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第三話



『蒼井・・・桜!!』


真珠は楓をくすぐっているコーチを見て、震えた。

この人の演技をビデオで何回見ただろう。

何回真似をしてみて・・・自分が滑っているとき蒼井桜ならどう滑ったかなんて

何回考えたろう・・・


『あのノクターンの・・・ 私の目標の人が・・・楓のコーチ!! 』


真珠は驚きのあまり目を見開いたまま動けなかった。


楓はくすぐられ過ぎでゼーゼー言ってヨダレをたらして白目をむいている。


「懲りたか! サル娘! 」


蒼井は楓の耳元で大きな声でしかった。


『ちょっとイメージがちがうけど・・・』



もっと女らしい人だと思ったら以外に男っぽいので真珠はまたビックリした。

しかし、楓はどんなにくすぐられていても四段重ねの弁当だけは手放さなかった。


「ん? それは・・?」

「これは、親友のコブタちゃんのお母さんが作ってくれたお弁当です・・・へへへ」


「弁当?」


にっこりと真珠に笑顔を向けた。


「そして、彼女がコブタちゃんです・・・親友です☆ マブです☆ ソウルメイトです☆」


そういうと楓はすこし赤くなった。


「バカ! コブタじゃないでしょ! 鈴原です! 鈴原真珠です!」


慌てて真珠は蒼井に自己紹介をした。

蒼井はやさしく真珠の手をとり、さっきとは別人のようににっこりと微笑んだ。


「このサルが色々迷惑かけたね・・ありがとう・・お弁当まで・・・」

「い・・・いえ・・・そんな・・・」


真珠は感激して顔が真っ赤になり鼓動が早くなった。うまく喋れない・・・

蒼井は真珠の手を話すと楓の荷物と弁当をもぎ取った。


「おら! 行くよ!! 」

「あ! 先生 お弁当は私が・・・」


楓と蒼井は弁当を引っ張り合いながら更衣室の方に向かった。

真珠は蒼井に握られた手を大事そうにもう一方の手で包み顔に近づけ、ぼーっと2人の行った方向を見続けていた。


「ちょっとアッチ系ね・・・この子・・」


松山コーチ達は真珠と話している人物があの元オリンピック選手の蒼井桜だとは気づいていない。ただキレイな女の人と話している真珠を見て引率に来ていた相沢コーチにひそひそと冗談まじりで噂していた。

しかし真珠の目は至って正気の目だった。



『蒼井さんは現役時代・・・どの要素もレベル4を獲得した完璧なスケーターだった。』


合わせられた手に力が入る。


『だとすれば・・・楓も・・・相当なレベルに鍛え上げてるに違いない・・・』


真珠は今まで無い危機感を感じた。

バッグに手をかけ、考え込んだ。


「あの・・・松山先生・・・」


松山コーチは相沢コーチとの話を辞め振向いた。


「一人で集中したいので・・・ギリギリまで外にいたいんですけど・・・」

「・・・・・・」


松山コーチはしばしだまったが、すぐに返答した。


「わかったわ 出番までには戻りなさいよ」

「ありがとうございます・・・」


そう言うとそのまま真珠はリンクの建物の裏の方に向かっていった。


「へー珍しいね・・・いつもならデータデータで必ず人の練習も演技も見てるのに・・・」


相沢は幼い生徒の手をつなぎながら、遠ざかる真珠の方に目をやった。

松山コーチはその言葉に何も返せずじっと真珠の背中を見ていた。


                           ★


その会場はすこし広めの公園と隣接していてリンクの建物の裏に少し広めのスペースがありキレイにタイルが敷き詰められ、いちょう並木で公園と区切られていた。


『よし、ここなら人目も少ない。』



真珠は持ってきたバッグのチャックを開けた。中からフィギュアスケート靴ではなくインラインスケートでやはりつま先にトゥピックの代わりにゴムのストッパーのようなモノが付いている。

