憂鬱な聖女様と教鞭を振るう女王様
「あの、本当に私ですか?ノートさんじゃなく?」
「はい……」
私は大して関わり合いのなかったタカネ嬢と、無目的に川沿いの道を歩いていた。
タカネ嬢と会うのは今回で2度目だが前回と打って変わって随分と大人しかった。
「その、……お元気ですか?」
うん。なんか違う。ただ、同性で10代の知り合いとかいた記憶がないのでこういう時にどう声掛けすればいいのかさっぱりだ。
「いえ」
しかも返事はNOときた。メンタル弱り過ぎじゃない?
「あの、……私の事って何か聞いてますか?」
「神託の件ですか?」
「それです。それの事でご相談したくって。……あの、私、冒険者の知り合いってあなたしかいなくて、その……」
知り合いって言っても、一度だけしか顔を合わせてないんだけど……いや、別にいいんだけどさ。苛めたい訳じゃないし。
「大丈夫ですよ。役に立てれるか分かりませんが、私でよければ相談乗りますよ。で、どうしたんです?」
「はい……その、本当に聖女としてやっていけるかどうか心配で……」
「ああ、そういう事ですか。大丈夫ですよ?」
「え?」
「え?」
「だ、大丈夫ですか?」
「は、はい」
「でも、その、私って授業で数回魔物を倒したぐらいで闘う事なんかまるでダメで……」
「大丈夫ですよ?」
「え、いやその、本当にですか?」
「あ、でも、大丈夫のレベルにもよりますかね?」
「大丈夫の、レベル?ですか?」
「ええ。あ、そうだ。タカネ嬢、今お時間大丈夫ですか?一緒に冒険しに行きましょうよ」
「受付さん、今日も依頼お願いします」
「はーい、今日も薬草集めですねーって違ーう!?なんで?ねえ、何で!?
どうして安全な依頼を受けてくれないのよあなたは!」
「だ、大丈夫ですよ。今日はちゃんとパーティー組んで行きますから」
「パーティー?うっそだー。ボッチバードのビィさんが?」
「ホントですって。ホラ」
「ど、どうも」
受付嬢さんがタカネ嬢の姿を確認すると私の襟首を掴んで額に頭突きをかまし額を突き合わせたまま手で口元を隠して声を潜めた。
(ちょっと、今噂の聖女様じゃないの?どうやって引掛けてきたのよ?)
(人聞きが悪い)
(スキャンダルは困るんだけど?)
(心配するような事はないですって)
「……ハァ。ふーん、ファインティング・ローズの花の採取ね。二人だし、あなたなら大丈夫かしら。
まあ、失敗してもいいからケガだけはしないで帰ってらっしゃい?」
「やった、ありがとう受付さん。大好き」
「……私の名前はミルチェよ。じゃ、気を付けて行ってらっしゃい」
「はい」「い、行ってきます」
依頼が受理された後、私とタカネ嬢は街の外を目的地に向かって歩いていた。
「あの、ところで受付さんがボッチバードって呼んでませんした?」
「さあ、張り切ってお仕事しようか!」
「……あの、ファインティング・ローズってどんな魔物なんですか?」
「魔物じゃないですよ。ただの植物。ちょっと特殊ですけど」
「そうなんですか?場所は分かってるんですか?」
「すぐそこですよ。ほら、あれ」
私はトゲだらけの茨が蠢いてる茂みを指差す。
「……あの、ビィさん?動いてませんか?魔物じゃないんですか?」
「違うらしいですよ?よく知らないんですが、エライ学者さんがそう言ってるらしいです」
「へぇー。でも、こんな近くの植物の花の採取って簡単な依頼ですね?」
「そうでもないんですよ。……ちょっと静かにしてくださいね。こっちの茂みに隠れましょう」
私たちが茂みに隠れ切った後に、反対側からエビルグリズリーが現れた。
(魔物!?)
(シッ)
幸い魔熊は私たちに見向きもせずに、茨の茂みに近寄って行く。
いよいよ魔熊がその茨の茂みに手を掛けようとした、その時
ベチンッ!!
