失恋から始まる株式投資
「黒崎さんずっと好きでした。良ければ僕と付き合ってくれませんか?」
「…」
僕が黒崎さんと言った女性はしばらく考えたように黙っていた。
肩口まである黒いショートボブの髪形に猫のよういキリッとした綺麗な目、身長は160センチくらいだろうか?
制服の上からでも解るスタイルの良さは学校のみならず道行く男子の目を惹かせた。
「あなた名前は?見たことない顔だから転校生で無ければ同じ学年じゃないわよね?」
「はっ、はい2年の赤間祥平と言います」
「そう…。赤間君は私のどんなところが好きになったのかしら?」
黒崎さんの声は心地の良い透き通るようなクールな声質で正直声だけでもご飯三杯はいけそうだ。
「えっ、えっと1年前入学してから廊下で見かけまして、昔から女の子のショートボブの髪形が好きで黒崎さんは自分の理想というか、それに近くて、それから目で追うようになって気が付いたら好きになっていて付き合えたら良いなって…。」
気持ち悪いぐらい動揺しえ早口になっている自分を感じた。
「それは私の容姿が好きってこと?私がロングヘアーだったら惚れて無いの?」
「えっ、いやきっかけはそれですが今はどんな黒崎さんでも好きだと思います」
「どんな…?赤間くん私のこと何も知らないわよね?髪形と顔もかな?好きなだけで私の趣味や好きな食べ物や普段何してるかとか全然知らないのにどんな私でも好きっておかしくないかな?」
「うっ…。あっ、えっと…。」
「赤間くんは私の容姿が好みだったかもしれないけど、あなたは私の好みじゃないわ。しかもほぼ会った初対面で告白するって、赤間くんがものすごいイケメンでも無い限り成功率は低いと思うの。もっとも私も容姿だけで好きになったりしないし」
「えっ…。あっ、すみま…せん」
「告白の成功率を上げるならもっと相手の行動パターンや好みを分析するべきではないかしら?例えば行動パターンから偶然を装って知り合ったりして挨拶から始めたり、同じ学校なんだから友達伝いに私の周りの友達経由で知り合ったり好きなものを調べて自分も好きなんです的な会話から近づいたりと色々手段があったはずよ?」
「あっ、はぁ…。」
確かにいきなり告白は愚策ではあったが何故か説教を受ける羽目になり僕は面食らった。
ずっと好きではあったが学年も違うため黒崎さんとは特に接点が無かった。
新入生を迎える会が今日体育館であり出席番号1番という理由で自分は放課後体育館の椅子の片づけを担任より言われしぶしぶ参加。
各クラスから1名と聞いていたが実際は3分の1も来ておらず実際に片づけを始めると参加人数が少ないのを見てか更に何人かは帰ってしまった。
僕は黒崎さんの姿を見つけたので気分は小躍りし何か接点が作れないかと最後まで参加。
倉庫でたまたま二人きりになった勢いで告白をしてしまったのだ。
「もしかしたら今日は私と最初の接点をつくれたチャンスかもしれなかったのに赤間くん自身で壊してしまってもったいなかったわね。ごめんなさい赤間くんとは付き合えないわ。と言うか何故ほとんど初対面に近いのに告白をしようと思ったの?女遊びや容姿に自信があるようにも見えないし?」
「えっと…。はじめて接点もてそうで勢いうというかそんな感じです…。」
何かズタボロにフラれたのがよく解った、心に染みるようだ…。
「ソウバでも勢いは禁物よ…」
そう言うと黒崎さんはスタスタと歩いて行った。
「そうば…?」
僕は少し時間を空けて体育館に戻るとまだ黒崎さんは椅子を片付けており何事もなかったかのように冷静な感じで作業を続ける。
こっぴどくフラれたとは言え途中で投げ出すのも悪いと思い、さっきまでとは逆に黒崎さんと倉庫で鉢合わせ無いよう遠巻きで見ながら僕は片づけを終了させた。
肉体的にも精神的にもすごく疲れた。
