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冒険者オーガストの平穏万歳  作者: 蒸らしエルモ
3話:帝都で大騒ぎ
19/24

19:ソロの私は護衛依頼を受ける機会があると想定していなかった

すみません。仕事がちょっと忙しかったもので。

7/19の分になります。

この埋め合わせは近日中にしたいと思います。


「だァから!他にも雇えって言ったろうが!」


 襲い来る小鬼の群れを片っぱしから斬り殺して叫ぶ。

 誰だってこうなれば苛立つだろう。

 学院の連中、戦えるから冒険者など要らないと宣ったくせにいざ血を見たら音を上げやがって。


 学院の調査班を後ろの遺跡の入り口に押し込めて、小鬼に混じって犬鬼まで現れるようになった群れを叩く。

 一匹一匹は雑魚だが、こうも数が多いと手が回らず、減らすよりもどこかから新たな群れが合流する方が早くなってしまう。

 ゲームなら養殖だの言って重宝しそうだが、生憎なことに現実なため、ただひたすらに厄介だ。


「次からは吝嗇も大概にしな!」


 後ろの連中に向けて文句を言い、身体は動かし続ける。

 一人遺跡の外に突っ立っていれば魔獣どもの的になるだけだが、それを活かして引き付ける。

 [明け星]を振り、どうにか剣撃で結界を作る。死体が周囲に積み上がる。

 死体の山で砦を、剣撃で壁を作り上げ、それでも襲い来る魔獣を殺し続けた。

 山を越えて飛び降りてきた小鬼を空中で開きに変え、足を狙い駆けてくる犬鬼の首を落とす。


「わらわらと鬱陶しいィ!」


 切り札を切る。


 流石に集まりすぎていた。明らかに異常だ。

 かつて経験した魔獣災害手前の時でも、こんなに魔獣が集まってくることはなかった。

 これ以上はまずい、と本能が訴えかけてくる。

 後ろから何か呼び掛ける声が聞こえてくるが、聞いていられるほどの余裕はない。


「[明け星]よ!」


 魔力を叩き込まれ、鍔にはめ込まれた瑠璃玉が、竜の瞳が青く輝く。竜の咆哮のように、循環した魔力が唸りをあげる。

 全身に力が満ちていくのが分かった。万能感に笑い出しそうになるが、今はそれどころではない。

 淡く光る[明け星]を頭上に掲げる。


輝け(シャイネン)!」


 剣身から青き光が放たれる。木々に囲まれ薄暗い周囲が、瞬間、青く照らされる。

 光に照らされた魔獣たちがバタバタと倒れていく。

 青い光、浴びると倒れる、即死、ここではない世界での記憶が何かを訴えるが黙殺する。

 光を浴びず倒れなかった生き残りを仕留め、辺りは沈黙に包まれた。

 動くものの気配は無い。


 魔剣を鞘へと納め、遺跡の中へと入る。

 薄暗い石の部屋。

 そこには六人の男女が居た。

 その中の一人が声をかけてくる。

 白い髭を整えた身なりの良い紳士だ。


「……終わったのか。」

「ああ、何とか片付いた。だが、死体が残っている。」

「すまないな、君の言う通りにするべきだった。処分くらいは手伝おう。」


 調査班の長である初老の男、ラデューンがこちらに頭を下げ、死体の処分まで申し出てくれた。大変ありがたい心持ちである。これが来る前であればと嘆かずにはいられない。

 実際に嘆いて見せれば険悪になること請け合いなので、申し出に感謝して死体の処理を手伝ってもらう。

 外に出れば、死体はおおよそまとまって山になっている。

 であれば後は燃やすだけだ。


 調査班の一人、赤錆色の長い髪の女が進み出て何かを唱えると、死体の山が一気に燃え上がる。


「魔術師か……。」


 思わず呟く。自分の才能に不満は無いが、無いのだが、魔術を扱うことに対して憧れの気持ちを抱くことを禁じ得ない。

 憧れと諦めと納得とが入り雑じった独言に脇から返答がなされる。


「いかにも、彼女は魔術師だ。そして、【剣士】でもある。」


 驚き、声の主、すなわちラデューンを見る。

 確かに彼女は腰に剣を携えていた。魔獣相手に抜けなかったが、拵えを見るにそれなり以上の名剣だった。

 しかし。


「そんなことがあるのか?」

「あるとも。

君は魔術について誤解しているな。」


 そう言ってラデューンはニヤリと笑う。

 こちらを見上げるその顔は得意気だ。知識を誰かに話すことが嬉しくてしょうがない、そんな顔をしている。

 老紳士は燃える魔獣を見ながら講義を始めた。


「原初、偉大なる主は土と水の混じりあった泥に命を吹き込み我らを生んだ。

生み出された我らは闇に怯え、主に縋った。どうか我らを助けてくれ、と。

主は我らを哀れみ、火を授けた。我らは闇に立ち向かうことが出来るようになったわけだ。」


 ここまでは良いな、と確認の視線を向けてくる。頷きを返す。

 お伽噺みたいなものだ。皆が知っている。これが魔術を扱う話と、何の関係があると言うのだろうか。


「この時与えられたという火については解釈が分かれていてな、そのままの意味に捉える者も、武器と考える者も、才能のことを指すとする者も、はたまた魔術のことであるとする者もいて、様々だ。

