!?20m舐めんなよ?もう、ほんと、何言ってるかぜんっぜん分かんなーい」
「トボけてるのか本当に聞こえないのか微妙で反応しづれーな!?」
声出るじゃん。
「まあ、気持ちはわかるけどさ。魔物の対応しなくていいし」
「それが一番時間掛かるから楽でいいんだがな?ココ、トラップもないし。これ、確かに依頼内容ダンジョン散歩だわ」
「まあ、折角だからお喋りしながら楽しく行こうよ?ほら、散歩って気分転換にイイらしいよ?」
「閉塞的で息が詰まるわ。おまけに話すのに声張らなきゃならんし!」
まあ、確かに。そもそも全員酒瓶片手にラッパ飲みしながら歩いてる時点で退廃的すぎる。
「まあ、いいじゃん?とりあえず、ダンジョン、ゥエーイ!」
「「「ダンジョン、ゥエーイッ!」」」
私が酒瓶を掲げると、ガネスさん達も酒瓶を頭上に掲げて謎の掛け声に乗っかってくれた。
つまるところ、散歩も飲み会も、目的じゃなくて誰とって部分が大事なんだとつくづく思う。
おかげで私は、私のイヤなところ全開状態なのに、さほど滅入らずに済んでいる。
始めはアレだけ一人で大丈夫だと言っていたけど、今では一緒に来てくれた事に感謝し始めていた。
「ところで、ビィ。そろそろミドリ様の事を止めてくれないか?」
もちろん、今はガネスさんを帯電させて髪の毛を逆立たせるのに夢中なミドリにも感謝してる。
「ちょっ!?マジで恐くて何にも触れないんだけど!?」
「粗茶です」
ことん、と、お茶の入ったカップが目の前に現れた。
「あ、どうも」
「飲んだらとっとと帰ってください」
「やだなー、今来たばかりじゃないですか?」
「迷惑すぎるんだよ、あんたら!?俺のダンジョン荒れる一方じゃねーか!!」
2日目、のかなり早い段階で最下層についた。
「ごめんね、明日までいる予定なんだ」
「ふざけんなよバカっ!?」
ダンジョンマスターのコボルトが泣きそうな顔をして地面を叩いてる。
「さんざん、さんざんコツコツと溜め込んできてようやくココまで安定させたってのに……あ、悪夢だ……」
「その……飲む?」
「……くれ」
「ミドリ、お願いしていい?」
コボルトを哀れそうに眺めていたミドリはこくりと頷くと、まだ未開封の酒瓶を持ってコボルトのところに飛んで行った。
「すまない……え、精霊様!?」
「じゃ、全員に酒がいき渡ったな?じゃ、ダンジョン、ゥエーイッ!」
「「「「ダンジョン、ゥエーイッ!」」」」
「ちなみに本当に悪いとは思ってるのよ。実際どう?ダンジョンが崩壊とかしちゃうレベル?」
お互いに酔いが回ってきたきたところで、少し腹を割って話すことにした。
「……いや、大赤字は間違いないがそこまでは行かないわ。一応、溜め込んでたからな」
「ごめんね、なんかそのうち貴重品見つけたら持ってくるよ」
「は、期待しないで待ってるよ」
「ところで、さ……、私の所にきた魔物って、クリエイトじゃないヤツっていた?」
「ん?いや?そもそも知恵があるような奴だったら間違いなくお前さんに近づかないって」
「そっか。……うん、なら良かった」
「……そのツラは良かったツラじゃねーがな?ま、飲みな?……まあ、届かなくてすまないんだが」
私に尺をしようとして、できない事に気づいて弱った顔をしていた。
その様子に私はクスリと笑うと
「気持ちだけ貰っとくよ。そっちも飲んでね。なんせタダ酒だ」
「バカ野郎、さっきも言ったがお前がいる時点でこっちは大赤字なんだよ!?」
コボルトが泣きそうな顔で叫んだ。
3日経ち、ダンジョンの入り口に戻ってみるとティーリスが約束通り待っていた。
「間に合って良かった」
「結局渡したいものって何だったのさ?」
「お前の新しい服だ。普通の服だと心もとないだろ?もともとお前に渡すために作る準備をしてたんだが、急に出ていくと言われて焦ったぞ?」
「……へぇ、いい服じゃん?こんな、すぐ作れないでしょ?どうしたのさ?」
「なに、みんなのヘソクリをかき集めた結果だ。ティスクも、クリフも、ケインも、みんなお前に何か残したくて死ぬまで素材を集めてたのさ。俺もな」
「……バッカだなー。……着てもいい?」
「もちろんだ」
私はティーリスから受け取るとその萌黄色した服を早速着てみた。
着てみると、私からにじみ出る何かが確かに緩和した。それ以上に何か、包まれている安心感があった。
ミドリが突然歌いだした。ミドリだけでワンフレーズ歌い終わると
アカとクロ、アカリとハッパも現れて珍しく踊るでなく、一緒に歌いだした。
伴奏もなく、アカペラだけで奏でる精霊たちの大合唱。
「え」
最後ワンフレーズとなったところで、タカネの所にいるはずのメラとスイも慌ただしく現れて合唱に参加した。
たったワンフレーズだけを歌い終えると、また慌ただしく去っていた。
服が黄金色に光り出す。
「メラも、スイも、なんで……」
光が治まると、服は茨に包まれており、その茨が蠢くと、周りを威嚇しながら戻っていく。
そして残ったのは情熱的に真っ赤に揺らめく意匠の服だった。
「……ほぅ、こうなるか」
「……この服。すごく気に入った」
「銘を『野薔薇姫』と呼ぶらしい。普段は浅黄色だが、魔力を込めると赤くなり、使い手のために茨で反撃するらしい」
「……なあ、もしかしてファインティングローズの花って使ってる?」
「ああ。最後まで集まらなかった素材だ。ギリギリで集まってよかったよ」
「それ受けたの、私だったなぁ」
「え、マジか」
自分へのプレゼントの素材を自分で採りに行ってたのか。あまつさえ、その道中で元の服はタカネにあげちゃったよ!
……でも、ま、いっか。おかげで聖女とも薔薇とも仲良くなれたんだし。ましてや今や薔薇ちゃんは私のもう一人の相棒なのだ。
私は服を撫でる。服の赤が揺らめいて、なんだかそれが喜んでいるように思えた。
「あ、ごめん、忘れてた」
私は自分の体を抱き締めて、ティーリスに、それに、その後ろにいるであろう皆に言う。
「ありがとう、皆。最高のプレゼントだ!絶対一生大事にするよ!」
にじんだ目にはティーリスを含めてみんながニヤニヤしてた気がした。
うん、こういう時、みんなニヤニヤして、ほんと、マジで、意地悪なんだよな。私が泣きそうなのを我慢してる時に限ってさ。
まったく、生きてたら顔にパイを投げつけてたところだ。