自業自得とは言え晴れ晴れしい気持ちで始あるはずであった新学期が重たい気分に切り替わってしまった。
幸いにも違う学年なのでそもそも接点自体少ないのが救いである。同学年、同じクラスだったりしたら死にたくなる。
「あぁ~。何か良いこと無いかな…」
こういった時大体負の連鎖は重なるものである。
別に運が悪くてこうなった訳では無いが、人は自分の行動パターンや思考から勝ちも負けも引き寄せてしまうからだ。
「ただいま~」
家に帰り着くと何かいつもと違う雰囲気を感じた。というか既に父親の靴があり帰ってきているのが解ったからかもしれない。
「父ちゃん早かったんやね」
リビングに入ると父親と母親、妹がダイニングテーブルに神妙な面持ちで座っていた。
「思ったより遅かったな祥平…。ちょっと話があるから座りなさい」
父はほっそりとした長身の体系で笑顔になると目が細くなる優しい父親である。中手ではあるが上場企業で働いており自分の仕事に誇りを持っているようだった。
そんな父親の表情が険しい。
「えっ?」
「祥くん座って」
母親は父親と一つ違いで背は高くないが典型的なおばさん体系でなく、それが自慢らしく食生活や運動などの体系維持を欠かさない。
二人ともお酒が好きでよく夜に二人で話しながら飲んでいるのを見かける子供目に見ても仲の良い夫婦である。
父親同様、母親の表情も険しかった。
いつも明るい父親と母親からは笑顔が無く、妹も俯いたままだった。
妹は中学生3年生でいわゆる大和なでしこっぽい容姿の黒髪ロングがよく似合う自分の好みとは正反対の女の子である。
むしろ妹が小さいころからずっと黒髪ロングのせいで僕はショートカットが好きになったのでは無いだろうか?
俯くと髪が長いせいで表情は伺えず泣いているようにも感じた。
「先に冴枝には伝えたが、改めて言う。お父さんの会社が不景気で民事再生の手続きしてな…。会社自体が他の会社に吸収合併されることになったんだ。最初は大半の社員は会社に残れるって話だったんだが思ったより負債が大きかったらしく残れるのは一部の社員だけになってしまい合併手続きが終わったらお父さんクビになってしまうんだ」
「えっ…。それってどうなるの?」
高校生の自分には聞き慣れない単語が時折出てきて理解が追い付かない。
「普通に希望退職とかなら退職金なんかを多めに貰ったり再就職の斡旋があったりと道筋はあるんだが今回は実質倒産してて負債…借金だな。過大なので退職金も再就職もなし、3か月後に引継ぎが終わったら父さん無職なんだ。家のローンも後25年残ってて正直払いきれない。冴枝は中学だからまだ良いが祥平の私立高校に行かせ続けるのは難しいと思うんだ。お父さんも年齢が年齢で簡単に再就職も見つからなくて…」
「それでねお母さんの実家の福岡におじいちゃんとおばあちゃんが残してくれてた家があって、昔建てた家だから古いかもしれないけど、そこなら家賃いらないから、お母さんパートして、お父さんは失業保険貰ってる間に再就職探してもらってって考えてるの」
「それって転校するってこと?」
頭がカーッと熱くなって怒りとか苦しみとか整理できない感情や情報量が自分を混乱させた。
僕の通う高校は都内でも有数の進学校だ。
父親も母親も「勉強をしておかないと将来苦労するぞ」と考える古いタイプの人間だったので中学時代は友達と遊ぶことを控え小学校時代からやっていたサッカーを諦め部活もせず一年生から塾通いをして入ったのである。
言わば遊びたい盛りの中学時代に両親の方針を尊重し頑張って入った学校を今度は両親の事情で辞めろと言われ理解が追い付かない感情が込み上げる。
「そうだな。本当難しい私立高校に頑張って受かったのに申し訳ない。冴枝もこれから受験って時にこんなことになってしまってすまん」
父親がこんなに謝っているのを初めて見た。正直気分の良いものではなく。今度は怒りすら込み上げてきた。
