[短編]サンタブーツと父のカセットテープ
入院していた父が亡くなった。
80を過ぎていたので、家族みんなで穏やかな看取りが出来たと思う。
葬式も終わって、クリスマスソングの流れる商店街を歩いていると、お菓子の入ったサンタブーツが目に入った。
「クリスマスか。毎年、父さんが買って帰ってくれていたなぁ」
私は感傷的な気持ちになり、思わず買ってしまった。
いい歳をしたおっさんが、真っ赤なサンタブーツを片手に冬の街を歩いている。
案の定、母には「なんね、それ」と言われた。
今日は、父の遺品整理の力仕事担当として、母に呼ばれていた。
サラリーマン時代の背広など、もう誰も使わないようなものを処分するらしい。
「ずいぶん溜め込んでいたね」
「お父さんだからねぇ」
父は古いものでも大事にとっておく人だった。
古本に、服。けっこう昔の服は重いものだなと、科学の進歩を感じた。
何十年も使っていないものが、どんどん出てくる。
冬だというのに、汗が流れはじめた。
「ちょっと休憩…」
母にぼそぼそと言い訳をしてから、縁側へ逃げた。
埃っぽさからようやく解放される。
外は曇り空で、暖かくもない。
手持ち無沙汰に、その辺に置いてある箱に手を伸ばすと、父の入院時の荷物だった。
箱には、油性ペンでカセットテープの文字。
中を開けると、今時珍しいカセットテープとウォークマン。
まだ使えるのかなと、イヤホンを耳に挿して、再生のボタンを押す。
キュルキュルとテープの回る音。
そして。
子どもの声。
『おとーさん!おにぃちゃんがあたしのお菓子とったぁ!』
『とってません〜。同じサンタブーツのお菓子だから、そう見えてるだけですぅ〜。おまえ、ばっかじゃないの』
『こらっ!またアンタはいじめて!』
『ちがっ、お母さん、いたたた!』
知らない子どもだと思ったが、よく聞けば、小さい頃の私と妹の会話だとすぐに分かった。
母の声も少し若い。
そんなとりとめのない会話がずっとイヤホンから聞こえてくる。
「父さん…」
入院中の父が最期に聞いていたカセットテープ。
それは小さい頃の私たちの声だった。
「物持ちが、よすぎるだろ…」
いい歳をしたおっさんが、涙を流して縁側でうずくまっているなんて、なんの罰ゲームだ。
父が亡くなる前に「クリスマスも近いな」と言っていた理由が分かった。
私は帰りに、サンタブーツを仏壇に置いて帰った。
母には、「いらんよ、そんなん」と言われたが、「正月に食べるから」と押し切った。
遺影の中の父が少しだけ、笑ったように見えた。




