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冒険者オーガストの平穏万歳  作者: 蒸らしエルモ
2話:帝国辺境の冒険者
8/24

8:冒険者と魔剣

今日の分の更新です。


新しい武器を手に入れるイベントは、どのゲームでもワクワクしますよね。


「なっ、何なんですか!それ!

大き過ぎますよ!」


 案の定と言うべきか、巨大なオキナシは収納袋に入りきらず、袋の口から大きくはみ出していた。

 汗を垂らしてそれを引きずり州都に向かうと、街門の前で兵士に止められてしまった。


 曰く、最近禁制品を持ち込もうとする冒険者が増えている、と。

 曰く、いくら銀鬼級の冒険者といえどその大荷物では検査無しで街に入れる訳にいかない、と。

 曰く、冒険者ギルドに使いを出すので荷物をあらためさせてほしい、と。


 兵士たちはそう口にした。

 それから言葉にこそしなかったものの、返り血に塗れている私を警戒しているようでもある。

 頭ごなしに命じるでもなく、平和的に頼まれたこともあり、快諾して詰め所の方へとやって来たのだが、ギルドの職員は到着するなり収納袋を見て叫んだ。

 一目見ただけで何だか分かったらしい。


「これが何かお分かりか?」

「いや、待て。出させた方が早い。」

「そうだな、冒険者どの。袋の中身をそこに出してくれ。」


 兵士たちは詰め所の床を指してそう言うが、ダメだ狭すぎる。

 その旨を伝えると兵士は困った顔をした。


「では、街壁の外で構わないか?」


 こちら側の門は詰め所が狭いんだ。

 そう言って兵士は苦笑すると、こちらを促すので連れ立って移動する。

 何だか逮捕されたようで思わず笑ってしまった。ギルドの職員も似たようなことを考えていたようだが、こちらは顔色が良くない。

 反応が過敏過ぎやしないか、と言うと、貴方のせいでこうなっているんでしょうが、と小声で叱られてしまった。


 そうして連れ出された街の外、門から少し離れたところで収納袋の中身を出すよう再度促された。


「うおっ!でかいな!」

「……こんなのがあの森に居たのかよ。」

「これを倒せるのか……。」

「え、こいつオキナシだよな?普通の奴とは桁違いじゃないか。」


 袋から出てきたオキナシの死体を見つつ、兵士たちは所感を言い合った。

 どうやらそのあまりのインパクトにこちらへの疑いは晴れているようである。

 うんうん頷きながら聞いていると、黙っていたギルド職員の男性が戦慄きながら呟いた。


「……これギルドの中で解体できませんよ。」


 思わぬ言葉にその場に居た皆がそちらを向く。


「だってまず、ギルドにこれが入る部屋は無いですよ。それにこの大きさ、普通の器具じゃダメです。大型魔獣用のそれじゃないと。」


 沈黙がその場を覆う。誰も口を開かなかった。

 兵士たちは可哀想なものを見るような目でこちらを見ている。

 いや、州都のギルドなのに解体できないとなれば何処でなら出来ると言うのか。


「いえ、ネメンセ州じゃなければ多分解体できます。その、ここは設備が老朽化していて……。」


 だから冒険者が足りないんだろうが、と叫びたくなる。

 兵士たちは、私の様子を見ながら口々に慰めの言葉を送ってくれるのであった。




 ギルドに戻り依頼達成の処理をする。

 オキナシの死体は門の脇に置いて、冒険者の実力を喧伝するのに使うらしい。腐るまでの話だが。


 そんな訳で完全なる赤字である。

 主武器も予備武器の大半も失い、怪我まで負わされて、貰える報酬は小鬼退治の分だけである。これで追加報酬くらい出せれば、ここにももう少し冒険者が居つくであろうに、その予算も無いとなればもうどうしようもない。