「なんで簡単に諦めるんだよ?父ちゃんいつもの仕事の話振りだと優秀そうで簡単に仕事見つかるんじゃねえの?実は口ばっかで無能社員だったとか?父ちゃんだけクビにされたんじゃねえの?」
コントロール出来ない感情と混乱と怒りを父親にぶつける。
「祥くん!お父さんに何てこと言うの」
母親は怒鳴るような声で言い同時に立ち上がると僕の頬をはりつけた。
バシンという乾いた音に反応したように妹が「わっー」っと声になるように泣き出してしまう。
「お兄ちゃんもお母さんも止めてよ…」
か細い声で呟くように言う。僕より前に話を聞いたせいなのか?冴枝の頭の中もグルグルしているのだろう。
「すまん祥平。実は会社が危ないかもってのは半年以上前からあって知り合いの伝手なんかも頼りながら就職活動をしていたんだ。最初は条件とか望んだ父さんも悪かったかもしれんが結局引き取り手が無くてな…。無能と言われれば無能かもな…ハハ」
見たく無かった。
尊敬しているとまでは言わないが仕事に前向きでずっと自分たち家族の長であった父親が自分を卑下する姿。
まさに牙を抜かれた虎。父親にとって仕事はそれだったのだろう。
最早黒崎さんにフラれたことはどうでも良くなっていた。
父親の会社が倒産。弱々しい父親。受験頑張って入った高校を急に転校。何度か遊びに行ったがよく知らない土地への転勤。
さっきからなんだか解らない感情が込み上げて来て頭がカッと熱くなり僕はリビングを飛び出すと走って家から出た。
母親や妹の呼ぶ声は聞こえたが今は振り向きたく無かった。
なんなんだよ。なんなんだよ。
整理のつかない気持ちとぐちゃぐちゃな感情で勝手に涙や鼻汁が溢れてくる。
どこをどう走ったのか良く解らないが気が付くと昔よく遊んだ川べりの土手にいた。
土手とはいえ4月の春先で夕刻を過ぎ肌寒く桜も散っているので人気は無い。
「うわっーーーーーーーーーーーーーーっ!」
大きな声で叫びながら僕は走る。ただ叫びたい。何十メートル、何百メートルと走る。
やがて膝が上がらなくなり足がかくかくなると何かに躓いてしまい僕は思いっきり土手下へ転げてしまった。
「うぇあっっ」
小学生が遊べる程度の大きな川ではないので土手下に落ちるとすぐに下半身は川に浸かってしまう。
そこで多少頭が冷えた。
「はぁはぁ…。なんか父ちゃんに悪いこと言ったのかな…。もしかしたら半年間ずっと悩んで苦しんでいたのかも」
そう思うとまた涙が込み上げてくる。
同時に下半身の冷たさと寒さに気が付き慌てて僕は川から上がった。春先の水は冷たく日も落ちたせいか更に冷える。
土手に上がるとはぁはぁと肩で息をする女性が立っていた。
「えっ…。黒崎…さん?」
「はぁはぁ…やっぱりあなたね。はぁはぁ…」
黒崎さんは息を切らせ吐きそうな顔をしていた。
僕は頭がこんがらがってしまう。
「私、はぁはぁ、運動苦手、はぁはぁ、なのよ」
「えっと、どうしてっていうか何してるんですか?」
「何って、はぁはぁ、家に帰ってたらあなたが泣きながら?叫びながら走ってるのが見えたから私のせいかなって。はぁはぁ、じ…自殺でもされたら気分悪いなって追いかけたのよ」
自殺?考えても無かった。しかも黒崎さんのことがすっかり抜け落ちていたので僕は思わず笑ってしまった。
「えっ?ちょっとなんで笑うのよ。人が心配して追っかけてきたのに」
黒崎さんは怒った顔も可愛かった。
普段は声質からも少しクールな人を想像していて、澄ました顔はよく遠巻きに見ていたが怒ったところはもちろん笑ったところもあまり見たことが無かったので新鮮に感じる。
「実は…」
と僕は先ほどあったことを黒崎さんに打ち明けた。
今日たまたま告白したのがきっかけでこんなことになろうとは出会いというかタイミングというか不思議に感じる。
