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夢現彷徨  作者: 香久乃このみ
4/10

その4

 ふと、廊下の向こう側にも階段があることに颯希は気づく。

(階段は校舎の両端にあるんだ)

 もう一方の階段も調べようと、廊下を進んでいた時だった。

(ん?)

 早足で通り過ぎた教室の1つの戸が開いていた。その中に誰かがぽつんと立っているのが見えた気がしたのだ。

(私たちの他にも迷い込んでしまった子が?)

 颯希はすぐさま引き返し、教室の中を覗く。

(あれ?)

 そこには誰もいなかった。

(変だな。一瞬だったけど間違いなく見たのに……)

 ナチュラルボブの髪でブレザーを着た少女だった。心細げにうつむいた姿は、しっかりと目に焼き付いている。

「……」

 颯希はぞくりと身を震わせる。

「夢だもん、色々あるよ。ははっ」

 わざと声に出して笑い、目的の階段に向かって足を進める。

(でも、あのブレザー……)

 トモやマナの着ていたものと同じデザインだったことに気づく。

(茅南の制服だったよね。それに……)

『パピヨン』の姿を思い出す。臙脂色の縁取りの入った襟、胸元のリボンタイ。

(下はスカートじゃなくてハーフパンツだったけど、ブレザーは茅南のものだった……。私以外は茅南の子ばかりってこと?)

 なら、なぜ自分はここに招き入れられてしまったのか。疑問に思いつつ歩いていると、足元がずるりと滑った。

「わ!」

 尻もちをつきそうになりながらもなんとか姿勢を立て直す。そして、鉄さび臭いにおいに気づいた。

「……っ!」

 足元にあったのは血だまりだった。

(ここは、エニの襲われた場所……)

 歩き回っているうちに戻ってきてしまったようだ。口元を抑え、薄明りの下の光景に目を凝らす。

(血、だけ……?)

 予想したエニの亡骸は、そこにはなかった。安堵しつつも1つの疑問が頭に浮かぶ。

(全部食べられたってこと……? 小柄とはいえ人間1人を骨まで残さず? それとも……)

 吸血鬼やゾンビなどの映画を思い出す。襲われた人間がモンスターになり、かつての仲間を襲うシーンが脳裏をよぎった。

(やめよう……)

 頭を振って望ましくない想像を振り払う。

(これは夢なんだ。色々あるよ)

 血だまりを通り過ぎ、階段に向かって足を進めた颯希の耳に、悲鳴が飛び込んできた。

(あの声は……!)

 トモとマナだ。バタバタと階段を駆け下りて来る足音が聞こえる。颯希はその悲鳴に向かって駆けだした。

「サツキ!?」

 飛び出してきた颯希の姿にぎょっとした後、トモが泣き笑いのような表情を浮かべる。

「犬女が来る!」

(あいつが!?)

 どこへ逃げるべきかと辺りを見回した後、颯希は先ほど階段を移動した際のことを思い出した。

(3階から地下に飛んで、もう一度階段を上ったら今度は2階に辿り着いた……!)

 ならすぐに階段を上れば、『パピヨン』がここに辿り着く前に別の空間に移動できるかもしれない。

(ただ、保証はない……)

 心臓が早鐘を打ち冷たい汗が背中を伝う。追ってきた犬娘の前に、おめおめと身を晒すことになるかもしれない。

(でも迷っている暇はない、イチかバチか……!)

「すぐにこの階段をもう一度上がるよ!」

「はぁ? バカか! バケモンがすぐ後ろに……」

「私は行く!」

 颯希はマナの言葉を最後まで聞かず、1人階段を駆け上る。

「あ、待ってぇ!」

 一瞬の逡巡の後、トモとマナも颯希に続いた。

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