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冒険者オーガストの平穏万歳  作者: 蒸らしエルモ
2話:帝国辺境の冒険者
7/24

7:ここにいてはいけないもの

予定通り第七話の更新です。


戦闘シーン難しいですね。少しは楽しんでいただける出来になっていると良いんですが……。


 息を潜めて周囲を窺う。

 ネメンセ州の州都からほど近い森の中に私は居た。

 耳をすます。

 右前方からかすかに小鬼の鳴き声。森の奥の方だ。

 そちらへ向けて警戒しながら慎重に歩を進める。なるべく下生えを荒らさず、音を小さくするように歩いていく。


 一つ目の依頼はすぐに終わった。

 畑を荒らすテテグネテスという魔獣の討伐を依頼されたのだが、畑に向かう途中で偶然遭遇。その場で討伐できてしまった。

 ちなみにテテグネテスは、手足が猿のように長い大鼠のような魔獣で、子どもの背丈ほどの大きさがある。また、三股の尻尾の先から毒を分泌することが出来、粘膜に毒液が触れると融解する中々の危険性を誇る。

 ……動きはそんなに俊敏ではないので間合いを詰めれば一発だった。


 近づくにつれて、小鬼のつんと鼻にくる体臭が漂ってくる。こちらが風下だ。このまま行ける。

 小鬼は臭くて数が多くて肉も不味くて買い取ってもらえない、面倒なだけで金にならない魔獣だ。だから他の冒険者に依頼を無視されてしまっていたのだろう。


 雑念を振り払うように頭を振って、姿勢を低くし小鬼どもに迫る。

 ギャアギャアと鳴き声がうるさい。結構な数に増えていそうだ。

 とはいえ今更小鬼程度、どれだけいようと遅れはとらない。もっと雑に行っても勝てるだろう。だがそれではいけない。それでは剣の切れ味に頼って斬るようなものだ。

 技が、心が鈍ってしまう。

 故に私は大物相手と変わらぬくらいの警戒をして進んで行った。

 そろりそろりと進み、小鬼どもまであと十歩ほど、8mあまりのところまで来た。

 木の後ろに隠れタイミングを窺う。

 小鬼どももさすがに警戒しているようで、鳴き声は抑えられ、ガサガサと下生えを踏みつけ歩き回る音が聞こえた。

 呼吸を整える。


 踏み出そうとしたその時だった。


 小鬼どもが一際大きな鳴き声をあげた。

 続けざまに三つ、何かが潰される湿った音。

 何かがいると察した瞬間、息を止めた。

 距離をとるべく後退を始める。

 更に二つ、三つと音が続く。

 小鬼は騒いでいる。何かに襲われているのだ。


 小鬼が潰されていく音を聞きながら5mほど離れた時、視界の端を何かが掠めて行った。

 それも一つではない。

 明らかにこちらに狙いを着けている。

 すぐ脇に着弾したそれを見る。


 小鬼の死体だった。首から上を叩き潰された小鬼が転がっていた。


 すぐさま立ち上がり、来た方へと駆け出す。


 音など関係ない。もうこちらが居ることはバレている。

 最初からこちらを狙っていたのだ。小鬼はついでに殺したのか、炙り出すために使ったのか知らないが、とにかく罠だ。


 草をかき分け、枝を払いのけ、森の中を外へ向かってひた走る。

 後方から何かが迫って来ているのが分かった。

 まずい、こちらよりも速い。


 ガサガサと音が迫ってくる。

 息遣いまで聞こえてくる。森の外までまだかなりあるはず。


「ああ、くそったれが!」


 その場で急停止し振り向けば、こちらを追っていた奴も動きを止める。

 睨み合う。

 ようやく奴が何なのかが、分かった。

 かつて男爵家に居た頃に読んだ本に記載されていて、覚えがあった。


 オキナシだ。

 こいつは前世にいたイグアナのような体に、やたらと長い人の手足と人の女のような頭を持つ、全身を鱗に覆われた魔獣である。

 賢いと本には書かれていた。

 大体は本の通りだ。

 だが、本の記載とまるで異なることが一つだけあった。


「でかすぎる……!」


 そう、大きいのだ。

 体高は3mほどだろうか、木々の枝がひっきりなしに体に当たり、人間の女のような頭から伸びる髪に葉が絡んで煩わしげである。

 通常のオキナシはこの半分でも大きい部類になるそうだから、このサイズは別格である。

 鬱蒼とした森の中をここまで逃げてこられたのはこいつが大きすぎるということもあるだろう。


 森の外まで逃げきれてしまっていたらどうなっただろうか。

 木々が邪魔しない開けた場所であれば、きっと今まで以上に素早く動けるに違いない。

 そうなれば勝ち目は薄い。

 何としてもこの森の中で倒さねば。


 オキナシは煩わしげに頭を振って枝をバキバキと折っている。私よりもそちらの方が気になっているようだ。


 チャンスでは?

