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夢現彷徨  作者: 香久乃このみ
6/10

その6

 鈍い落下音が聞こえた瞬間、トモは喉が張り裂けんばかりに叫びだした。

「イヤッ、イヤッ、イヤァアアア!!」

 トモは気が狂ったように頭を振る。

「トモ、シッ、声! 『パピヨン』に気づかれる!!」

「だってあいつ、今の、イケベじゃん!!」

(イケベ?)

 颯希は半狂乱状態のトモの肩を掴み振り向かせる。

「今の落ちて行った子、知ってるの?」

「……っ」

「アンタには関係ねぇ!」

 マナが颯希を突き飛ばし、トモを抱きしめた。鋭い目で颯希を睨んではいるが、唇がわずかに震えていた。

「関係ないって。ここを出るためには、少しでも今は情報が……」

「ジョーホージョーホーうっせぇよ、関係ないっつってんだろ!!」

「……」

 トモはマナの腕の中でガチガチと震えている。マナは子どもをあやすように、トモの背を撫でていた。

(今の2人からは話を聞けそうにない……)

 颯希は窓辺に近づき、恐る恐る下を見た。

(いない……)

 たった今目の前を落ちて行った少女の姿は、どこにも見当たらなかった。

(確かに、地面にぶつかる音がしたのに)

 落下していった少女の姿を思い出す。

(また、制服がトモたちと同じ茅南だった。それに……)

 1人で探索していた時に、ちらりと見かけた少女の姿を思い出す。教室の中で、1人心細げにうつむいて立っていた、ナチュラルボブの。

(あの時のあの子じゃなかった?)

 トモの口から飛び出した『イケベ』という名前。

(あの2人はおそらくさっきの子を知ってる、ここに招かれた理由もそれが関わっている可能性がある。でも私はイケベなんて子知らない。なぜ私もここに閉じ込められたの?)

 キシッ……

「!」

 床のきしむ音に、3人がびくりと身をすくませた。

 キシッ……キシッ……キシッ……

「あの音……」

「シッ」

 3人は息を殺し机の陰に身を潜める。と同時にすりガラスに犬の横顔が映し出された。ゆっくりと移動してゆくのを、かたずをのんで3人は見守る。その時だった。

「きゃあああっ!」

 トモがかん高い悲鳴を上げた。見れば先ほど瓶から逃げ出した芋虫が、じわりじわりと彼女のふくらはぎをよじ登っている。

「いやああっ、取って! 取って取って!!」

「トモ、声……!」

 マナが身をかがめ、ばたつかせるトモの脚から芋虫を摘まみ取った瞬間、澄んだ破砕音が轟きガラスが飛び散った。間髪おかず唸り声を上げて『パピヨン』が飛び込んでくる。

「いやあっ! マナ、なんとかして!」

 悲鳴と共にトモは『パピヨン』に向かってマナの体を突き飛ばした。

「え……」

マナが目を見開きひっくり返る。そこへ『パピヨン』が襲い掛かった。無防備なマナの腹部に、犬の牙が沈み込む。ずるりと臓物が引きずり出された。

「アァアアァアッ!! 痛いっ! 痛いぃい!!」

 濁った悲鳴を上げるマナから目を逸らし、トモは引きつったような笑みを浮かべた。

「サツキ、今のうち!」

「……」

 あまりのことに言葉を失った颯希の手を引き、トモは生物室から逃げ出す。頭の中が真っ白に染まった颯希は、抵抗することなくそれに従った。


「どうして……」

 音楽室に逃げ込み、グランドピアノの側で崩れ落ちる。ようやく口が動くようになった颯希は、トモに問いただした。

「どうして、あんなことしたの……?」

「あんなこと?」

「マナを、犠牲にしたことだよ」

「わざとじゃないよ? 仕方なかった」

(仕方なかった?)


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