プロローグ
「ほんとよねー。あそこの家の人。とても良い人だったのに」
「まあ、仕方ないのよね。だって……」
「あら、そうかしら?」
ミ―ン。ミ―ン。ミ―ン……。
いくら耳をすませても、蝉の鳴き声。電柱の影の近所のおばさんの話し声。
それしか聞こえてこなかった。
もう少し待つか?
うーん。
おや?
ドアが開いてる。
玄関前のスペースには、木々やゴミ袋が埋めていたが、ドアはすんなりと開いた。
「よし、入っちゃおう。不法侵入にはならないだろう」
水漏れは、酷いと聞いているからすぐに見つかるだろう。
蛇口から、風呂場、トイレ、洗面台、洗濯機など水の出るところは数は限られている。
水漏れ その2
学校帰りに少し探検に行ってみようと誘われた。
なんでも、あの家だった。
ぼくは、知っているから。あまり近寄らないようにしていた。
窓際からのギラギラとした太陽は、ぼくの机に大きな影を生み出している。
ぼくの友達でこの教室の中で、一番大きい男の子の影だった。
「なあ、ちょっと見てくるだけだよ」
「うん」
「いいだろ。そうだろ」
「うん。あまり気は乗らないけど。……いいよ」
6-2の教室の喧騒が、急に静かになった気がした。
下校時間になると横断歩道を渡り、あのゴミ屋敷まで歩いていく。大きな男の子は興奮している。なんでも、ゴミ屋敷だし。それは当然なんだ。
「ねえ、外から少し見るだけにしようよ」
「バカかお前。家の中を見るんだろ」
「えええええ」
「だって、見たいじゃん」
付近はシンと静まり返って、学校の教室から何もかもが無音だった。
まるで、ぼくだけが音の無い世界にいるみたいだ。
少しだけ悪臭が漂ってきた。
元は良い人の家だったけど、今ではゴミ屋敷だった。
住んでいた人は昔は綺麗好きだったとか、収集家だったとか、三年前から色々と言われるようになっていた。
ぼくも顔を知っている。
岩見さんは、とても良い人だった……。