 とんでもないことが起きる前にネメンセから離れようか、そんなことが頭に浮かぶ。

 どう考えても近い内に碌でもないことが起きる、賭けても良かった。


 ギルドを出る。

 あの職員の男性がこちらを気の毒そうに見ているのが分かった。

 手を振っておいた。彼は別に悪くない。


 武具屋に向かう。

 そろそろ日が暮れる。急がねば。

 今所持している武器は、オキナシを倒した時に右手に持っていた短剣と、取り出す余裕がなく収納袋に入れたままになっていた長剣一本だけだ。

 一応長剣を腰に吊るしてあるが収まりが悪い。だから予備だった訳で、普段使いに向いたしっくり来る得物を探しておきたい。なるべく早く。

 今日見つからなければ明日だな、そう考えながらギルドにもっとも近い武具屋に入る。


「なあ、お前さん。今日はもう店仕舞いだ。」


 店内を巡り、飾られている剣から投げ売りの籠に放り込まれた剣までじっくり検分していると店主から声がかかる。

 窓の外はすっかり暗い。

 慌てて今見ていた剣を籠に戻す。投げ売りの割りにそこそこ良い物だったために、つい時間をかけて見てしまった。


「剣探してんだろ、取って置きを見せてやるからまた明日来いや。」


 そう言って熊のような見た目の店主はにかっと笑った。

 つられて私も笑う。期待してる、と。

 店主は任せろ、と笑った。

 その日はとりあえず、予備の短剣を二本ばかり購入してまた明日来店する約束をし、店を出る。


 武具屋を出て、夜の街を歩く。宿までもう少し、空を仰げば星が輝いていた。



 明くる日、食事を済ませるとすぐに昨日の武具屋に向かった。

 取って置きとやらを早く見たかった。街路を駆けて行く。打撲の痛みはすっかり引いていた。


 武具屋に着くもまだ準備中であった。朝が早い部類の冒険者もこれから活動を始めるような時間である。然もあらん。

 しばらく店の周りをぶらつき時間を潰す。

 辺りの店からも接客の声がし始めるようになった頃、店主が店から出てきた。


「お前さん、さっきっからずっとそこに居て暇なのかよ。剣、見てえんだろ。声くらいかけろ。」

「だが、朝早くに押しかけたら迷惑だろ?」

「店の前に陣取られても迷惑だバカ。」


 店主に連れられ店の奥へ入る。

 そこには剣や槍が所狭しと並ぶ、何てことはなく商談用と思わしき普通の応接間だった。

 そこそこの造りの椅子やテーブル、魔獣の毛皮らしき絨毯、壁際には花瓶と店主には似つかわしくない可愛らしいガーベラが飾られていた。


「おう、あんまじろじろ見んなや。あれは嫁の趣味だ。」

「ああ、すまない店主。」

「別に良いけどよ。」


 少し雑談をする。

 最近のネメンセの様子や、冒険者の実力、流通事情を商人の目線で見た話を聞けたのは幸運だった。

 どれも最悪だ。

 街には不穏な噂が流れ始めており、街を出る者も増えつつあるらしい。

 ネメンセ州の冒険者の実力は低い。それも相まって、人口の流出は留まるところを知らぬようである。

 そして人の居ないところに金はない。ギルドが貧乏なのはこれが原因の一端らしい。また、流通も細くなりつつあるらしい。こちらはすぐに立ち行かなくなるほどではないそうだが、行商人など減る一方だそうだ。

 つまり、ネメンセ州はお先真っ暗、ということである。


「悪いな、折角来てくれてるのにこんな話をして。今お目当ての剣を持ってくるから、茶でも飲んで待っていろ。」


 店主がそう言って席を立つ。

 お茶は先ほど店主の妻が淹れてくれていた。帝国北部で一般的に飲まれる、トトの木の葉の焙煎茶、通称トト茶である。これの飲み味は麦茶に近い。

 温かい麦茶に違和感を覚えつつ、でも文句つけるような味じゃないしなと悩みながらトト茶を味わっていると、店主が戻ってきた。

 その手にはくすんだ茶色の細長い袋、剣袋だ、を持っていた。


「待たせたな、こいつが取って置きだ。

見せんのはお前さんで三人目だ。」

「前の二人は剣を見てどうしたんだ?」

「そいつは多分この後分かる。」


 店主は意味深なことを言いつつ、剣袋を開く。

 中から取り出される一振の長剣。

 

 柄から鞘まで一体となって精緻な彫刻が施されており、細工師の腕前が窺える。彫刻は物語をモチーフにしており、[アルブレヒトの勲詩]の一幕が刻まれていた。

 この場面は……。

 柄頭に嵌め込まれた黄玉は明星を表しているのか。

 ということは、[アルブレヒトの勲詩]の明星の章の竜を討った場面になる。

 竜の瞳として鍔に埋め込まれている瑠璃の玉からは、まるで生きているかのような迫力が感じられた。


 抜き放つ前から業物であることが理解できた。

 とんでもない逸品だ。どうしてこんな辺境に。

 思わず立ち上がりかける。


「おいおい、剣身見ねえで良いのか?

