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冒険者オーガストの平穏万歳  作者: 蒸らしエルモ
3話:帝都で大騒ぎ
15/24

15:侮れない男

サンブレイク楽しいのでその休憩に書きました。

最近ゲームが長時間出来なくなってきました、悲しいです。


「はっ!銀鬼級と聞いたが、きっと嘘で手にした身分だろ。」


 壁には本や資料が収納された棚、床には毛足の短い絨毯。前世の単位で言えば、二十畳くらいの部屋の中で一際存在感を放つ、ブナの丸太から削り出された特注の机。調度品の数は少なく、部屋の隅で観葉植物らしき鉢植えが肩身を狭くしている。

 誰かをもてなすためではなく、部屋の主が気持ちよく働くために設えた事が分かる、そんな部屋である帝国立魔術錬金術学院の学長室、そこに私は呼ばれていた。のだが、何故か罵倒されていた。少年に。

 どうしたものかと困っていると、嗄れ声が少年を宥める。


「ルネウス、控えていてくれないか。」

「何だと、私に命令するつもりか!」


 年配の男性に噛みつく少年。このやり取りだけで、大体分かった。

 やはりクソ依頼だ。

 嘆息するこちらに構うことなく、少年は学長らしき男性に食って掛かる。

 身分がどうのと聞こえてくる。どうやら学長の方は家が格下で少年に対して強くは出られないようであった。

 王国でも何度か見た光景である。

 まさか帝国でも見るとは思わなかった。

 依頼への関心がどっと薄れていくのが感じられる。ダラムに悪いが断りたい。


 口論、というか少年が一方的に相手を詰っているのだが、まるで聞くに堪えないので、学長室の内装を見て暇を潰す。


 扉からして他の部屋より格上であった。

 マホガニーの分厚い板に彫刻が施されていた。外側はあまり見る時間がなかったが、内側にはこの世界の創世神話の一場面、[火を授かるベイウェン]が彫り込まれていた。

 火は、知恵であり、武器であり、魔術であるとされている。なるほど、魔術を学ぶ場の長が毎日目にする物としてピッタリだ。

 その見事な彫刻に感心しつつ、部屋の右側の壁を占有する本の群れを眺める。左側では今も醜い行いが繰り広げられていた。

 見事な装丁の本たちである。もちろん此処に置かれている物は、重要性の点で言えば一段落ちる物だろう。

 だが、そもそもこの世界で本はそれなり以上の高級品なのだ。識字率や製本技術、量産体制全てが前世に劣るため、本の必要性や生産性は低くなっている。だと言うのに、壁一面を埋め尽くすほどの蔵書があるとは、これが個人の所有だとしたらいくらになるか。

 さらに、本棚を眺めていて気づいたが、この棚の本たちに詩集は入っていないようだ。

 こちらの世界で需要がある本は、詩集や物語の本である。なぜなら、本自体が貴族階級の娯楽品だからだ。もちろん専門書のようなものもあるにはある。だが、こちらは詩集等に比べて割高になっていた。