そのスケート靴を真珠はつけはじめた。


『出番まであと3時間くらい・・・』


紐を何重にも縛るので時間がかかる。


『3トリプルアクセルの成功率を少しでもあげなければ・・・』


片足を履き終わり、もう片一方の足にスケート靴を通した。

空はマバラな雲が早く流れ、時間が刻々と流れていることを感じる

                          


                            ★


「おっ始まったね」


大会が始まり選手をアナウンスする音が更衣室まで聞こえる。

蒼井は楓の髪をセットしていた。楓はもう衣装に着替えている。

その更衣室では他の選手たちもそれぞれに準備を進めていて活気でざわめいていた。大きな鏡の前に化粧道具などを置く台があり、個人個人の道具が置いてある。


「せ・・先生・・・それはなんですか・・・?」


楓の前の化粧箱の横に置いてあるのはどう見ても缶ビールだった。


「ビールだねぇ。 私がフィギュア見ながら酒飲むの好きなの知ってるでしょ?」

「ビール?」


楓はがばっと真珠の母に作ってもらった弁当を抱え込んだ。


「このお弁当は楓のだからね!! 」

「あーわかってる。 わかってる。」


ニマっと笑う蒼井




「とっとくわよぉ いやぁねぇ ホホホ」




その表情を見た楓は不安で顔が引きつり鼻水が出ている。






                           ★



ブロック予選はすでに始まっていた。18歳までの出場資格なので真珠よりかなり大きい子も出ている。リンクの回りは審判団の場所以外はコーチや関係者がたくさんいてテレビカメラも陣取って取っている。

