だから私は大丈夫
「あ、ガネスさん、チィース。どうしたんです、こんな夜中に?」
「おう。入るぞ?」
「おう、チィース。入るね」
「……誰です?この妙に馴れ馴れしいお嬢さんは」
私達はダンジョンに着くとダンジョンの出入りを監視している若いギルド職員に挨拶をした。
ギルド職員は始め怪訝な表情をしていたけれど、私を見てすぐに納得したようで
「ああ、どこかのご令嬢のダンジョン案内なんですね。こんな夜分に人気冒険者は大変ですね」
「……そんなところだ。これ、ギルドの許可書」
「はい、確認しま……これ、期間が3日間ってなってますよ?30分の誤りですよね?」
「いや、正しいし、書類は正式なものだ。ギルドに問い合わせればいい。じゃあ、俺たちは行くから」
「あ、ちょっ」
職員は何か言いたそうだが、ガネス達はそのままダンジョンの中に入った。
「……え、マジで3日間?」
「はい。じゃあ、3日後にまた」
「あ、はい。また……」
私も遅れてダンジョン内に入った。ダンジョンは、オーソドックスな洞窟タイプだった。
「さて、嬢ちゃん。目的と、これから俺たちはどうすればいいか教えてくれ」
「ん?目的は済んだよ?ダンジョンに入れれば良かったんだから。後は適当に過ごしてて。3日後一緒に出てくれればそれでいいよ。それじゃ」
私はスタスタと待っていてくれたガネスさん達を追い越してダンジョンの奥へと進む。
「あ!?ちょ、ちょっと待てよ嬢ちゃん」
ガネスは去っていこうとする私を掴もうと手を伸ばしてきた。それを私は躱す。
「触るな」
私の態度にガネスは両手をあげながらついてくる。
「なあ、嬢ちゃん。ミルチェにああ言った手前、嬢ちゃんを絶対無事に送り届けなくちゃいけない。それに護衛依頼も受けてる。勝手に一人でウロウロするのは止めて欲しい」
「それなら大丈夫だから。放っておいてくれていいよ。できれば一人の方がありがたいんだよね。だからじゃあね」
「それは絶対に許容できない。なあ、勝手しないでくれ。目的を、教えてくれ」
「私がダンジョンにいること」
「はぐらかすな」
「本当だよ。一人で大丈夫だよ、だからバイバイ」
「ウソだな。身の動きが不自然なのは認めるが、魔法も使えないし服もない。一人じゃ無理だろ?」
私はピタリと足を止めて弱り顔で振り返る。
「案外、責任感あるんだね?」
「ただ強いだけじゃAは名乗らせて貰えないからな」
私は再び歩き出す。
「わかった。いいよ。ひとまずの目的は最下層かな?別に辿り着けなくても構わないのだけど、目的なしで歩くのもつまらないしね?」
「最下層?ココのダンジョンは15階だが、たぶん三日で往復は厳しいぞ?」
「たぶん大丈夫だけど、別にいいんだよ着けなくても。移動し続けていれば。ただ、私に10m以上近づかないでよね」
ガネスはため息をついた。
「随分嫌われたもんだな……」
「そうじゃない。他の人も絶対近づけないで欲しい」
「は?それってどういう……」
「……そろそろいいかな。ミドリ!」
私の呼び声と共にミドリが現れた。
「なっ!?精霊っ!?しかも人型だとっ!!」
「……ありがとうね、ミドリ。お疲れ様。もう頑張らなくても、大丈夫だよ」
私は人差し指の背でミドリの頬を撫でる。ミドリは心配そうにしていたけれど、やがてスッと力を抜いた。
すると、徐々に私の身体から何かにじみ出てきて、私の体より外に溢れると、徐々に周りに広がっていく。
「……おいおい、何の冗談だ、嬢ちゃん?」
「……あ、ごめん。10mじゃ無理そう。もっと離れて」
言ってみたものの、ガネス達は全然動きそうになかったので私が走って距離を取る。
結果として20mだった。私を中心に20m内で、土が乾き、草木が枯れ、壁を這っていた虫が死滅した。
「もぉ!離れてって言ったじゃんか!死にたいの!」
私は20m離れているガネス達に呼び掛けた。
「あ、ああ……すまん、衝撃的で……あれ、触れると死ぬのか?」
「死ぬよ!だから言ったじゃんか、一人の方がやりやすいって!頼むから私に人を近づけないでよね!」
「あ、ああ。分かった」
ガネス達がトボトボと私についてくる。しかし、思って以上に範囲が広い。どうも2次成長期の私の体は思った以上に飢えてるらしい。
ミドリは、具現化したまま私の頭の上に乗って私の頭を撫でていた。
「なあ、嬢ちゃん。これ、何だ?」
「知らん!」
私は力強く断言した。だってなー、物心ついた頃からこうだしなぁー、80年調べたけど糸口も掴めなかったしなぁ。
「まあ、一日ぐらい待ってよー!そしたら私の魔力も回復して少しはマシになるからー!」
「……収まりはしないのか」
「それは無理ー!」
どうでもいいけどお前もっと声張れよ!距離遠いから聞き取りづらいんだよ!
