逢魔ヶ刻
「ってな事があったのですよ」
「そうか。大変だったな。だが、ミルチェも冒険者の生死には敏感な奴だからな、許してやってくれ」
「わかるけどさー」
「何はともあれ、初任務おめでとうビィちゃん。はい、お茶」
「ありがとうございます。でも、できればお酒の方が」
「出さないわよ?」
「ティーリスさん?」
「出さんぞ」
「ちぇ」
私は出されたお茶に口を付けた。お酒の方が良かったが、出されたお茶は美味しかった。
「しかしもう夕方だぞ?教えるには時間が短すぎる」
「元々今日は依頼とミドリ達の相手に使うつもりだったし。昨日の約束がなかったら来るつもりなかったもの。ま、触りだけお願いしますね」
「ミドリ様達か。懐かしいな。お変わりないか?」
「あいかわらずですよ。今日も歌って踊ってました」
「そうか。何よりだ。私も久しぶりにお姿を拝見したいものだなぁ」
昔の様子を思い出しているのだろう。ティーリスが遠くに目を向けていた。
「ティーリスさんなら或いは。まあ、でも気まぐれだから」
「ああ、ただの俺の願望だ。今度会った時によろしくお伝えしてくれ」
「たぶん聞こえてますよ?」
「それでもちゃんと伝えたいのさ。覚えていたら頼む。じゃ、今日は少し触って練習法だけ覚えて帰って貰うとするか」
ティーリスの家を出る頃には夕暮れ時も最高潮直前だった。
すっかり白色からオレンジ色に様変わりした太陽が、地平線に着くか着かないかぐらいのところをウロウロしていた。
まだまだ夏の気分でいたのに、季節は着実に変わりつつあるなと実感する。
やれやれ、シミュル家に着く頃にはだいぶ暗くなってそうだと一人ゴチりながら家路を急いだ。
「あれ、ビィさん?」
十字路を曲がった時に声を掛けられた。振り返ってみると、綺麗な女の子を連れたノート君が歩いていた。
「ノートさん?今学園からのお帰りですか?」
「ええ。ビィさんは?」
「私はティーリスさんの家に行った帰りです」
「今日は依頼も受けたんですよね」
「ええ、まあ」
「家に帰ったらお話聞かせてくださいね」
「面白い事なんて何もありませんでしたよ?」
「……ねえ、ちょっと?」
ノート君の横にいた女の子が不機嫌そうにノート君の服を引っ張った。
「ノート、私がいるのに二人だけで話をしないで。この方はどなた?」
「ほら、昨日話しただろ?うちに住む事になったって」
「お初にお目にかかります。ビィ・ミヨリアと言います」
私は名乗って頭を下げた。ノート君と親し気に話せてるってことは、きっと彼女も貴族なんだろうな。
「……女の子だったの。私は、ノートの幼馴染でクラスメイトの」
その時すっと世界が陰り、気温が下がった気がした。太陽が地平線の下に完全に潜り切ってしまったらしい。
「タカネ・ワイルドです。よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
「ねえ、あなた。もしかして学園に入学するの?」
「しませんしません。たかだか一か月シミュル家に御厄介になるだけですから。ノートさんは、タカネ嬢を送り届けている最中ですよね?先に帰ってお伝えしときますね。それでは失礼します」
私はそう告げると、足早にその場を後にした。
うん、なんでココの人は私の顔を見ると何かと学園の話をしたがるのだろうか。興味ないってば。
しかしノート君も隅に置けないね。あんなカワイイ女の子が幼馴染とか。人生勝ち組だよ。いや、貴族のご子息ってだけで勝ち組だけど。
そりゃモテる事に無頓着になってもしょうがないか。無頓着でいいかどうかはともかく。
ま、タカネさんはバリバリ意識してるけど、ノート君はまだ意識してないみたいだったし、きっとこれからかな?
一緒に住んでるというだけでタカネさんから随分と警戒されてしまったのは仕方ないか。カワイイね。
まあ、一か月かそこらの仮住まいだ、勘弁して貰いたい。精々二人の距離を縮めるのに活用してくれたらいい。
そのうち二人の話をツマミにお酒を飲みたいもんだ。あー、お酒飲みたい。