松山コーチも同僚のコーチと共にリンク際で他の選手の演技を見ていた。


「ちょっとゴメン!」


控え室の方から人をかきわけ蒼井桜が、ガシガシやってきた。


「この辺ででっかい弁当箱持った女の子みなかった?  」

「い・いえ・・・」


「くそぉ~ あのサル娘!! 」


よく見ると元オリンピック選手の蒼井桜と気づき松山は少し緊張した。真珠がさっき緊張して話していたのを思い出し納得した。


楓は真珠に作ってもらった四段重ねの弁当を持って消えたのだ。

その時、今演技していた子の得点が発表された。

掲示板に「38.24」という数字が出る会場からすくなからず拍手が怒る。


「おー 凄い!! また真珠の予想的中じゃん!!」


松山コーチと一緒に見ていた相沢コーチが真珠の予想表を見て感動している。

その場を去ろうとした蒼井が”まじゅ”と聞いて足を止める。さっき楓に紹介してもらった”コブタ”だと思い出したからだ。


「すごいね・・・本当にあの子。努力家で・・・研究家で・・・」


相沢コーチは松山コーチの目から涙がこぼれていることに気づいた。


「松山・・・?」

「言えないよ・・・」


涙が頬を伝い落ちる


「”才能ないから辞めろ”なんて・・・あの子に言えないよ・・・」



蒼井は松山コーチに背を向けながら言葉を聴いていた。

次の選手がリンクに入っていく。

着々と大会は進んでいた。






リンク裏と公園の狭間の場所でインラインスケートを使い真珠は練習を繰り返していた。

何回も何回も3トリプルアクセルに挑戦していた。


楓を探していた蒼井が通りかかり、建物の影にとっさに身を隠した。

慣れないインラインスケートのため何度か転んだのか、ヒザには擦りむいた跡がある。

ポニーテールは乱れ、背中がシャツから汗で透けている。

着地のたびにバランスに苦しむ真珠。両膝に手をかけ息を整える。


『才能さえ・・・』


再び滑り出す。蒼井は手を組んで見つめている

勢いをつけた後、小ブレーキをかけ一気に跳び回転する。


『才能さえ見せられれば! 』


だが二回転半ちょっとすると降りてしまう。

はぁはぁと肩で息をする真珠。


『だめだ・・・どうしても回転が不足する・・・勢いは十分につけているはずなのに・・・』


顔の汗を手でぬぐう



『何? 何が足りないの? 』



途方に暮れていると、後ろからカツカツと足音が近づいてくる。

振り向くと、それは蒼井だった。アゴに手をやり、じーっと真珠を見ている。


「あなた・・・なかなか良い体してるわね・・・」


そう言うと突然、真珠の体を触り出す蒼井。


「な、何?! ・・・・あ・・・ぁ・・・」


真珠は憧れの蒼井にいきなり何をされてるのかわからず、大人しくされるがままだった。


腕から胸、太ももからおしり・・・あらゆるところを触られる真珠。


『この世界・・・”あっち”系の人も多いって聞いたことあるけど・・・、まさか蒼井さんが・・・』


普通なら引っ叩いて逃げるところなのだが、相手は憧れの蒼井桜。真珠はまんざらでもなかった。


「あ・・・あん・・」


慣れないあえぎ声を出してみる。

突然の桃色声に蒼井は青ざめる。


「へ・・変な声だすな! ガキのくせに・・・」


慌てて手を引っ込める。


「え 終わり?」


なんだか期待はずれの顔。

「あんた・・・足 太いわね」

「!! 何をいきなり・・・」


突然の言葉に意味がわからない


「3トリプルアクセル跳びたいんだろ? 」

「!!! 」


蒼井は腰に手をやり一方の手で頭をかいた。


「軸がぶれてるのよ」

「! 」


真珠は背を向ける蒼井を凝視した。


「多回転ジャンプは着地をする右足を軸に回転する。その時、空中で両手両足を回転軸に引き寄せ締めることで軸自体が細くなり内側に向け力がつき円心力が上がり回転の力が増す。あなたの場合、円心力を得る時 両手両足がその太い太もものせいで締め切れず短時間で必要な回転する力が得られない。」


真珠は茫然とした。


「や・・・痩せろってことですか・・・? これ以上・・・」


真珠はすでに限界まで食べない事にしている。これ以上のダイエットは不可能だ。


「それはあなたの自由。 あなたは基本は完璧だよ。さし当たってあんたに大事な事は・・・・」


蒼井は振り返り 真珠の目を見る。


「いかに右足を中心に軸を作るか、そして少しでも”回転力”を得る時間を作れるか

つまり・・・いかに高く跳べるか・・・・だけど・・・」



じっと真珠の瞳を見つめる蒼井。真珠も蒼井の瞳を見た。何かが通じ合う。


一瞬、風が吹いた。

真珠の瞳の光がさっきとどこか違う。


「右足・・・高く跳ぶ・・・」


ぶつぶつと呟きながら、再び真珠はゆっくりとスケートを滑らせた。

そして段々とスピードを上げ、ジャンプを跳ぶ瞬間だった。


その勢いを全て左足つま先に貯めた。一瞬タイミングが狂えばきっとすっぽ抜けてスライディングしてしまうだろう・・・だがこの時の真珠はまるで魔法がかかったように完璧のタイミングだった。

そして次の瞬間、その”力”を回転しながら一気に上方にジャンプした!

今までよりも思い切り腕も股関節も締め、そして右足を軸にする事を意識した


一回転・・・

二回転・・・・

三回転・・・・・・半!!


その”回転”の強さに着地の反動も相当強かった。右ヒザをクッションにして曲げ転倒を逃れた。

真珠は3トリプルアクセルを成功した。

一番、驚いたのは本人だった。


『跳べた・・・?・・・・・・・跳べた!!! 』


全身に血がみなぎっているように熱い。頬があかくなった。

思い切り拳を握り、興奮を抑えようとしたが、自然と笑みがこぼれた。

真珠は心の中が一瞬にして照らされた。





だが・・・それを見ている蒼井の顔に笑顔はな


「コブタの真珠」第三話を読んで頂きありがとうございます。

この物語は全11話です。良ければまた読みに来てくださいね!!

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