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冒険者オーガストの平穏万歳  作者: 蒸らしエルモ
1話:こうして冒険者は王国を捨てた
2/24

2:一週間も酒浸りならそりゃ判断力も鈍る

手慰みに書いていたら、存外書けてしまうもので驚いています。

メインで書きたかった方は、全然筆が進まないのに不思議なものです。


 朝から酒が呑めるのは最高だ。


 王都に戻ってきて一週間。ギルド隣の酒場でグラスを傾ける日々だ。

 これがなあ、温い葡萄酒じゃなくて、グラスに張り付いた結露が凍りつくくらいキンキンに冷えたビールだったらなおいいんだが。

 無いものねだりをしても仕方ないか。


 クイッとグラスを空にする。

 これが休日の終わりだ。


 最高の日々ではあったがさすがにこれだけ休めば十分だ。

 いくらか動かしていたとはいえ身体も鈍ってしまう。

 仲間探しもしなければ、一応募集掲示を出しているが連絡はまだ無かった。

 今朝の葡萄酒一杯で休暇は終わりと決めていた。

 さあて、仕事に移ろうか。


 酒場の外に出る。太陽はまだ低い。

 朝一番に来た迷惑な冒険者とは私のことだ。


 そのまま隣の冒険者ギルドに入る。

 ここに来るのも一週間ぶりだ。

 中には既に何組か依頼を探しに冒険者パーティが来ていた。


 彼らを避けて依頼掲示板を眺める。


 この世界、冒険者は階級分けされている。

 まあ、よくある小説のような感じだ。


 掲示板を眺めながら連連と思考を回す。




 八歳の時、それはそれは驚いた。

 自分の中に覚えの無い記憶があることに気づいたからだ。いや、気づいたというのは正確じゃない。

 ふとした拍子に二つ目の記憶が生えていたのだ。あの感覚は恐ろしかった。気でも狂ったのかと思ったものだ。


 この二つ目の記憶はいくらか抜けがあった。

 たとえば名前、自分の名前はさっぱりだった。

 たとえば思い出、誰かと過ごした記憶が虫食いだった。

 たとえば最後、なぜ死んだのか、どう死んだのかは欠片も覚えていなかった。


 反面、つまらないことは覚えていた。

 やれゲームのルールだの、やれアニメのストーリーだの、そんなのは細かく覚えていた。


 ……実用的な知識は多くなかった。単純に知らなかったり知ってても使えなかったりしたのだ。

 半導体の作り方を一般人が知っているのか、拳銃を組み立てられるのか、魔法があるこの世界で内燃機関を作り上げて需要があるのか、そういう話だ。

 そして答えは全てノーだ。

 仕事にしてなければ知らないし、既に確立した動力があるのに不確かなものを開発など出来ない。


 そう言った理由で、八歳の時に恐ろしく混乱した二つ目の記憶は大して役に立たなかった。

 出番自体がなかったし、使い道もなかった。完全に余計な荷物だったのだ。

 それから一年もあればよく分かった。

 これ、内緒にしておけば誰も分からないわ。


 翻って一つ目の記憶、というか現在進行形私。

 こちらがメインなのは間違いなかった。

 男爵家の次男として学び、一人でも生きられるように鍛えた。


 いやでも、二つ目の記憶にも恩恵はあったか。

 八歳の時から、遊ぶことよりも自身の成長が気になるようになった。知識や技術に貪欲になったと思う。

 私に魔法の素質はなかったが、剣の腕を磨いた。

 思考力や記憶力も良くなった気がするからこれも恩恵かもしれない。かつての自分のことはずっと思い出せないが。


 それに恩恵とは言えないが、私の人生に冒険者という選択肢が加わったのは二つ目の記憶が目覚めてからだったと思う。

 その道に進路をとっているのだから、とても大きな役割を果たしたと言えるかもしれない。




 掲示板を眺めながら同時に思考が回せていることを確認する。この分なら酒のことは気にせずにいて良さそうだ。

 しかし今日もめぼしい依頼がない。

 王都周辺は安定しているため、他の地域からの救援依頼だのも掲示されているのが常だったはずだが、今はそれもない。

 なんだか妙だな。

 疑いながら首をかしげる。

 最近あんなことがあったばかりだから気にしすぎている可能性もあるが、なるべく変なことに関わりたくない。

 とりあえず小鬼退治くらいでお茶を濁すか。