「ひぃっ!?」
魔熊は胸元から脇腹まで深くえぐり取られ、成すすべもなくその場に崩れた。
「といった感じで、この時期のファインティングローズに近づくと蔦にハタかれます」
「いや、そんな生易しいもんじゃないですよ!?なんであの熊も近づいちゃうんですか!?」
「それはですね、匂いを嗅いでみれば分かりますよ。ほら、鼻を効かせてください」
「……血なまぐさいですね」
「それじゃないやつ!」
「……あ、こんなに離れてるのに、ほんのり甘い匂いが」
「この時期の花にはたっぷりと蜜と、それから魔力を溜め込んでいるんです。それはもう甘いんですよ♪理性では歯止めが利かないぐらいには」
「……でも、だったらどうするんですか?迂闊に近づいたらミンチですよ?」
「逆にタカネ嬢ならどう対応します?」
そこでようやく私任せになっていた思考が戻ってきたらしい。思案顔でしばらく考えた後
「ん……そうね、燃やしちゃうと花もダメになっちゃうし、うーん、氷漬けなんてどうでしょうか?茨の鞭なら初動を押さえればあの威力も出せないでしょうし」
「いいですね、悪くないです。でも一瞬でやっちゃってくださいね?」
「一瞬でできないとどうなるんです?」
「奪われると勘づかれた瞬間自爆します」
「とりあえずアイツ植物じゃないわよ!」
「薔薇の女王と呼ばれる所以です。花言葉が、「純潔」と「高潔」って納得過ぎるでしょ?」
「わからなくはないですけど、植物離れし過ぎです」
動いていたり、自爆したりする部分に引っかかりを覚えているようだった。
「でもだったらどうするんです?流石に一瞬で氷漬けにできる自信はないですよ」
「元々は魔法職だったんですね。聖女の能力ではどうです?」
「そっちはもっとだめです。使い方がまだよくわからないの」
「なるほど。じゃあ、やっぱし今回は私の出番ですね。少し離れて見ていてください」
私はウクレレを手に取ると、薔薇の方に歩み寄る。
「あ、なるほど。眠らせる音魔法ってありましたね!……植物にきくんですか?」
後ろでブツクサ言っているけれど、私は構わず近づく。
「ねえ、ビィさん。そろそろ弾き始めないと。あの、近過ぎやしませんか?ちょっ、近い近い!」
私は十分薔薇に近づくとこういった。
「あなたの薔薇を一輪ください!」
ベチンッ!!
「ひぃっ!?死んじゃっ!?……って、生きてる?」
「この服、丈夫だから、大丈夫!……ね、お願い、一輪だけだから!」
ベチンッ!!
「大丈夫、摘むとき痛くしないからさ?ね?ね?」
ベチンッ!!!
「いや、あなたの花って本当に綺麗だからさ、どうしても!」
ベチンッ!
そんなこんなでかれこれ20分
「いよ、憎いね、この、若大将!」
……ペチンッ。
すっかり茨の勢いもなくなってきた。
「……ねえ、本当に大事にするから。お願いします」
……。
遂に薔薇が諦めたかのように私をはたき続けていた蔓を引っ込めると、茂みのツルの絡まりが徐々に解け出し、真ん中から真っ赤な薔薇の花が一輪現れた。
「ありがとう!薔薇さん、大好き!」
私は一度その薔薇を撫でると、そっと摘み取ったのだった。
「……とんだクレイジーね。その服があったとしても正気の沙汰じゃないわ」
ドン引きしたタカネ嬢からは敬語と表情が抜け落ちていた。
「そうですかね?まあ、きっと他にもやり方はあるんでしょうけど。私、他に口説き落とし方、知らないんですよ」
「ハァ、もういいです。それにしても、それが貴重なファインティング・ローズの花なんですね?ギルドに提出する前に、私にも見せてくれませんか?」
「あ、そっか」
私はファインティングローズにもう一度向き直ると
「ごめんなさい、あと、もう一輪くださいませんか?」
ベチコンッ!!!!
もう一発貰った後もう一輪貰った。
ちなみに襲ってきた魔物を糧にして薔薇は更に美しく咲きます。




