6:冒険者と魔術師と酒場
帝国編やろうと思い立ったので連載再開です。
明日も投稿できると思います。
コトリ、とグラスをテーブルに置く。
グラスの中身は既に空だ。
瓶から葡萄酒を注ぐ。
ここはフュークラン帝国。その北西部に位置するウタン省のネメンセ州の州都だ。
……でかいな帝国、さらにここから細分化されるとか信じられんぞ。しかも、周辺国では一番の新参である。それがこの規模では、成立時に周辺国は戦々恐々としたことだろう。
帝国の凄まじさを考えつつ、州都の片隅のとある酒場で一人酒を食らっていた。
王国を脱してから既に二月が過ぎていた。
帝国に入国し各地を放浪しつつ依頼をこなし、このネメンセ州に流れ着いたのが二週間前のこと。
ネメンセのきれいな川と、そこで捕れる川魚を気に入って滞在していた。
もちろんネメンセに来てからもいくつか依頼はこなしていた。
今日も小鬼の集団を一つ片付けてきていた。
冒険者のランクは黒狼級から一つ上がって銀鬼級になっていた。
なんでも、王国のギルドマスターが王城に呼び出される前に処理をしておいてくれたのだという話だ。王国を出る前にギルドでそう聞いた。
彼がどのような思いでそれをしたのか知らないが、無駄にはしたくない、そう思った。
国が違うため、王国でのランクがそのまま帝国冒険者ギルドで通用するわけではないが、目安にはなる。二ヶ月間依頼をこなすことで、つい先日帝国冒険者ギルドでも銀鬼級として認可された。
今日はその祝いでもある。
昼には小鬼相手に存分に暴れ、夜にはじっくり酒を楽しむ。実に冒険者的だ。
一緒に騒ぐ仲間がいないのは残念だが……。
帝国に来ても相変わらず一人だった。ソロ冒険者だ。それも仕方がない話だ。パーティを組める相手が見つからないのだ。
ランクが釣り合う相手は皆既にパーティを組んでいた。ランクが下の者で組もうとしてくるのは功績狙いばかりで、まともな奴はソロの高ランクになど近寄ってこない。
王国でも帝国でもそれは同じだった。
仲間探しは暗礁に乗り上げていた。
ため息を吐く。
急に飲んでいた葡萄酒が味気なく感じてきた。
一息にグラスの中身を呷る。
……もう宿に戻るか。
「よお、どーした兄さん。そんな深くため息ついて、幸せが逃げちまうぜ。」
隣のテーブルに居たひょろひょろした男が声をかけてきた。チンピラみたいな喋り方だな。
針金みたいな印象の男だ。剣、槍、弓、そういった武器を扱う体つきではない。
だというのに首から提げた冒険者証の刻印は鉄猪級。黒狼級の一つ下である。つまり、このなりでそこそこやるということだ。
「何だい兄さん、じろじろと見て。そりゃ兄さんみたいな人からしたら、俺なんてそこらの棒きれと変わんねえかもしんねえけどよ。
これでもそこそこやるんだぜ。」
「そこそこやるのは首のを見れば分かるさ。
あんた魔術師か。」
「おお、兄さん目が良いんだな。こんな薄っ暗いのに見えんのか。
そうとも、俺は魔術師さ。」
針金みたいな男はにこやかに言った。
酒が入っているのであろう。顔は赤らんでいる。
魔術師。それは自然の摂理を曲げる者たち。
彼らは、全ての生物がその多寡はあれど持ち合わせる魔力と、太古より伝わる不思議な力ある言葉、詳細を秘された儀式によって超常の結果をもたらすのだ。
その特性上、教えを受けた師の後を継ぐ者が多く、冒険者にはあまり居ないと聞いていた。
実際、王国に居た頃は冒険者の魔術師に会うことはなかった。
「兄さん流れもんだろ?見ない顔だ。
これでも俺は結構有名なんだぜ、何せ魔術師だからな。」
ガハハ、と細い体に見合わない豪快な笑いを見せる。だが、なんだろうか。強がっているような様子である。
「少し前にこの街に来たんだ、知らなかったことは許してくれ。
ところで冒険者の魔術師を見るのは初めてなんだが、帝国だと多いのか?」
「いやいや、そんなことねえよ。
俺だって同類に会ったことはないさ。
しかしそうか、最近噂になっていたのは兄さんのことだったんだな。」
そう言いながら魔術師だという彼は、こちらのテーブルにやってくる。
「俺は鉄猪級冒険者のロズって言うんだ。兄さんもご存知、魔術師さ。この州都で冒険者やってる魔術師は俺一人、つまり冒険者最強の魔術師さ!」
にこやかに言い放つと、彼はぐいっと手に持っていた瓶を呷る。それ、葡萄酒じゃないだろう。アルコール臭がもっときつい。
彼はヘラヘラと笑っていた。
「兄さんはあれだ。噂の剣士殿だろ。最近よく聞くぜ、州都にふらりと現れた銀鬼級のソロ剣士。
その剣はガージャバンダを一撃で仕留めるって。いやー、すげーや。」
この二ヶ月の間に、再びガージャバンダと対峙する機会はあった。そして倒していたがまさか噂になっているとは。帝国でも南部に居た時の話だからここでも出回っているのは驚きだ。
