ボケるにはまだ早い……と主張したい
「呼んだのはお前だろうが、ティーリス・カーティス!」
「ガキに呼び捨てされる覚えはないぞクソガキ!」
10代女子と80ぐらいの爺さんが怒鳴りあってる絵面はなかなかヒドイもんだった。
「あ!?誰に向かってそんな口聞いてんだお前っ!?」
「は、ふざけんなクソガ……ちょっと待て。なんか見覚えあるツラ構えしてるな」
「おおよ!」
「そうだな、俺の若い頃……70年ぐらい前ぐらいに、そう、お前みたいな顔した……」
「いただろうさ」
「……ビィか?ビィ・ミヨリアか?」
「おおよ!」
「……の、孫か?」
「ちげーよ!?今、本人って言っただろうが!」
「いや、しかし随分と……若作りが過ぎやしないか?」
「どうでもいいからそろそろ家に上げろや?あと酒な」
「え、その見た目で飲むのか?」
「ハァ。久しぶりだから忘れたのか?私といえば酒、酒と言えば私よ!あー、もういい。勝手にあがる。お邪魔しやーす」
そう言って私は返事も待たずにティーリスの脇を抜けて家に上がり込む。
そもそもいつもの私なら何も言わずに上がり込んでた。これでも気を使ってるのだ、こんな見た目だから。
「……ほう、行ったダンジョンで罠踏んだら、時間逆行の罠だったと」
「そうそう」
何だかんだでティーリスは酒を出してくれたのでこれまでの経緯を素直にゲロッた。
「……見た感じ、80……まではいかないか、75年ぐらいか?やべーな、人族なら即死だぞ?俺だって幼児でダンジョンから戻って来れる気がしねーし、たぶんおっ死んでたわ」
「そうな」
そう応えてジョッキのエールを煽る。疲れた体に冷えたアルコールが心地いい。
「いや、ダンジョンの方も想定外だろうさ。90超えてダンジョン潜ってる現役冒険者がいるなんてさ。……なんつーかさ?」
「おうよ」
「呪われてるな、お前?なに?前世で相当悪い事したんじゃねーの?魔王やってたとかさ?」
「かもしれん」
私自身、相当疑ってるよ。老い先短いと思ってたから蓄えなんてまるでないよ!スゴロクで言えば終盤で振り出しに戻るぐらいにショックだわ。
ムカムカしたので残ったジョッキのエールを全部飲み干す。
「んー、おかわり!」
「もう止めとけ」
「あ?いつものペースじゃんか?」
「体に良くないからそれぐらいにしときな?……ビィは、そりゃ嫌だろうがオレは正直嬉しいんだ。折角若くて健康な体になったんだ。もっと体を大」
ゴンッ。ウクレレを投げつけてやった。
「うっせー小僧!私の体ぐらい私の自由にさせろや!いいから酒持ってこい!」
「……わかったよ。だがな、オレは長生きして欲しいんだ。それは忘れてくれるなよ?」
ティーリスは、今度は酒を注いだジョッキを持ってきてくれた。それを私はグビグビと煽る。
「あーもう。ほんとさ、歳が近いリーダーが先に死ぬのは仕方ないけどさ?次は絶対私だと思ってたのに!」
「……流行り病だ。仕方ないさ」
「一番若かった癖してだらしない!チキショー!」
「……言ってくれるな」
「……あ、そういや忘れてた。私を呼んだ用って何だった?」
「……ああ、それな。クリフがな、この間、死んだ」
「…………………………なんでさ?」
「暴走した馬車が突っ込んできたらしくてな」
「……ハッ!現役時代、あんだけキレッキレの動きしてたクリフらしくもない!」
「もう歳だ。無理を言うな。俺もな」
私の言葉を聞いてティーリスは悲しそうな表情をした。違うそうじゃない。責めてるんじゃないんだ。ただ私は……これ以上失いたくないだけなんだ。
「……葬儀は?」
「……身内だけでな。俺も参加してない。後で墓参りだけさせて貰った」
「そっか。なあ、ティーリス。3つお願いがある」
「そこそこ多いな。なんだ?」
「クリフの墓に明日案内して」
「もちろんだ」
「お金貸して」
「……金額次第だな。残りは?」
「今からセッションしようぜ?まだ叩けるんだろ?」
するとティーリスは老けた顔に少年のような表情を浮かべて
「当たり前だろ?ビィは?ウクレレか?ギターか?ピアノか?」
「ドラムだろ?ギターに決まってるじゃん。貸してくれ……って、あるよなギター?」
「当ったり前じゃん!」
そう言って、爺の割には軽快な足取りで楽器のある部屋に案内するのだった。
指先を見た。左手の指先にかさぶたが出来ていた。
いやさー、ホント、私呪われてるわー。




