24:冒険者オーガストの平穏万歳
最終話です。
「……いらっしゃい。」
「お久しぶりですね。随分探しましたよ。」
「そいつは、ご苦労なことで。
帝国の勇者様がこんな辺鄙な村で人探しか。」
「ええ、四年もかかるとは思いませんでした。」
「……一体、何のようだ。今更帝国には戻らんぞ。」
「帝国に連れ戻す気はありません。私があなたを探していたのは、ある人の遺言を届けるためなのです。」
「それでわざわざ王国辺境のド田舎まで来たのか。
……ちょっと待ってろ。今、飲み物を出す。エールでいいか?」
「ふふっ、出来れば冷えたミルクがいいな。店主。」
「ふんっ。それなら生憎ときらしちまったばかりだ。冷水でいいな。」
「そら、待たせたな。」
「いや、大丈夫だよ。
さっきも言ったけど私は、魔術錬金術学院の長であったソールズ・ヘンブラムの遺言を届けに来たんだ。」
「懐かしい名前だ。死んだのか。
……あの時の怪我が元手か?」
「いいや、違うよ。ヘンブラムは四年前に心臓の病で亡くなった。彼が亡くなった時で、あれから三年ほど経っていたんだ。関係ないよ。」
「そうか。少しだけ気が楽になった。」
「それは良かった。
それでヘンブラムからの遺言だ。
『悪かった。これは詫びだ。』だってさ。」
「なんだか奴らしくないな。」
「私もそう思う。でも、最後の一年くらいは薬で朦朧としてたし、寝たきりになってたから、あまり長いこと話せなかったんじゃないかな。」
「ふうむ。まあ、仕方ないか。本人に聞けることでもない。」
「うん。それで遺品、というか詫びの品があるんだけど。
どこに出せばいいかな。結構大きいんだよね。」
「ん?それならここに出して構わん。
載らないようなら床しかないな。」
「それならカウンターに置かせてもらうよ。
ふふっ、きっと吃驚するよ。私も驚いたからね。」
「ん?
遺品とはその腰に提げている物か?
……細く長い、棒のような……。……まさか、剣か?」
「うん、正解。
ヘンブラムから渡されたのは魔剣よ。」
「……悪いが持って帰ってくれ。もう魔剣には関わらないと決めてるんだ。」
「とりあえず、見るだけ見てはもらえないかな。さすがに、見せもしないで終わりにするのはこっちの気も晴れないからさ。」
「いや、だがなあ。」
「見るだけ見るだけ。」
「……うぅむ。
見るだけ、だぞ。」
「ふふっ、そうこなくちゃ。
これが、ヘンブラムの遺品。お詫びの品の魔剣だよ。」
「……。」
「驚きのあまり、言葉も出ないってところかな。」
「これは……。」
「ええ。かつてあなたが振るったもう一振の魔剣、〔孤立〕だよ。」
「なんと……。
てっきり竜となった時に失われたとばかり……。」
「驚いてもらえて嬉しいな。その顔を見るために、あなたを探していた面もあるから。
竜が帝都に現れた時に学院の建物が崩壊したんだけど、その崩壊した建物跡に、この魔剣は突き立っていたんだよ。」
「そうか。……そうだな。
こいつは〔明星〕とは違う剣だものな。」
「おお、気に入ってくれたみたいだね。」
「ああ。
……これは元々とある英雄の遺品でな。
普段使いには向かないが、多少なりとも思い入れはあったんだ。
正直なところを言えば、もう二度と目にすることはないと思っていた。」
「でもそれが、こうしてここに帰ってきた。」
「とても驚いているよ。」
「みたいだね。
さっきからずっと同じコップを磨いてるもの。」
「……ダメだな、こりゃ。こいつを出されちまったら敵わん。降参だ。」
「持って帰れとか言ってなかった?」
「そうだな。悪かったよ。
そいつを見せられたらなぁ。
いや、だが、帝国には戻らんぞ。交換条件だって言うなら要らん。」
「ふふっ、そんなこと言わないよ。
奥からずっとチラチラ窺っているのって、あなたの奥さんでしょ?」
「……。」