彼はぐいぐい瓶から酒を飲み続ける。
見るからに泥酔しているがその勢いは止まらない。
「おんなじソロなのになぁ。
やっぱり魔術師じゃあ、きついよ。
何でだろうなあ、なぁんで、うまくいかねえんだろうなぁ。」
ロズはそう口にするとテーブルに突っ伏した。
手から酒瓶が離れ、テーブルを転がる。
「おれだって、がんばってたんだよ。
だのにあいつら、おいだしやがった。ちゃんとはたらいてたのによぉ。
なんでぇ、うまくいかねんだろぉな。」
何で、何でと呟きながらも、次第に静かになるロズ。
どうやら、眠ってしまったようだ。
改めてロズの格好を上から下まで見ると、裾はほつれて、外套には穴が開き、左の脇腹の辺りには真新しい血染みすらあった。ボロボロである。
仕方ない。宿代くらいは出してやろう。
酒代は前払いなので立て替えたりといったことは必要ない。
ロズを連れて酒場を出ていく。こいつ、見た目より重いな。
翌日、酒が抜けて正気に戻ったらしいロズから謝罪を受けた。
寝落ちる直前まで記憶があるらしい。恥ずかしそうにする彼に、ソロになったという話を聞いてみた。
「いや、兄さん。昨日も言ってたと思うが、追い出されちまったんだよ。」
「あと気になってたんだが、別にお前とは兄弟じゃないぞ。」
「これは癖なんだよ、俺よか上な人はみんな兄さん姐さんなのさ。」
話を渋る彼にしつこく聞くと、観念したのか話してくれた。
なんでも、ロズのパーティは最初から歪んでいたのだと言う。
前衛が二人、斥候が一人、弓士と魔術師の後衛二人。これが彼のパーティだった。役職のバランスは良い、歪んでいたのは男女比だ。弓士は紅一点、女性だったのである。
「いっそ全員男なら良かったのにな。」
私がそう言うとロズは無言で頷いた。
それかもう一人女がいれば少しはバランスがとれただろう。
しかもこの弓士、パーティメンバー皆に気のあるような言動をしていたと言う。
そしてパーティメンバーは、同じ後衛で接する時間が長いロズに嫉妬したのだ。
くだらない。まずもってそれが私の感想だ。
バカしか居ないじゃないか、この話。バカ女がバカ男どもを振り回して、バカが馬鹿見た話なのだ。
呆れるしかない。ため息も出なかった。
ロズもバカだ。さっさとそんな奴ら見切りをつけるべきだろうに。
追い出された後、戻る時に備えて他のパーティに入らずソロで活動するなんてバカもバカ、大バカだ。
少しの同情と、そこそこの興味で話を聞いてみたが失敗した。
こんな話なら酒場で飲んでいればゴロゴロ転がっている。
宿代を取り立てる気力も失せていた。
払わなくていいとロズに伝え、さっさとその場を後にする。
幸いまだ朝も早い。小鬼退治の依頼でも受けて憂さ晴らしをしよう。
なんとなく重たい体を動かしギルドへと足を運ぶのであった。
州の都といえど、広い帝国では各地で発展に差がある。そしてこのネメンセ州は全体的に寂れている、発展が遅れている州だ。
魔獣は魔力の淀みから生まれる。この淀みは、人の動きが少ないほど生じやすく、拡大しやすい。また、魔獣が居着くと淀みは拡大を早めると研究で明らかにされていた。淀みが魔獣を産み、魔獣が淀みを広げ、大きな淀みがさらに魔獣を産む、魔獣が指数関数的に増えていく完全な悪循環である。
故に、魔獣は早期に駆除しなければならない。
過去には、小鬼が増えに増えて国が飲まれたという話すらある。
「わりと詰んでるんだよな。」
ギルドの掲示板を眺めつつ呟く。
そこには見た限り50枚は下らない数の依頼が貼り出されていた。
今日私はギルドにゆっくりやってきた。朝はロズの話を聞いていたからだ。
そして、多くの冒険者は朝一番に依頼を受ける……。
そう、依頼を冒険者が受けて減っている筈なのが現状である。どう見ても冒険者が足りない。
「やっぱり詰んでるよな、他のとこはまだマシだったがここだけヤバイな。」
いや、それをどうにかするのは一等市民や騎士団の考えることである。
冒険者として依頼をこなすことに集中すべきだ。あれもこれもと欲を出しても仕方がない。
爺さんも言っていた。
『剣には剣の職分がある。』
まずは冒険者としての職分を果たそう。
受付で、被害が特にひどい二つを選んで受け、現場へと向かうのだった。
・ランク
金竜
朱鳳
銀鬼
黒狼
鉄猪
銅亀
白兎
緑鼠
香木
功績を挙げて下から上がっていくシステム。
金竜級は名誉称号。
平均的な冒険者は銅亀級~鉄猪級。
普通はパーティでの登録になる。ソロはよほどの実力者かつ変わり者。
黒狼級まで行くと腕利きの冒険者として一目置かれるようになる。
香木級は見習い程度。色無しと呼ばれる最低ランク。
本編で解説することはまずないのでこちらにペタリ。
ふんわり理解で大丈夫です。
ご高覧くださりありがとうございます。