そして私は、これら全てが火であったと考えている。」


 ラデューンが身体ごとこちらに向く。

 火に照らされながら、講義を続けていく。

 全身が赤々と照らされる中、老紳士の目は爛々と輝いていた。


「時に冒険者君。君は弓を射れるかな。」

「一呼吸に十射放つとかでなければ。」

「……それが出来れば本職が泣くぞ。

いや、それは良い。君は【魔剣士】だ。だというのに、弓を射れる。才能が行動を制限するならこれはおかしな話だろう。

私だって振るだけなら剣を振れる。これも才能が行動を縛るなら起き得ない話だ。

つまり……。」

「……才能は絶対じゃない。」


 思い返せば爺さんも似たようなことを言っていた。


「その通りだ。

【魔剣士】であっても弓を射れるし、【算術士】でも剣を振れる。【神官】であっても魔術を使える。」


 ラデューンは言い聞かせるように告げる。


 我ら人の可能性は想い描くよりも遥かに大きいのだ、と。


 その目は輝きに満ち、晴れやかな笑顔でこちらを見ていた。



 ラデューンたちとともに遺跡の中へ再度踏み込む。

 遺跡は半分ほど地下に埋もれた石造りの建物で、入り口付近は若干崩れている。

 中に入るとあるのは埃臭い石の部屋だ。八畳ほどの何もない空間で、石で作られ薄暗いこともあってとても狭く感じる。

 部屋の奥の壁には、更に奥へと通じる道が伸びていた。

 カンテラで照らしながらその通路を進む。

 通路は人が一人通るので精一杯なほど狭い。一列になって入っていった。先頭は私。その後ろにラデューンら調査班が続く。

 歩いていて分かった。僅かに傾斜している。少しずつ下へと潜っているようだ。


 百歩をとうに過ぎ、そろそろ二百歩になる頃だった。

 地上ではどの辺になるだろうか。近くにあった湖の方へと向かっていると思うのだが。

 そんなことを考えていると曲がり角に当たったのだ。通路は左折している。

 曲がると傾斜は先ほどまでよりもきつくなっていた。

 思わず足を止める。空気とか大丈夫なのだろうか。


「どうした?先へと進んでくれ。」


 後ろからかかる声に押されて、再び進み始める。

 足元の空気はやけに冷たい。だというのに、背中にはじんわり汗が滲んできていた。

 唾を飲む音がはっきり聞こえる。

 誰もが無言だった。

 そう、誰一人喋っていなかった。無駄口を叩いていないのではない。通路を分析したり、この先を予想したり、そういった言葉すら何一つ無かった。

 遺跡に来るまでの道中に彼らが見せていた、歓談をしたり、気遣いを見せたりしていた、あの血の通った暖かさが、まるで感じられなかった。

 無言のまま通路を歩く。

 背後の彼らは冷徹な機械のようであった。あるいは、良くできた兵隊のようでもあった。


 一つ気付くと色々なことが見えてくる。

 足音は間隔が一定で、歩数で距離を測る習慣が身についている。

 これだけ歩いているのに、学者然とした見た目と裏腹に呼吸は全く乱れない。

 地下で明かりはカンテラだけだというのに、その動きは危うげない。

 調査に訪れたはずなのに、一直線に何かを目指すように進み続けている。

 耳に入る微かに金属の擦れる音、これは鎖帷子を着込んでいる音だ。


 だが、何も言わない。沈黙は金だ。

 気付かなかったことにする。


 曲がり角から更に百歩近く歩いた。

 薄暗い通路の先に、更に暗い闇が見えた。

 どうも空間が広がっているようで、明かりで照らしきれていないのだ。

 押されるようにしてその空間に近づいていく。


 広い広い空間だった。向こうまで照らしきれず、天井もよく見えない。

 先ほどまで狭苦しい通路に押し込められていたからか、地下だというのに解放感すら感じていた。


「着いたか。」


 ラデューンがぼそりと呟く。

 その声からは、地上で才能について語ってくれた時のような活気が全く失われていた。


「行くぞ。ついて来い。」


 ラデューンが先導して歩き始める。

 目指すものはすぐに明かりに浮かび上がった。


 大きな石のアーチだ。


 高さは4mほどで、人が三人ほど横に並べるくらいの幅をもったアーチが立っていた。

 周りには何もない。

 この広い空間の中で、このアーチだけが存在していた。


「門を開けた君は知っているだろう。

才能を与えるもののことを。

人はそれを神と呼ぶ。あるいは世界。あるいは主。はたまた別の名か。

とにかくそれは才能を与える。」


 ラデューンが低い声で話し始める。

 それに合わせて取り囲まれる。逃げ道は一つだけ。あのアーチの方向だ。


「君も知っているだろう。この首輪を。

君ほどの人物ですら、自然と可能性を狭めてしまうこの首輪を。」


 そこで気付く。

 こいつら全員門を開いてやがる。


「皆を等しく世界の奴隷とするこの首輪は、しかしながら等しい物ではない。

分かるだろう、才能には大小がある。門の大きさがそれだ。」

「だからなんだ。神様に反乱でもしようってのか。」


 ラデューンは目を見開き、口は半開きで固まる。

 その顔には、そんなこと考えもしなかったとありありと浮かんでいた。


 暫しの沈黙。それからラデューンは大笑いを始めた。

 一頻り笑った後、ラデューンは目元を拭いながら言う。


「そうだな、先ほどまでの言い方では誤解も招くか。

ただ少し嘆きたかっただけなのだ。紛らわしくてすまなかったな。

門を開いた我らとて奴隷だよ。奴隷は逆らえぬから奴隷なのだ。

私たちは命じられただけだ。君を此処へ連れて来い、とな。」

「……誰に命じられたんだ?」


 答えは予想できていた。

 しかし返答したのは予想外の存在だった。


<それは我が主ですよ>


 答えたのは、久しく黙っていた魚群もどき。

 私にはめられた才能の首輪だった。


 魚群もどきがうねる。視界の中を移動していき、アーチの前で止まった。


<話をしましょう>

<あなたと> <我らと> <世界の話を>

次回更新はちょっと未定です。

なるべく早い内にお届けしたいと思います。


ご高覧くださりありがとうございます。

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