 だが罠の可能性も……。


 迷ったのがいけなかった。


 オキナシは突然右の前足を掲げる。と同時に、こちらの足元に泥沼が広がった。

 魔法である。

 他の魔獣だって罠を張るだけの知恵が回るのだ。賢いとわざわざ書かれるだけの理由があると考えるべきだった。

 足をとられる前に後ろへ飛び退く。


「キキキキハッ!」


 オキナシは眼前に迫っていた。

 叩きつけられる右前足、剣を抜き受けるも、空中では踏ん張れない。


「……ガハッ!」


 先ほどの小鬼のように軽々と吹き飛ばされ、木に衝突する。肺の中の空気が全て吐き出されたような気がした。

 視界が揺れる。

 追撃は来なかった。

 見やれば殴りつけた腕を気にしている。刃に当たって切れたかしたのだろう。


 私は今、鎧下に鎖帷子、上から軽めの革胸甲を装着している。なるべく軽くなるように済ませているが、それでも成人した男を装備ごと吹っ飛ばすとは、大した剛力である。

 もし仮に重装歩兵などであれば楯で受けきれたやもしれぬが、森の探索などできなかったであろう。いや、泥沼に足をとられて嬲り殺しだな。

 軽装で良かった。


 オキナシと目が合う。

 思わぬ反撃に怯んでいたが、戦意は高い。というか怒っている様子である。


「キキキキキ」


 鳴き声をあげながら、こちらに迫る。

 正面からは受けられない。横へ跳ぶ。

 しまった、と気づいた時には遅かった。

 オキナシの長い手足のリーチを見誤ったのだ。


 先ほどの焼き直しだ。

 空中で再び殴りつけられる。

 剣は防御に辛うじて間に合った。


 地面を転がりながら咳き込む。

 しかしそのままではいられない。オキナシの動く気配を感じる。

 転がる勢いそのままに跳ね起きる。眼前には振り下ろされる右腕。


 裂帛の気合いとともに迎撃する。


 重い。下段から撃ち上げた剣は、オキナシの肉を裂くも骨で止まってしまった。

 振るった感覚で分かった。

 二度も殴りつけられたせいで剣が歪んでいたのだ。だから骨まで断てなかった。


 頭が己れの未熟を悔いている時も、身体の方は敵を討つべく動き続けていた。


 オキナシが、腕を切り裂かれた痛みに硬直した間隙を縫って間合いを詰める。

 歪んでしまった剣は、要らぬとばかりに腕の付け根に突き立てた。


 絶叫が辺りに響き渡る。

 これまでの甲高い鳴き声と違い、地を這うように低い声だ。あまりの違いに少し驚いた。

 驚きながらも身体は動く。突き刺した剣を更に奥まで押し込んだ。


 振り回されるオキナシの手足や尾は、枝どころか木々そのものをもへし折っていく。

 しかし当たらない。

 間合いの内側にいる私にそれでは逆に届かない。


━━━━『間合いを殺せば敵は死ぬ』


 爺さんの教えは今、この時のようなことを指していたのだろう。

 動作の起点を潰せ、できなければ間合いを潰せとよく言われてきたが、少しでも出来ているだろうか。


 感傷に浸りつつ、オキナシに突き刺したまま剣は手放し、剣鉈を抜く。

 こちらを食い殺さんと噛みついてくるオキナシを、柄で殴りつけつつ急所を探る。


 爺さんは頭を落とせば大概死ぬだの宣っていたが、この化物相手にそこまで出来る技量は私にない。得物が万全でも多分無理だ。


 乱杭歯を避け、顎に下から柄を叩きつける。

 良い当たりだったか、オキナシが仰け反った。


 ここだ、と思った。

 強く踏み込む。

 人相手であれば逆袈裟となるように剣鉈を振り抜く。


 剣鉈が鱗を割り、肉を裂き、骨へと達する。

 そして、断ちきれないと感覚的に理解した。

 鋭さは十分。

 強度も足りている。

 でも力が足りない。

 人間なら鎧ごと斬り殺せた一撃だったはずだというのに恐ろしく頑丈だ。


 ならば、力を加えてやる。

 柄元に左手を当てがい、左肘を膝で蹴り、強制的に剣鉈を撃ち上げる。


 バキリ、と音がした。

 振り抜いた右手を見れば柄しか残っていない。


「は?」


 思わず間の抜けた声が出た。硬いにも程がある。


 驚いたこちらの隙をついてオキナシが退がる。

 間合いを空けられてしまった。


 いや、分かっている。私が間抜けだったのだ。頭を落とすのは無理だと分かっていながら、それでも首を狙ってしまった。


 残るは短剣が二本。

 間合いは空けられ、向こうが有利。

 敵は首から出血、傷は深い。右前足も万全ではない。時間はこちらの味方。のはず。


 整息。

 こういうときほど落ち着いて、かつ消極的にならないようにしろと爺さんに教わってきた。

 短剣両手に構え、オキナシの出方を窺う。

 はじめの戦意はどこへやら、今にも逃げ出しそうな雰囲気である。

 気持ちの面では私の勝ちだな、そう思うと気が楽になった。


 ゆらりと短剣がわずかに下がる。

 オキナシはそれを見逃さなかった。

 爆発的な加速、一瞬でこちらを間合いに捉え、振り下ろされる左前足。



 全て、思い描いた通りになった。


 左腕を避け、木を蹴り、奴の頭上に躍り上がる。

 そのまま首の上に跨がり、足で締めて体を固定する。

 そして逆手に持った左手の短剣を首へと突き立て、その柄尻に右手の短剣の柄尻を撃ちつける。

 一度で骨まで届いた。

 二度目で骨に食い込んだ。

 三度目で短剣が僅かに歪んだ。

 四度目で骨が軋んだ。

 そして五度目、オキナシが沈んだ。左手の短剣は大きく歪み、骨から外すことが出来ない程だ。しかしそれでも、その切っ先は骨を穿ち神経を断っていた。


 オキナシはまだ動こうとしていた。

 低い声で唸り、地面を搔く。

 しかし出来るのはそこまでであった。

 次第に弱っていく。


 私はその様子をじっと見つめていた。

 今回は危なかった。こちらが死んでいてもおかしくなかった。


 腰のポーチから軟膏を取り出し、打ち身の跡に塗りつけていく。

 気分が落ち着いてきたのか、身体の節々が痛みを訴え始めていた。


 オキナシはもう静かになっていた。

次回の更新は火曜日になると思います。

平日は忙しいので更新頻度が落ちてしまうのですがご容赦ください。


ご高覧くださりありがとうございました。

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