薔薇さんと一緒
「ねえ、タカネ。お湯って出せる?」
「出せるよ?どうしたの?」
「帰る前に血を流して貰えるとすごく助かる」
「ああ……」
タカネの髪や顔にべったりとついた血はすっかり乾いていた。
こんな姿の女の子と街中を歩いていたら誰だって呼び止めたくなるだろう。
「じゃ、服脱いで。そこに小川があったから、お湯を浴びてる間に洗ってくるよ」
「え、脱ぐの?さすがに二人きりとはいえ、屋外で脱ぐのは恥ずかしいというか、あ、でもビィも脱ぐんだったら別に……」
「それこそ何で?うーん……あ、薔薇さん、この子の回りを蔦で囲める?」
するとファインティングローズは蔦を動かしてタカネの回りに衝立を作ってくれた。
「さっき、この蔦で熊を仕留めてたよね?この蔦の横で脱ぐの……って、さっきから会話してない?もう絶対植物じゃないよね!?」
「植物だよ?偉い人にはそれが分からんのですよ、って言ってたし」
「それ言ってる学者さんって確かエライんじゃなかったの!?」
蔦の衝立越しに私の持っていたタオルを渡すと、代わりに血が染み込んだ服を受け取って川に洗濯にいく。
川で血を流していると、蔦の衝立の裏から「いたたたたっ、あつつつつっ」と、お湯を浴びるだけなのにタカネが賑やかにしていた。
蔦に服を干して戻ってくると、私の服を着て湯上りで上気しているタカネが髪を拭いていた。
「あ、ビィ。なぜかやたらお湯の出が良かったんだけど、本当に何もしてない?」
「薔薇の蜜を舐めたからでしょ?傷もきっとそれですぐ治ったんだよ」
「そういえば!へぇ、そんなに薔薇の蜜ってすごいんだ」
タカネが感心したように薔薇の方を見る。
一方薔薇は蔦を前方でクロスさせると、花弁を左右に振った。
「……なんか、違うって言ってない?」
「すごいと思われてもう一輪って言われても困るだろうからね」
「あ、そうだ。私の薔薇の花ってどこに在るか知らない?起きてから見当たらないのよ」
「ああ、それね。ココ」
私は耳たぶを指差す。
「ココ?……あ」
彼女の指先が右耳についた赤く揺らめく薔薇のピアスに触れた。
「ごめん、勝手にピアスにしちゃった。あ、作り方は内緒ね?まあ、性能は保証するから良かったら使ってよ」
「ビィの想いが込められたピアス……もう、私一生外さない!」
「それは不衛生だから止めて」
あと込められたのは私の想いじゃなくて、ミドリ達の加護だから。なので一生モノぐらいな性能にはなってるはず。まあ、本人たちはキャッキャしながら楽し気に作ってたから良い娯楽になったみたい。
「あれ、でも私ピアスの穴なんて開けてなんか……まさか寝てる間にビィがっ!?」
なんで穴開けられて頬を紅潮させてるの。
「開けてません。それ、ノンホールピアスだから」
「でも、付けては、くれたんだよね?」
「……うん、まあ」
「ふへへ」
この子本当に私に殴られたって自覚あるんだろうか。ってか、この子聖女なんだよね?さっきあんな事言ったけど本当に大丈夫か心配になってきた。
「服乾くまでまだ時間かかるけど、お腹空いてきたね」
陽気はいいし、気持ちいい風が適度に吹いてるから、すぐに乾くと思うけどね。
「ま、気長に待とうよ。干し肉ぐらいならあるよ」
すると、薔薇が気を利かせて、蔦を近くの樹に伸ばすと樹上から果物を何個か取ってくれた。
「あ、ありがとう……。もう、植物かどうかなんて、どうでもよくなってきたよ」
「ありがとね。助かるわ」
薔薇は構わないとでも言いたげに蔦を左右に振る。
「……ビィ、薔薇さんと仲良くなりすぎじゃない?私が寝てる間に何かあった?」
「ええ?何もないよ。ねぇー?」
私が首をコトンと横に倒すと、合わせて薔薇も花弁を倒した。
「私よりも仲良しッポイ!?ちょっと!忘れてそうだけど、さっきまで薔薇さんに滅茶苦茶殴られてたんだからね!?」
あーそんな事もあったっけ。まあ、私はケガしてないしなぁ。
「それにしても、ここに随分いるけど魔物って始めの一匹だけだよね?この時期って引き寄せられるって言ってなかった?」
「んー?まあ、いない分には楽でいいじゃん。それより、これから何する?」
「あ、じゃあ、ビィのウクレレ聞かせてよ。さっきは寝ててちゃんと聞けてない」
「いいよー」
そうして二人と一株は穏やかな午後の陽気の中、服が乾くまで楽しく過ごしたのだった。