「あ」
行く先にゴブリンを見つけた。向こうもコチラに気が付くと、襲い掛かろうとこちらに駆け出してきた。
途中までは勢いが良かったものの、20mを境に動きが緩慢になり、やがて膝をつき、倒れた。
これは違う。生き物じゃない。ダンジョンマスターが冒険者を呼び寄せるために作った疑似生命体。仮初なの、だからだからだから…………。
「……………………ごめん」
ゴブリンは絶命し、やがて干からびていった。
「……なあ、もしかしてさっき、俺が触ってたらヤバかったのか?」
「……わからない。でも恐すぎて誰にも触れて欲しくない」
「その、すまなかったな。今後軽はずみな行動は気を付けるよ」
「そうした方がいいと思う。相手にも事情がある。触れて貰って喜ぶ場合もあるんだろうけど、許可は取った方がいいよ」
「ああ、そうする」
私はリュックからティーリスの酒を取り出して栓を抜いた。そのままラッパ飲みで一気に煽る。
「かーっ!」
2週間ぶりぐらいのお酒は内臓に染みた。熱い液体が下っていくのが分かる。
「嬢ちゃん、本当に飲むんだな?」
「三人も飲む?」
「いいのか?」
「一人で飲むより人と飲んだ方がいいに決まってるじゃん!あ、でも酔って近づかないでね。ここに、置くから拾ってね」
「なあ、……その、ビィ。あの服についてなんだが」
私たち4人はそれぞれ酒瓶を片手に歩いていく。順調だった。当たり前だ。魔物は近づく先から絶命していく。
「なに?」
「結構、っていうか、相当重要だったんじゃないのか?あれを着てた時はさほど警戒してなかったよな?」
「そうだね。あれね、外部から身を守ってくれるけど、根本的に内と外を遮断する仕組みなんだ。だから、私のこれが外部に漏れるのをだいぶ抑えてくれてた。全部じゃないけど」
私はコボルトの亡骸を避けながら答える。うん、ごめん。
「それでも全部は無理、か……」
ガネスがダンジョンの壁に触れるとボロボロと崩れていった。
「それを譲っちまったんだ?」
「私より必要だったから」
「ビィにも必要だっただろう?」
「程度の問題よ。私のは、ホラ。死ぬわけじゃないし、山奥やダンジョンに籠っていれば比較的迷惑を掛けないから。私は大丈夫だよ」
「それが大丈夫、か。ミルチェが気に掛ける訳だ」
「ミルチェさんが?」
「ああ」
「まったく。本当に大丈夫なのに。これさ、私が怪我したり、魔力が減ったりすると特に元気に発動するんだよね。で、勝手に周りから何かを吸い取って私を回復させるの。だから私が死ぬことって滅多にないんだよ?」
だから私は大丈夫なんだよ。
「そうは思えんけどな?」
そう言ってガネスは酒を飲みこんだ。
「美味いな、この酒」
「うんうん、でしょ?ティーリスの秘蔵なんだから」
「「「ゴチになります、ティーリスさん」」」
「なあ、ビィは精霊遣いなのか?」
「いや?違うよ?なんで?」
「その、頭に乗せてるの、精霊だよな?人の形をしてるって事はだいぶ高位の」
ガネスは私の頭の上で寝そべりながら頬杖ついてるミドリを見ていた。
「ああ、ミドリのこと?友達なんだよ。お願いすることはあるし、利いてくれる事もあるけど……、ほら、友達が多い人を人間遣いとは言わないじゃん?あくまで私たちは対等なんだよ」
頭の上でミドリが足を振りながらドヤ顔でご機嫌そうに鼻歌を歌いだした。頭が揺れるから足を振るのは止めて欲しい。
「そっか……。付き合いは長いのか?」
「人生のほとんど一緒だったよ」
それを聞いて軽く鼻で笑った。
「人生って、まだ十数年そこらだろうが」
するとミドリが私の頭から飛び立ってガネスに足蹴りをかました。20mが一瞬だった。
「あだっ!?」
蹴りを額に受けたガネスはそのまま地面に倒れこんだ。
そこからミドリは容赦せずにフッドスタンプを仕掛ける。
「ぐはっ!?」
まあ、大きさが違い過ぎるからさほどダメージがあるとも思えないけど。
あ、どうだろう?そういえばガネスが起き上がれないでいる。
「……なぁ、ビィ。ミドリ様の属性って?」
「雷」
「通りでピリピリすると思った」
ミドリがガネスの腹の上で人差し指を立てて腕を上げると勝ち誇った表情をしていた。




