プロローグ
水漏れ その1
ジーン……。リーン……。ジーン。リーン……。
真夏の騒音で耳から頭まで痛かった。
こりゃなんだ。虫と電話のベルと、後なんだ?
座っているだけなのに。
ただ座っているだけなのに。
一番うるさい電話の音から消してやる。
「はい。深山工務店です」
「あのー、水漏れが酷くて……」
「ええと、うちは水漏れの修理とかはしてないんですが?」
「住所は……」
「はいはい。わかりましたよ。もう一度、住所を……」
ベニヤ板の壁に立て掛けてある靴を履いて、外へと出た。外の暑さは工務店の中よりも暑い。
「太陽はいつもカチカチに燃えてるってか?!」
そう文句を言い放ちドアを開けて、さっき聞いた住所へとバンを走らせた。バンの中には工具が入っている。
恐らく水漏れなんてすぐに直るだろう。
深山工務店からはバンは快走していた。交通量はこの時間でも思いの外あまりない。バンの中はクーラーは新品だし快適だった。電話で聞いた住所を目指して川岸へと向かう。
「ふふーん。ふーん。おっと、確かここら辺で……。あー、案外近いんだな。あれ?……あれか?」
目的地周辺でバンを脇に寄せると、静かな住宅街のほぼ中央にある一軒家。そこにだけゴミの山ができていた。
「うーん。住所当ってるからなあ。やっぱここだ」
呼び鈴を鳴らすと、ポーンと軽い音が家の内外に力なくなった。
「すいませーん……深山工務店ですー」
静かだった。まるで誰もいないかのような生活音の無さ。
「すいませんー。岩見さんいらっしゃいますーー? 水漏れの修理に来ましたーーー。……??」
しばらくしても、誰もでなかった。
まさかここで、ずっと立っているわけにもいかない。
さあ、どうする?