黒崎さんは何か思いつめた表情で僕の話を真剣に聞いている。
まぁこんな話聞かされて真剣にならないほうが珍しいか…。
「赤間くんだっけ?あなた部活はしてるの?」
「えっ?いやしてませんけど。まぁしてても後3か月くらいで転校するから関係ないですが」
「そう。じゃあ明日の放課後時間作れるかしら?」
「う~ん多分大丈夫だと思います」
「お小遣い…。貯金はいくらぐらい持ってる?」
「えっ?お年玉が残ってるから3万くらいですがカツアゲですか?」
意外な質問に僕は思わず笑いながら、おちゃらけてしまう。
「馬鹿…」
黒崎さんのクールな声質の「馬鹿」は色んな意味でくるものがあり何か目覚めそうだ。
「少ないけど取り合えずいいわ。明日教室に迎え行くから放課後残ってて。何組なの?」
「2年4組です。何かあるんですか?」
「何かあるかはあなた次第かな。とりあえずもう暗いし風邪ひくから帰りなさい」
黒崎さんにそう言われて自分の下半身がずぶ濡れなのを思い出し思わずくしゃみが出た。
僕は黒崎さんに会釈をすると走って痛くなった足を引きずりながら家へ戻る。
家に帰ると夕飯を済ませた後のようで父親も母親もシンとしていて僕が夕飯お食べている間ほとんど会話は無く、妹は部屋に籠ったきりトイレ以外は出てくる様子は無かった。
朝も父親とはどうも顔を合わせ辛く避けるように時間をずらして朝食を取り学校へ向かう。
いったい何があるのだろう?授業中黒崎さんの言葉ばかり考えて放課後を待つ
放課後
16時を回ったが 、しばらく待っても黒崎さんは来ない。
「赤間なにやってんだ?帰ろうぜ」
クラスメイトから声かけられるもごめんと断り残る。
17時に近くなる頃他クラス含め教室の生徒がほとんど居なくなってから黒崎さんは姿を見せた。
「ごめんなさい遅くなって。あまり人に見らるとあれなので少し待ってたの」
まるで告白する前みたいではないか?僕は昨日フラれたのに何故か少し期待してしまう。
「着いてきて」
それだけを言うと黒崎さんはスタスタと進んでいく。ここの学校は1階1年生、2階2年生、3階3年生、4階に特別教室と学年が低いと移動教室は苦行であった。
その4階まで行くと突き当りの視聴覚教室の横の部屋へ案内される。
何故か僕は期待しゴクリと唾を飲み込む。部屋はカーテンが閉じきっており暗く何かパソコンのような物があるのが見えた。
カチッと電気が点くとそこには沢山縦横に重ねて積まれたパソコンのディスプレイが設置されたデスクが何台か並んでおり、
正直見たこともないような物々しい雰囲気に僕は冷や汗が出る。
「えーっこれは…?実は黒崎さんは地球を裏から守る隊員の一人で僕は勧誘されたとか…」
見たこと無い風景に頭が追い付かず咄嗟にアニメやラノベのような設定を口にした。
「馬鹿…」
何度聞いても黒崎さんの声質の馬鹿は良い。
「ここはトレーディングルームよ」
「トレーニング?」
「トレーディングよ。株の取り引きをする場所」
「カブって?野菜のですか?」
「株式よ株式。株取引とかデイトレーダーとか聞いたことない?」
高校生がそんなこと聞いたあるわけない。
「それと何が関係が?」
「ここまで言ってまだわからない?馬鹿…」
うん!やっぱり最高だ…。
「ここは株の取り引きをする場所。本来未成年者の株取引は親の同意とか色々ハードルがあるの。でもこの学校は投資授業の一環で試験的に文科省から承認を貰って株の取り引きを容認されているの。学生の時点から株の知識や経験を取り入れ投資に対する認識を将来的に高めようと国は取り組んでいて、この学校が選ばれたの」
「えーっと言ってる意味がよくわかりません」
「赤間くん。あなた日本国民の総個人金融資産額知ってる?」
「知りません」
「投資比率は?」
「知りません」
僕がそんなもの知るはずもない。
いや普通に知ってる人間居るのか?
