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[短編]サンタブーツと父のカセットテープ

掲載日:2021/12/07



 入院していた父が亡くなった。


 80を過ぎていたので、家族みんなで穏やかな看取りが出来たと思う。


 葬式も終わって、クリスマスソングの流れる商店街を歩いていると、お菓子の入ったサンタブーツが目に入った。


「クリスマスか。毎年、父さんが買って帰ってくれていたなぁ」


 私は感傷的な気持ちになり、思わず買ってしまった。

 いい歳をしたおっさんが、真っ赤なサンタブーツを片手に冬の街を歩いている。


 案の定、母には「なんね、それ」と言われた。




 今日は、父の遺品整理の力仕事担当として、母に呼ばれていた。

 サラリーマン時代の背広など、もう誰も使わないようなものを処分するらしい。


「ずいぶん溜め込んでいたね」

「お父さんだからねぇ」


 父は古いものでも大事にとっておく人だった。

 古本に、服。けっこう昔の服は重いものだなと、科学の進歩を感じた。


 何十年も使っていないものが、どんどん出てくる。

 冬だというのに、汗が流れはじめた。


「ちょっと休憩…」


 母にぼそぼそと言い訳をしてから、縁側へ逃げた。

 埃っぽさからようやく解放される。


 外は曇り空で、暖かくもない。

 手持ち無沙汰に、その辺に置いてある箱に手を伸ばすと、父の入院時の荷物だった。

 箱には、油性ペンでカセットテープの文字。


 中を開けると、今時珍しいカセットテープとウォークマン。

 まだ使えるのかなと、イヤホンを耳に挿して、再生のボタンを押す。

 キュルキュルとテープの回る音。

 そして。



 子どもの声。



『おとーさん!おにぃちゃんがあたしのお菓子とったぁ!』

『とってません〜。同じサンタブーツのお菓子だから、そう見えてるだけですぅ〜。おまえ、ばっかじゃないの』

『こらっ!またアンタはいじめて!』

『ちがっ、お母さん、いたたた!』


 知らない子どもだと思ったが、よく聞けば、小さい頃の私と妹の会話だとすぐに分かった。

 母の声も少し若い。


 そんなとりとめのない会話がずっとイヤホンから聞こえてくる。


「父さん…」


 入院中の父が最期に聞いていたカセットテープ。

 それは小さい頃の私たちの声だった。


「物持ちが、よすぎるだろ…」


 いい歳をしたおっさんが、涙を流して縁側でうずくまっているなんて、なんの罰ゲームだ。


 父が亡くなる前に「クリスマスも近いな」と言っていた理由が分かった。


 私は帰りに、サンタブーツを仏壇に置いて帰った。

 母には、「いらんよ、そんなん」と言われたが、「正月に食べるから」と押し切った。


 遺影の中の父が少しだけ、笑ったように見えた。






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― 新着の感想 ―
[良い点] >けっこう昔の服は重いものだな ここで一気に物語が身近に、リアルになりました。 ああそうそう、そうだよねっていう実感が自分の手に重みとしてのってくる感じで。 そこからぐんと、季節感のある…
[良い点] ぐあああああーーーーん! たまらんすぎます! クリティカルヒットです…… ぐすすすん……
[良い点] お父さんにとって、何よりの宝物だったんですねえ。 しんみり、いいお話でした。
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