14:酒場と冒険者と新たな依頼
今回から活動拠点が帝都に変わります。
オーガストの冒険の行く末を見守ってください。
「おいおいお~い、また今日も呑んでるのかい?」
ここはフュークラン帝国の帝都南街区、そこにある冒険者ギルドと隣接した酒場の中だ。
こうやって昼から一人でグラスを傾ける冒険者って少しハードボイルドな感じがするな、などと下らぬことを考え悦に入っているところに邪魔が入る。
「誰だ、お前?」
「いや、ボクだよ!帝都に戻るところで君のこと拾ってあげた《銀の鏃》のヘスだよ!
……ねえ、このやり取り何回繰り返すの?」
もう三週間前になる。
ウタン省のネメンセ州と言う、帝国内でも有数のド田舎を飛び出して帝都に向かって歩いていたところ、商隊に出くわしそのまま同行する流れとなった。
商隊とは帝都の西街区で分かれてそれっきりだが、何の因果か商隊護衛をしていた黒狼級パーティの一つ、《銀の鏃》は南街区に活動拠点を置いていて、こうして酒場に居ると時折絡んでくるのだ。
「あー、ヘス。今忙しいんだ。」
「もうちょっとマシな嘘つきなよ!
どう見ても呑んだくれてるだけじゃん!」
そしてヘスは《銀の鏃》の中でも一番こっちに絡んでくる。
肩口で切り揃えた薄紅の髪を振り乱して迫ってくる。こちらが椅子にかけていても、目線が頭一つ分程度しか変わらないくらい小柄なため迫力に欠ける。
「呑む他に何しろって言うんだ。」
「いや、依頼を受けなよ!冒険者じゃん!」
「そうは言ってもなあ……。」
他の街では好きで呑んでいたのだが、帝都に来てからは呑むしかないと言うのも本当のことである。
何せ仕事がない。
正確には、ソロの冒険者が受けられる仕事がない。
考えてみれば当然のことであった。
山賊退治は当然のことで、魔獣の討伐依頼なんかもほとんどなかった。帝都ともなれば然もありなん。きちんと整備されて安全なのだ。
州都のくせにあの有り様だったネメンセは、普通考えられないくらいひどい状態だったのである。
帝都で主流となる冒険者への依頼は護衛だ。
当然、一人で出来るようなことではない。それに、冒険者と依頼主の間である程度通じているので新参が入り込む余地は少ない。
そう、そもそも余所者が一人だとお呼びがかからない。
そんなわけで、グラスを乾かすくらいしかすることがないのである。中身をすぐ注ぎ足してしまうが。
「はあ、君もしょうがないヤツだな。
でも、ボクは親切だからそんな君も参加できる依頼を見つけてあげたよ!」
「何故そんな要らんことを。」
「またまたぁ、強がり言っちゃって。
君が鍛錬を欠かしていないことは知ってるよ。
依頼、ホントは欲しいでしょ?」
視線をグラスから離してヘスの方に向ければ、ニンマリとした笑みを浮かべて奴は立っていた。
「ふふん、感謝して良いよ。このボクにね!」
「そいつは御免だ。」
「ええ~……。」
そこへ脇から声がかかる。
「ヘス、まだやってるのか。」
「ダラム、お前までどうした。」
声をかけてきたのは《銀の鏃》のリーダー、ダラムだった。
背の高い男だ。体格も良い。
自販機よりもでかくてごつい男だ。そんなものこちらにはないが。
悩みは子供が怖がることだと言っていたが、大人でも怖がるような強面だ。得物が巨大な棍棒と言う、イメージにぴったりなものを使っているのも彼が怖がられる一因かもしれない。
そんな彼だが、口は堅いし、仕事は出来るしでギルドの信頼が厚く、更には貴族、帝国では一等市民と言うのだが、からも覚えがめでたい有力な冒険者なのである。
こんな昼間から酒場に居るような人物ではないのだ。
「どうしたも何もお前に依頼だ。オーガスト、面を貸せ。」
「……貸すのはいいが、どんな依頼かくらいは聞かせろ。」
「ヘス、こいつを相手に話する時は本題から入れと言っただろ。」
「いや、だって、なんか断ってくるから。」
「断ったらダメか聞いてなかったからつい、な。」
ヘスに恨みがましげな目で見られるが流す。
いや、その、ちょっとは悪かったと思ってるよ。
「……でだ。ダラム、お前が持ってくるような依頼ってのはどんなやつなんだ?」
「……はあ。見た方が早い。読め。」
そう言ってダラムは一枚の皮紙を渡してくる。
━━━━
『依頼:警備』
・場所:帝国立魔術錬金術学院
・依頼者:学院長ソールズ・ヘンブラム
・期間:三の月三日から四日間
・依頼内容:卒院前の試験にて、召喚魔術及び
錬金術の実践を行うのだが、突発的事態に
備えて待機し、場合によってはこれに対処
をして欲しい。
・待遇:宿泊場所提供(実験場)
三食提供(学院食堂)
ポーション提供(有償)
・報酬:一人当たり小金貨10枚+出来高
━━━━
「……見えてる地雷踏みたくねえんだが。」
<地雷?>
(なんでもねえよ。)
思わず呟いてしまったことに反応してくる首輪を軽くあしらう。
「ダラム、言いにくいけどこれクソ依頼じゃん。」
「いや、ハッキリ言ってんじゃねえか。」
軽口を叩きつつ依頼書を眺める。
何度見ても内容は変わらなかった。
まず依頼者である。
帝国立魔術錬金術学院、それは才能ある貴族の中でも一握りが通う名門校である。
つまり、天狗になった貴族と顔を会わせやすいということである。最悪だ。