まだ本番はここからだろうが。」


 その言葉に座り直す。

 店主は笑いながら言ったが、その手が微かに震えているのに気づいた。

 そこで私の前に剣を見た二人がどうしたか悟った。


 耐えられなかったのだ。


 この剣を振るという重圧に。

 だからこの剣は未だにここにある。


「ほらよ。」


 言葉こそぞんざいだが、店主の手つきは恭しい。

 私も丁寧に剣を受け取る。見かけよりも重い。ズシリとくる。


 ゆっくりと慎重に、剣を鞘から抜いていく。

 鍔から剣身にかけて竜が刻まれていた。躍動感のある彫刻だった。改めて細工師のその腕前に感心する。

 スルリと鞘から抜ききった時、不思議な感覚に陥った。

 時が止まったような、或いは全てを置き去りにしたような、そんな感覚だった。


 抜いて分かった。これは魔剣だ。


 うっとりと剣身を眺めた。

 光は流れるようにその刃を輝かし、竜の彫刻は見る角度が変わるごとに動いているかのよう、瑠璃の瞳は様々な色を振り撒いている。

 鞘は鞘で黒檀に銀で、剣を掲げるアルブレヒトが細部に渡るまで丁寧に彫り込まれている。

 いくらでも見ていられる。そう思ったが、店主がこちらを見ている。

 名残惜しいが鞘に納める。


「その剣はな、俺の死んだ親父が一門衆と作り上げたもんの一つだ。」


 こちらの様子を見ていた店主がぽつりと呟く。

 武器の来歴は静かに聞くのが古来よりの習わし、剣をテーブルに置き居ずまいを正す。


「うちは代々鍛冶師でな。親父は優秀な鍛冶師だったんだが、その剣の後に二、三本剣を打って死んじまった。

俺に【鍛冶師】の才能はなく、代わりに持っていたのは【商人】だった。

で、武具屋を開くことになるんだが、家を出る時に渡されたのか、その剣だ。」

「……大事な物ではないのか?」

「そいつは敵を斬るための道具で、俺にとっては売り物だ。誰かに使ってもらってこそだろう。」


 それにな、と店主は続ける。その目は握り締めた拳を見ていた。


「親父と同じでちょいと患っちまった。もうそんなに長くはないだろうよ。

俺が死んで処分に困るくらいなら、生きてるうちに見所のある奴に託したいってもんだ。」


 言われてみれば顔色が悪い。色が白いため分かりにくかったが青い顔をしている。

 こちらの視線に気づいたのか店主は続けて言った。


「……つってもすぐに死にはしねえよ。でもな、こういうことは早いうちに備えておいた方がいい。

なあ、あんたこの剣貰う気はないか?」


 店主がテーブルに肘をつく。

 その血管が浮いた手は、まだ震えていた。

 ……本当はあまり長くないのかもしれない。


「これほどの剣だ。喜んで買わせてもらう。」


 そう答えて値段を聞く。

 この商人から譲り受けたりなどしたくない。きちんと金を払いたかった。

 店主は険しい顔をしたが、大金貨四十枚だと言った。

 嘘だと分かっていたが、その額を支払うと決めた。これほどの魔剣が大金貨四十枚なんてあり得ない、買い求めるならば百枚出してもなお足りないだろう。


 収納袋から金貨袋を取り出し、即金で支払う。

 店主は心残りが一つ消えたと笑っていた。


 魔剣と剣袋を受け取る。

 この剣が自分の物となったことに震えが止まらない。鞘を一撫でし、腰に佩く。

 重みがこちらの意識を引き締める。

 そこで大事なことをまだ聞いていないことに気づく。


「店主、この魔剣大切にさせてもらう。

……ところで、この剣の銘は何というんだ?」

「おう、そいつの銘は〔明け星〕だ。精々役立ててくれよ。」


 店主の言葉に首肯し、店を出る。



 何となくだが、この店主にもう一度会うことはない、そんな予感がした。

次回更新はいつになるか未定です。

遅くとも7/2(土)には更新しますが、もっと早くなるかもしれません。

予定がふわふわしていて済みません。仕事で忙しいもので。


ご高覧くださりありがとうございます。

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