 その割高な本たちが壁一面、身分差があるとはいえ少年に強く出られない姿を見ていたため、少し学長を侮っていたかもしれない。


 いつの間にか、隣で騒いでいた少年は静かになっていた。

 少年は憎々しげな瞳で、学長は何か面白がるような目をして、二人でこちらを見ている。

 何か話がまとまったようである。


「やあ、見苦しいところをお見せしたね。私が学長のソールズ・ヘンブラムだ。よろしく頼むよ。

そしてこちらが……。」

「私が生徒会長のルネウス・ベルクサス・ヘンブラムだ。」

「彼は本家筋で私は分家筋なんだ。重ねて言うがよろしく頼むよ、オーガスト君。」


 こちらに敵対的な生徒の代表と何やら含みのある学長、猛烈に逃げ出したいが事ここに至れば投げ出すことは叶わない。

 失礼にならないように王国貴族の作法で返礼をする。

 学長が片眉を上げる。


「こちらこそお初にお目にかかります、学長閣下。」


 生徒会長のルネウスは意図的に無視した。

 この部屋の中で最も上位なのは学長である。次に呼び出されてきた私。生徒会長君は一番下なのだ。

 だと言うのにややこしいのは学外での身分を持ち出してきたからだ。それにより揉めて、待たされた事への抗議の意を込めた、のだが、どうも通じていないようだ。

 生徒会長君、顔が真っ赤である。

 ちょっとはポーカーフェイス作れないとこれから苦労すること請け合いである。


「さて、オーガスト君。

君に頼みたいのは依頼書にあったように、試験場での控えです。何事も起きないのが一番ですが、例年失敗と共に魔術や錬金術の暴走が発生しています。

君にはその対処をしてもらいたいのです。」


 よろしいですか、と聞かれたので肯定を返す。

 そこでふと疑問に思う。


「具体的に、どのような事態が発生すると思われるのですか?」

「召喚魔術や錬金術ですと、術士の制御下から外れて、自由に動き回ります。

時間が経てば自然と消えますが、放置して消失するのを待つと平均して八時間ほど掛かってしまいます。それに、種類によっては空気中の魔力を取り込んで、ほぼ永久に存在し続けることもあるので対処が必要なのです。」


 学長は朗らかに笑いながら言った。内容はとても笑っていられないようなものだが。


「……去年まではどうされていたのですか。」

「去年も、一昨年も、その前も、冒険者の方にお願いしていましたよ。

ただ今年は、ルネウスたちが自分たち生徒で対処できると言い出しましてね。

それで、冒険者の方を雇うにあたって学外からも横槍が入ったのですよ。生徒の活躍の場を奪うのか、とね。

仕方ないので自腹です。ですが、私も蓄えが多いと言えないのであの内容になった訳です。」


 いや参った参った、と髪をかき上げながら溢す学長。

 笑いながら内情をバラしているが、目は笑っていなかった。鋭く冷たい視線は生徒会長のルネウスに向いている。

 しかしルネウスは気づいていないようだ。


 学長は視線をルネウスから切り、こちらに向けて言った。


「まあ、というわけでよろしく頼みますよ。

オーガスト君には後で実験場と食堂の案内をします。言うまでもないことですが、他の場所は立ち入り禁止ですから気を付けてくださいね。」

「ええ、分かりました。大人しくしていましょう。」


 学長はにこやかだった表情を変える。

 急に眉根を寄せて申し訳なさそうに切り出した。


「オーガスト君、一つ頼みがあります。

君の実力を生徒に見せてくれませんか?」

「お断りします。」


 悩むまでもなかった。

 依頼内容外の頼みは受けない。これは冒険者の基本である。

 ルネウスが横でまたなにやら喚きだすが、これは譲れないところだ。

 学長としっかり目を合わせ、否定の意を伝える。


「……だろうね。

冒険者の基本だからしょうがないことです。」


 学長は断られたのに何故か安堵した様子である。

 ……そうか、それはルネウスの側から出てきた話か。

 ちらりと横目でルネウスの方を見やれば歯噛みしていた。顔に出まくりである。


 学長は机上に置かれていたベルを鳴らす。程なくして扉がノックされた。


「では、オーガスト君。

試験場と食堂に案内させます。外の彼女に着いていってください。」

「私も行くぞ。

禁止区域に立ち入らないよう監視しないとな。」

「ルネウス、ダメですよ。」

「いや、行かせてもらう。止めても聞かんぞ。」

「……仕方ないですね。」


 学長もう少し粘ってくれ、そう思ったが案内の同行を認められてしまった。

 使用人の少女に案内されて試験場に向かうことになった。ルネウスは仏頂面で後ろを歩いている。


 数分歩いて試験場に着いた。

 試験場はギルドの鍛錬場とよく似た、天井の高い足元が土で固められた広い空間だ。

 前世にあった大きめの体育館を思い浮かべると大体合っている。

 連れられて中央まで歩いていく。

 何かあるのか、と思っていると入ってきた扉が勢いよく閉められた。

 扉の向こう側に立ち、ニヤニヤと笑うルネウス。

 使用人の少女は、扉が閉まったのが合図だったのかどこかに走り去っていく。


 一人、試験場の中央に立つ。

 次は何をしてくるのか。大方予想はついた。

 閉じ込め、一人にしたならば、戦力をぶつける。これが常道だ。

 腰に吊るした魔剣たちを、鞘の上から撫でる。

 学長は何も言わなかったが、おそらく魔剣と気づいていた。それでも何も咎めなかった。

 彼は侮れない。

 では、今から出てくる敵はどうなのか。


 穏やかに、緩やかに、酒でも飲んで楽しく暮らす。それが一番だが、でもたまには暴れたい。それもまた否定できなかった。

 学長の頼みは断ったものの、本音を言えば魔術や錬金術を相手にしてみたかった気持ちもある。それが叶えられるとなれば、正直なところありがたかった。


 強い相手が出てくるといいな。

 唇が緩く弧を描く、それが分かった。

ご高覧くださりありがとうございます。

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