はぁ…と黒崎さんはため息をつく。
「日本人の貯蓄額は時にもよるけど2021年時点で大体1900兆円になるわ」
「1900兆円?そんなにですか?」
「そう。これはアメリカや中国に次いで世界で3位よ。ただしほとんどが預金。5割以上が預金や預金で投資に使われてるのは2割に満たないわ。ちなみにアメリカはその逆で預金が2割ほどで半分近くが投資に使われるわ」
「はぇ~」
思わず変な声が出る。
「この10年で日本人の個人金融資産は約3割増えたわ」
「3割も?凄いですね!」
今窮地に立たされている我が家からすると景気の良い話だ。
「アメリカは約3倍よ」
「3倍ですか!」
僕は思わず大きな声をあげた。
今は1900兆で3割増えたとすると元は1500兆くらいか…。これがアメリカだと4500兆くらいまで増えたことになるのか。
「増えた要因の大半は株と投資信託という運用商品が中心なの。歴代の日本の首相が貯蓄から投資へと言う背景はここにあるの。日本は経済大国になったけど投資とITは後進国なのよ」
「でっ、でも今でも十分に豊かですし無理に投資をする必要なんて無いんじゃ…。なんか損するというか悪いイメージしか無いです」
「豊か…ね。今まではそうだけど日本は豊かでなくなって来てるわ。世界の人口は増え物価は上昇している。日本人は価格に敏感だから一見するとあまり物価は上昇してないように感じるけど私たちが認識してる身近な物でも昔と比べても1個や1袋単位の量が減ってないかしら?」
「確かにお菓子とかそうですね」
「日本は色々な原料の大半を海外から輸入してるから世界的物価上昇の影響をモロに受けるの。今までは経済格差や通貨格差があったから影響が少なかったけど中国をはじめ後進国がどんどん経済成長し物価や通貨が上がってきたから優位性が減っているの、つまり世界の経済成長や物価上昇に並行して金融資産を増やしていかないと追い付かれたときに一気に後進国に戻ってしまう」
「そんな大げさな…。僕たちが生きている間の話じゃ無いでよね?」
「…」
「えっ?」
「中国を見ていたら解るでしょう?日本のGDPに追いついたというニュースが出たのが数年前。今や中国のGDPは日本の2.5倍よ。日本のものつくりと言われた世界に誇った産業は世界的に駆逐され多くの会社が倒産や縮小、吸収されたわ。今もそれは続いてる」
「あっ…」
それを聞いて僕は父親の会社の話を思い出した。
父親が無能なのじゃない。単純に日本の産業や会社が世界から淘汰され始めたのではと。
「それにきつい言い方だけど、もし赤間くんの両親が投資をしていて今の貯蓄の3倍あれば家を手放さずに学校を辞めずに済んだかもしれないわ」
「うっ…」
「ごめんなさい…。話を戻すわ。日本は色々な税制優遇などを利用して投資を推進したけど上手くいってないの、それもそのはず。海外では投資についての基本や考え方を学生のうちに授業で学ぶの。日本人は大人になって初めて投資に触れ、知識も経験も時間もない中で株に投資しても大半が失敗し損をするわ。だから株や投資=損をするというイメージが横行してなかなか広まらないため文科省が授業だけでなく試験的に学生に株取引を導入したの」
「それがここですか?」
「そう。未成年者は個人名義で取り引きに色々制限があるから学校の法人口座を特別に設けて取引が可能なの。収益は基本学校や今後の取り組み拡大に利用するようプールされるのだけど学生の事情によっては援助も可能だそうよ」
「えっ!つまり」
「そう。あなたの実力次第で学校を辞めなくて良いし、もしかしたら家族も救えるかもしれないわ!」
黒崎さんは今まで見たことの無ようなキリッとした表情で力強く透き通った声で言った。
何故か僕の頭の中と身体全身に風が吹き抜けたような感覚になり喜びが込み上げてくる。
「株をしたからと言って必ず儲かるわけではないわ。変な希望を持ってはまり人生を狂わせる人もいる。でもそれは普通に生きていても同じだと思うの」
「やります!やらせてください!いや選択肢なんて無いです。だから黒崎さんは僕に声をかけたんでしょう?」
僕は確信をもって力強く言った。
「半分はそうだけど半分は違う。お父さんの境遇が似ていたからね」
そう言うと黒崎さんはちょっと悲しそうな顔をした。
その時僕は不思議に思ったが希望というものが見えた喜びで特に聞かずにいた。