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拝啓、高木様  作者: dede
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人差し指はココ、中指はココで、ほら、簡単でしょ?


「ってな事があったのですよ」

「そうか。……こちらが確認しなかったのも悪いのだが、魔法の使えない吟遊詩人だと聞いて私は今随分と驚いているよ」

「あれ、私もティーリスさんも話してませんでしたか?」

「ああ」

シミュル家の面々と夕食をとりながら、今日の出来事を報告する。

「その、危なくないのかしら?」

奥さんが、心配そうに問いかける。

「冒険者ですから、危険はつきものですよ!」

「その危険への対抗手段がないのが問題なのです」

「……ひとまず、その服があればケガすることはないのだな?」

ご当主は私の実情を聞いて何かと葛藤しているようだった。

「それは大丈夫です。でも、どうでしょう?後見人の話はやはりなかったことにしましょうか?」

「……いや、ティーリス殿にはああいった手前、1ヵ月は様子をみさせて貰う。それに、冒険者としての能力はともかく、人柄は気に入っているのだ」

「それは、どうもありがとうございます」

そんな堂々と人格を肯定されると、なんともこそばゆかった。


「ケイン様の音楽室ですか?」

「はい、少しこの後練習したくて」

「なら、僕が案内しますよ」

夕食後、使用人の一人をつかまえて、部屋の場所を訪ねているとノート君が案内役を買って出た。

「あ、場所を教えて頂ければ一人で行きますよ」

「僕も行きたかったので丁度良かったです。一緒に行きましょう」

と、一人で先を歩きだしてしまった。仕方ないので私もついていく。

「ノートさんは何の用ですか?」

「……ビィさんが楽器を弾くと聞いて、私も興味が湧いたのです」

ほお、それはいい。同好の士が増えるのは願ってもない事だった。

「それはいいですね。手始めにギターなどどうでしょう?初心者にもとっつきやすいですし、人気な楽器ですから楽譜も豊富です」

「そうなのですか?」

「ええ。特にケイン様はギターの名手でした。色気を感じさせる演奏で、数多の女性を夢中にされてました」

「祖父様の演奏を聞いた事があるのですか?」

「……ティーリスさんがそう仰ってました」

「なるほど。あ、ここです」

ノート君が一室の扉を開ける。

中に入ると、さほど広くはない部屋には小さな机と、2つの本棚には楽譜がぎっしり詰まっていて、壁にはギターが5本と見慣れない弦楽器が一つ、あとレイピアが2本飾られていた。あとバケツが一つ置いてある。

音楽室といっていたが、ほとんどケインの私室だったようだ。ギターもレイピアもバケツもケインが愛用していたものだ。ただ、不明な弦楽器については知らなかった。

「この弦楽器は?」

「三味線というそうです。異国の楽器らしく、近年はずっとそれを弾いてました」

「そうなのですね」

また知らないケインが顔を覗かせた。試しに三味線の弦を指で弾いてみる。聞きなれないけれど味わいのある音がした。

「そういえば、僕はまだビィさんの演奏を聞いたことがありません。一曲お願いしていいですか?」

「いいですよ。ギターとウクレレどっちがいいですか?」

「どちらも弾けるのですか?……では、後学のためにもギターの方で」

「わかりました。では、しばしの間お耳汚し失礼します」

そういって壁に掛けてあったギターの1つをとり、少しかき鳴らす。少しチューニングを合わすと弾き始めた。

曲はお馴染みの『勇者様のサーガ』のショートバージョン。ケインを意識して、少し艶を出して弾いてみる。


「……すごかったです。その、ともかくすごかったです」

そんな言葉と共にノート君から拍手を頂いた。

「ありがとうございます。でも私なんてまだまだですよ」

「そんなことないですよ。すごかったです」

でもそんなことあるんだな。他にもっと上手な人をたくさん知っているし、私自身まだ筋肉が足りてない自覚はあるのでまだまだと感じてしまう。

「さて、では今度はノートさんが弾く番ですね」

「え……私でも弾けるでしょうか?」

「大丈夫です。始めは簡単な曲から始めましょう。よく見ていてくださいね」

私はもう一本ギターを取りチューニングを合わせてノート君に渡す。

「まず、左手で抑える弦はこうです」

「こうですか?」

「そうではなくて、えーとですね……ああっと、ちょっと失礼しますね」

普段は感覚で弾いているため、正面から押さえてる弦を見てもよくわからなかった。

仕方がないので私はノート君の後ろに回ると肩越しに、ノート君の左手を見る。ようやく理解できた。

「えーとですね、人差し指がココで、中指がココ、薬指が……」

私はノート君の指を一本一本定位置に移動させると、その手に被せるように手を重ねて抑え込む。

「今の位置で、これぐらいの力で抑えてください」

「え、えーと……その、結構力要るんですね?指先が痛いです」

「剣術されているので握力は十分だと思います。痛いのは慣れです。じゃ、鳴らしますよ?」

私は左手はそのままに、今度はノート君の右手を持つと、リズミカルに弦を弾いていく。

「あ……ちゃんと曲になってる」

「ね、難しくないでしょ?」

私はうまく弾けたことに気を良くして微笑みかけた。

「え?」

「あ……、失礼しました」

私はパッとノート君から距離を取る。

「まあ、このように音楽はけして特別なものじゃありません。練習は必要ですが、積み重ねていけば自由に演奏できるようになりますよ。剣術と同じです。

それに、人と一緒に音を重ねて楽曲を完成させていく工程は、また違った喜びがありますよ?」

私は音楽の素晴らしさを熱弁した。

「その、ビィさん。敬語、止めませんか?ほら、一緒に住んでるんですし、歳も近いじゃないですか?」

「ノートさんが止めるのは良いと思いますよ。私はダメですが」

「なぜですか?」

「ノートさんが貴族で、私が平民だからですよ。線引きは大事です」

「僕が敬語を止めろと言ってもですか?」

「強引ですね?でも私はあなたに仕えてる訳ではありませんから。去るだけです」

「そうですか……変な事を言いました。忘れてください」

「いいえ。親しみを覚えて頂いたことは光栄です」

「……私が人並みに上達したら、一緒に演奏してくれますか?」

「こちらこそ是非。楽しみにしています」

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