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第27話 お姉ちゃんは12周目で折れる part7

 不穏な幕開けとなったお茶会だったが、セレナの緊張がほぐれていつもの調子を取り戻せば和やかな時間に早変わりした。

 ラウル王子も私も時間を忘れて雑談に花を咲かせてしまった。

 このまま三人でお友達ごっこを続けて12周目を終えるもの有りかもしれない。そんなことを考えてしまうほどに幸せな時間だった。


 現実逃避を始める頭を振り、本題に入るための言葉を選ぶ。

 違和感なくセレナにデッラ・バレルナーゼを紹介したい。

 ここまで墓穴を掘り続けている私だ。少しでも不審に思われない方法を取りたい。


「殿下、婚約者探しの進捗しんちょくはいかがでしょうか」


「それを聞くか。リリーナ嬢は怖い者知らずだな。実は先日も父に釘を刺されてしまってね。わたしも頭を悩ませているところだ」


「お好みのご令嬢はいらっしゃらないのですか?」


 セレナが踏み込んだ質問をするとラウル王子は僅かに眉を動かした。

 それが演技なのか、無意識的なものなのか私には判断がつかなかった。


「秘密だ」


「もしも、好意を抱いているお方がいらっしゃるのなら、陛下にお伝えするのはいかかでしょうか。私の姉は『好きな人と結ばれることが本当の幸せだ』と教えてくれました。簡単なことではないと思いますが、だからこそ惹かれる言葉なのだと思います」


 ものすごく恥ずかしい。体が熱くなり、縮こまる。耳まで真っ赤になっているに違いない。

 まさか、ここでその話を出させるとは思ってもみなかった。


「なるほど。リリーナ嬢の言いそうなことだ。気に留めておこう」


 僅かにセレナの肩が震えた気がする。何か引っかかることがあったのか?


「ときにセレナ嬢、きみに好きな男はいるのか?」


 強引な話の持って行き方だ。

 これではラウル王子の好きな人がセレナだと捉えられてもおかしくないが、妹はどのように受け取ったのだろうか。


「いいえ。特定の男性はいません」


 セレナは真面目な顔でそう答えた。

 嘘だ。私には好きな人がいると言った。それとも私に嘘をついてるの?

 セレナは優しくて強い女性だ。アッシュスタイン家の未来を考えて、ラウル王子の婚約者になるために体を張っても不思議ではない。


「それなら良かった」


 そんな安堵した顔を見せてしまって良いのか不安になってしまった。

 これで期待するな、と言う方が酷だ。

 彼はやっぱり私の心を察することなく無慈悲に言い放つ。


「一人会って欲しい男がいるのだが、頼まれてくれるか?」


 なんてずるい言い方をするんだ。

 こんなの断れるはずがない。それを見越して発言しているのであれば、ラウル王子はとんだくせ者だ。

 私なら何とかして会わない方向に話を持っていく努力をするが、セレナはそうしないだろう。

 案の定、彼女は迷わずに頷いた。


「助かる。わたしの面目を保てるというものだ」


 私は膝の上に置いた手を握り締めた。

 この追撃もずるい。

 私とラウル王子の二人で始めたことだが、あまりにもセレナに不誠実すぎる。

 嘘をついて好きでもない男と引き合わせて強制的にハッピーエンドでしょ、なんて都合の良い話があるか。


 ふと横を見るとセレナと目が合った。不安の色がにじんだ目だ。

 10周目の卒業記念パーティーでラウル王子の手を取ることに躊躇していた時と同じだった。

 あの時と同じように、彼女の背中を押すことはできない。

 この瞬間、私の心は決まった。

 立ち上がって抗議しよう。セレナもきっと、それを望んでいるはずだ。

 

 膝に力を込めて、両手をテーブルの上に出した。その時、私の靴が軽く蹴られた。

 顔を上げると無表情のラウル王子が私を見ていた。

 その目は「覚悟を決めろ」とでも言いだけだった。


「リリーナ嬢には申し訳ないが、セレナ嬢はわたしと共にある場所へ向かう。同行は遠慮してくれ」


「っ……はい。分かり、ました」


 私は目を伏せて、浮かせた尻を椅子に押しつけた。

 セレナを見つめ返すことも、ラウル王子をにらみ返すこともできず、ただうつむいた。


 胸が締めつけられる。

 これが彼なりの気遣いであることは分かっている。

 だけど、納得はできなかった。

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お読みいただき有難うございます!
「君を愛することはない」と言った夫に呪いをかけたのは幼い頃の私でした
こちらもよろしくお願いします!
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