「大丈夫だよ。それでどうこうなったりしないさ。王国に骨を埋めるんでしょ。そんな人を無理に帝国に連れてったりしないって。
今の帝国にそこまで余力があるわけじゃないんだし。」
「そうなのか?」
「王国の辺境、それも帝国から見て反対側になる場所に、ちょっかいかけてるほど暇じゃないのさ。
私のこの活動も、ヘンブラムの家が勝手にやってることだから。軍は動かないと思うよ。」
「なら、他家の息がかかった奴が来るかも知れないだろうが。」
「そこまでは面倒見切れないよ。
それにそのためのそれだろう?」
「……。
……はあ。分かった。ありがたく頂戴しておくよ。」
「よお!やってるかい!」
「いらっしゃい。」
「なんだ、姉ちゃん見ない顔だな!こんな何もねえ所に何の用だい?」
「えーと、私は店主を探しに来てて……。」
「こいつは私に用があったんだよ、メイウェン。それより仕事はどうした?」
「ふーん、そうかい。
仕事は終わりさ、日も傾いてきたしな。
その物騒なモン仕舞っとけよ。あいつらもその内来るぜ。」
「そうだな。お前の言う通りだ。」
「あれ、姉ちゃん、酒呑めねえのか。
じゃあ悪いがそろそろ帰った方がいいぜ。今から来んのは、血の代わりに酒が流れてるみてえな呑兵衛ばっかだからよ!」
「お前もそうだろうが。」
「いやいや、あんたにゃ負けるよ!セプテンバー!」
「セプテンバー?」
「ん?
ああ、妙な名前だろ?
でも、こんな開拓村にいる奴らなんて何かしら事情はあるしな。前と違う名前だろうけど、気にしないでやってくれよ。」
「メイウェン。」
「おお、ありがとよ。
さてと、とりあえず一杯だ。
今日のつまみは何だろなっと。」
「あの、すいません。こちらのメイウェン、さんの言ってたことって……。」
「おお、俺のことはメイウェンでいいぞ。」
「メイウェンの言ってたことって本当ですか?」
「ああ。本当だ。
私はセプテンバー。
かつての私より先に進む者だよ。」
「ハハハッ!いいね!
生きてりゃ皆前に進むしかねえんだ。昔の自分なんて置いてけぼりにしてやろうぜ!」
「なるほど、これは帝国に戻るなんて無理ですね。」
「分かってくれて何よりだ。」
「ところでセプテンバーさん。」
「なんだ、改まって。むず痒いぞ。」
「そのうちオクトーバーになるんですか?」
「……ハハッ、なりゃせんよ。
私はここで終わりだ。
と言うか、知らんのか勇者。
こちらでは九月までしかないんだぞ。」
「おお、そうだよ。
帝国にはもっとあんのかい?」
「……帰ったら聞いてみるよ。」
「ああ。そうしてくれ。
とりあえず、何か食べるか?
届け物の礼だ、奢ってやる。」
「いいのかい?」
「ああ。明日は妻と娘を紹介しよう。
泊まってけ。」
「……ダメだよ。そんなこと簡単に言っちゃ。
まずは後ろの奥さんに確認しないと。」
「そうだぞ、知らん奴からすると浮気にしか見えねえぞ。」
「黙れバカども。今確認してくる。」
「おうおう。尻に敷かれてんねえ!」
「ふふっ、楽しいね。」
「ん?
そうだな、姉ちゃん。
ああ、そうだ!セプテンバーの奴の話をしてやるよ。
そろそろ他のが来るはずだから、そいつらからも話させっからよ。」
「ありがとう。でも、いいのかい?」
「構わねえよ。来る前の話はしない約束だが、来てからは関係ねえからよ。
色々やってんだぞ、あの親父。聞いてけ、すげえから。」
「ふふっ、すごいのは知ってるさ。
ずっと前からね。」
拙作にここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
本話をもって『冒険者オーガストの平穏万歳』は完結となります。ここまで書き続けられたのは読んでくださった皆様のお陰です。
拙いところが多々あったと思いますが、お読みくださり本当にありがとうございました。