 オベルビロイだの、ガージャバンダだのこの世界独自の怪物も多くいるが、小鬼のような異世界転生ものやファンタジー小説につきものな魔物もいる。

 おかしな話だとは思うが、多分ギルドとかの仕組みを作った人物が転生者で、そういう名前をまとめてつけたのだろう。

 そして耳に覚えの無い響きの名前の怪物は、名付け親がその人物ではないのだろう。


 ちなみに小鬼は弱くて群れているため面倒臭い部類に入る。

 ガージャバンダは強いが単体でいるため、信頼できるメンバーが集まれば比較的楽な部類である。……一対一で洞窟の中、と言う条件は基本的に餌となるため考慮に値しない。


 小鬼退治の依頼を取ろうと受付に向かう。


 受付には先客がいた。

 仕立てのいい服を着た背の高い男である。私が175を超えるくらいだから、身長は190近いだろうか。茶色い髪は整髪油で後ろに撫で付けられており、神経質そうな顔をした若い男だ。ほぼ確実に冒険者ではない、貴族か。いや、貴族なら護衛がいるはずだから家中の者だろう。この若さなら執事ではなく使用人か。


 横目に見ながら離れた受付に行こうとする。

 巻き込まれると決まったわけではないが、用心に越したことはない。


 用心をするなら、そもそも受付に近寄らずにいるべきだったのだろう。


「あ!オーガストさん!ちょっと来てください!」


 少女に呼びかけられる。それは今避けようとしていた面倒事、使用人らしき男がいた受付の担当をしている少女だった。

 無視は出来ない。

 内心ため息を吐きつつ、そちらへ向かう。


「何か御用でしょうか。」


 初対面であるし、とりあえず下手に出る。依頼人であるだろうし。


「うむ、私はセイゲル騎士団の者だ。

四日前から腕の立つ者を数人集められないか探していてな。」


 予想外である。騎士団?このなりで?

 さらに言えばセイゲル騎士団は、王国騎士団の中でも序列二位の地位にある。序列一位が近衛騎士団だと言うことを考えれば、市井を守る最高位の騎士団である。

 それが冒険者を雇おうとしているとは一体どんな話なのか。

 面倒事だと感じていたはずなのに、自分でも興味を引かれているのが分かった。


「セレーナ嬢、彼の話はギルドも聞いているものか?」

「はい、それで腕の立つ冒険者としてオーガストさんの名前もこちらで出させてもらいましたが、あなただけ数日ギルドに顔を出さなかったので、先ほど声をかけさせて貰いました。」


 もっと頻繁に来いと嫌味を言われてしまった。

 というかこれ、断れる状況じゃないな。

 ギルドの推挙、騎士団の権威、数日待たせた負い目、三つも重なれば逃げようがない。


「依頼を受けようと思うんだが、詳細は?」

「騎士団の本部でしよう。他の冒険者にもそちらで話した。聞いた上で断るのであればそれはそれで構わない。現に一組に断られた。」

「他に依頼する予定のある冒険者はいるのか?」

「あなたで最後だ。誰に依頼したかは本部に行けば分かるだろう。」


 好条件である。

 それに途中からわざと敬語を使わないで様子を見ていたが、こちらを見下す気配は無い。しっかり教育されているということか。

 だからこそ疑ってしまうんだが……。

 話を聞いてダメそうなら断ろう。

 そう心に決めると、悩んでいるのもばかばかしく感じてくるものだ。

 頷きながら了承の返答をする。


「では早速移動しようか、兵は拙速を尊ぶというらしいからな。」


 驚いた。思わず漏れそうになる声を必死にこらえる。

 幸い、二人とも私を見ていなかった。


 孫子の一節を騎士団の男は口にした。

 そんな言い回し、この世界に存在しないはずなのだ。しかも、誰かから聞いたような言い方である。

 つまり、この先出会うかもしれない、もっと言えば騎士団本部で待ち構えている可能性が高いということだ。


 猛烈に行きたくなくなってきた。


 しかし、今更行きもせずに断るわけには行かず、騎士団の男の後に続いてギルドを出る。

 彼は馬車に乗って戻ると言うので、本部で会うことを約束してその場は分かれることになった。

 どうやら彼は結構身分が高いようである。敬語使わないといけないだろうか。


 騎士団の本部に向かって歩きだす。

 踏み出す足は異様に重たく感じた。

ご高覧くださりありがとうございます。

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