それから依頼の内容は、正直に言ってこちらも最悪だ。ぼかされているが、まず間違いなく戦闘が発生すると見ていいだろう。
問題はその敵の強さだ。
小鬼程度ならいい。豚鬼や犬鬼、オベルビロイくらいでも構わない。ガージャバンダが出てきたとしてもなんとか出来るだろう。
だが、それ以上はどうなるか。周囲の被害を考慮に入れなければもっと強くても戦えるだろう。しかし、周囲を守ることが依頼なのだ。それは足枷となる。死へ一歩近づく要因となり得るのだ。
ついでに報酬も割に合わない。出来高がいくらになるかは不明だが、基本報酬が小金貨10枚は吝嗇が過ぎる。
戦闘が想定され、四日間の拘束、報酬は金銭のみであることを考えると、倍は欲しい。依頼によっては、これより楽で三倍の額を貰えるものだってある。流石に値切り過ぎである。
どうやって断るか。
今、脳内を駆け巡る思考は反対一色だった。
当然である。依頼者も推測される依頼内容も、そこから導き出される報酬の割に合わなさも、てんで話しにならなかった。
こんな条件で受諾する方が悪い。そう言えてしまうほどの依頼だ。
だと言うのに、ダラムは渡してきた。
どういうつもりだとねめつけると、ダラムは困り顔で答える。
「……あー、悪いが受けてくれないか。
長い付き合いの人に腕のいい奴紹介してくれって頼まれちまってな。断れなかった。すまない。」
「私はお前らのパーティに入ってない部外者だぞ。」
「いや、本当にすまない。
俺たち明後日から遠征でな、その依頼の日は帝都に居ないんだ。で、頼まれた時に一番腕がいいのはオーガストだと、つい答えてしまったんだ。」
「評価してくれているのはありがたいんだがな……。」
「ああ、無理を言ってる自覚はある。だから、その依頼の報酬に加えて、受けて貰えるなら俺からも追加の品を出させてもらう。」
そう言ってダラムは、収納袋からグラスと同じくらいの大きさの木製の小箱を取り出し、テーブルに置く。
促され、小箱を手に取り蓋を開ける。
中には宝石と思われる綺麗に磨かれた青い石が鎮座していた。
「ケケレウルムの魔石だ。売れば小金貨二十枚は下らないだろう。」
魔石、それは年経た魔獣の体内で時折生成される結晶体の名だ。どれも宝石のような見た目をしているといい、強力な魔獣から取れた物ほど輝きが強いという。
魔石を利用する技術は現在存在しないため、観賞用以上の価値はないが、希少性と美しさから高値がつくことは多い。
そして、魔獣ケケレウルム。白鳥に似た人よりも巨大な鳥の魔獣だ。討伐にあたって推奨されるランクは銅亀級とそこまで高くないが、とてもタフで仕留めるまで時間がかかりやすいため冒険者たちから嫌われている。
厄介な攻撃は無かったが、羽毛が丈夫で斬撃も打撃も通りにくく、首をへし折って仕留めたことを覚えている。
つまり、ダラムの出したケケレウルムの魔石は紛れもなく高級品であり、小金貨二十枚どころか出すところに出せばその数倍は軽く届く代物であった。
「……分かった。受ける。受けてやるよ。」
こちらが貰いすぎなほどの対価だ。
それに、ダラムは好ましい人物であるため、彼の願いを無下にしたくない。
「ダラム、二度目はないぞ。」
だが、釘は差しておく。
都合よく使えると思われるのは、相手が誰であっても冒険者として致命的だからだ。
「ああ、もう二度としない。これは借りだ。」
「分かってるならいいさ。」
ダラムは生真面目な男だから、そこまで心配しなくても良さそうだが念のためだ。
「話は纏まったね!これからご飯でも食べに行こっか!」
「ばーか。こっちはこれから残りを飲むんだよ。一人で行け。」
「うわ、寂しい奴だな君は。」
「うるさいな。これから前衛組で話しながら飲むんだよ。」
「俺も飲むのか!?」
「えー、ダラムも飲むならボクも飲むよ!」
帝都も直に夕暮れが迫る。
《銀の鏃》も遠征だというが、明後日に発つのであれば今日くらい飲み明かしても大丈夫だろう、多分。
たまには誰かと飲むのも悪くない。
不本意ながら次の仕事が決まったのだ。
前祝いにパーっとやろう。
男三人馬鹿話。世は並べてこともなし。
毎日がこうであれば良いと言うのにな。
⚪帝国市民制度
<序列>
・一等市民
王国で言う貴族階級
・二等市民
いわゆる富裕層
・三等市民
王国で言う平民階級
・四等市民
貧民層、スラム街の住人や寒村の村人など
・五等市民
奴隷階級
・等外市民
冒険者や他国からの移民
移民はそのうち等級ごとに振り分けられる
二等から四等までは一定期間の納税額によって決定される。そのためある程度は成り上がりが可能。
五等市民は人間というより財産として扱われる。
農奴の家系は農奴のまま、と定められていて抜け出すことは出来ない。
等外市民は納税額や功績によって二等から四等相当の扱いを受けられるが、犯罪行為を働くと他の階級より厳しく罰せられる。
一等市民内でも序列があり、家系の古さ、勲功の数、現在の役職など複雑に絡んでおり、それが故に希に、どちらが上か論戦が発生したりする。
ご高覧くださりありがとうございます。
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