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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

乙女ゲームの世界に転生した国王の件

作者: 睦月はる


別の小説の筆がまっったく進まず、思いついた内容を勢いのまま書き出しました。


内容的には濃く無いと思いますが、苦手な方は注意して下さい。


 「陛下、お産まれになられました!王子殿下でございます!」


 わあと、玉座の間は歓声に包まれた。

 国王陛下万歳、王子殿下万歳と、臣下達の万歳三唱が響き渡る。


 「陛下お慶び申し上げます。これで我が国も安泰でございますな」


 大臣に寿ぎの言葉を受けた若い王は、感極まっているのか、一言も喋らずに玉座に坐したままだ。




 (思い出した…)


 国王ヘンリーは、玉座の肘置きについた手をぎゅっと握りこんだ。


 (ここは乙女ゲームの世界だ…。『星巡りの最愛を君へ』の)


 会社帰り、歩道橋を渡っている時に、高所作業車がリフトを上げたまま走行して歩道橋に激突。それに巻き込まれ死亡。

 そして乙女ゲームの世界の住人に転生した。


 (こういうのは、婦女子がなるもんじゃねぇの⁈なんで男の俺が!)


 なんで、なんで、よりにもよって…。


 (自分が開発したゲームの、闇落ち王子の毒父親に転生するんだよ!)









 自分で開発しといてアレだが、この『星巡りの最愛を君へ』はクソ鬱ゲーである。


 まず、攻略するキャラを選択してからゲームが始まるのだが、選択を一つ間違えただけで即バットエンドになり、選択を間違った場面に強制的に戻される。

 だからと言って、攻略の選択が絞られる訳でなく、ランダムで条件が変更になる鬼仕様だ。


 嫌になったからと、他のキャラを選択したくても、攻略完了するまでは別キャラを選択できず、データも常に強制上書きモードなので後戻りも出来ない。

 当然リセットも不可能だ。


 ハッピーエンド以外の、クリアなど存在しない。


 無事ハッピーエンドに辿り着いても、攻略対象者達はヒロインを独り占めする為に、洗脳、監禁、薬漬け、性奴隷化する。狂った未来しかない。

 それを『愛』だと受け入れるヒロイン。


 …幸せって何ですか?と問いたくなる。


 言い訳するなら、俺はシステム開発だけで、シナリオには一切関わっていない。

 シナリオライターの性癖に一切関与していない。俺はソース書いただけだから!


 「いや、それはもうどうでもいいんだ。問題は俺が、毒親国王に転生した事だ」


 攻略対象者の一人エドワード王子は、愛の無い国王夫婦の下に産まれ、母妃からは過干渉、父王からは育児放棄&パワハラを受ける。

 その結果、立派な人間不信性格極悪王子が誕生する。


 それを癒して愛し合ったヒロインには感服するが、まずそんな子を生み出す環境が問題だ。即刻改善しなければならない。


 「俺は奥さんを蔑ろにするダメ夫にも、子供に辛い思いしかさせない、クソ親父にもなるつもりはねえ!」


 つーか前世は未婚で終わってるんだ。隣の国出身の、美人王女様を嫁さんに貰っておいて、夫婦仲悪いとかなんだよ!

 しかも今さっき、子宝まで授けてくれたんだぞ⁈滅茶苦茶労わって感謝してやるわ!


 朝議もそうそうに、俺は出産を終えた妻エリナー王妃の下にやって来た。


 「妃殿下、国王陛下がいらっしゃって下さいましたよ」


 エリナーの侍女に取り次ぐと、しばし時間が経って呼びかけがあった。


 「本当に、ヘンリー様がいらっしゃったの…?」


 天蓋付きの所謂お姫様ベットに、出産を終えたばかりのエリナーの姿があった。

 大業の後で疲れているとは思うが、今この時でなければ、俺の思いは伝わらないと思ったので無理をして貰った。


 「陛下申し訳ありません。産後の見苦しい姿を整えるのに時間がかかってしまいました」


 長い金髪は結い上げずに肩に流すだけ、翡翠色の瞳には疲労の色が見えるが、体調が悪いようには見えない。産後のせいか頬が桃色に染まっていて、不謹慎にもそれが色っぽいと思ってしまった。


 「当然だ。俺が無理を言ったんだから、いつまでも待つのは当たり前だ」


 エリナーが、きょとんと目を見開いた。

 今までの俺は、こんな簡単な労わりの言葉さえ口にしなかった。最悪の夫だ。驚くのも無理はない。


 「エリナー。俺は目が覚めたよ。いや産まれ変わる。子供と言う宝物を授けてくれた君に感謝する。二人とも無事で本当に良かった」


 「…それはわたくしが、お世継ぎを産んだからですよね。分かっていますわ、世継ぎを産むのは王妃の義務ですもの」


 「違う。他ならぬ君だから、君が産んだから大切で愛おしいんだ!俺は馬鹿だから、エリナーが命がけで子供を産むまで、君がどれ程大切で、愛する存在か分かっていなかった」


 力なくベットに置かれていたエリナーの手を取る。エリナーが翡翠の瞳を零れんばかりに見開き、戸惑いに手を引いたが、両手にぐっと力を入れて離さない。


 「エリナー愛しているよ。こんな愚かな俺が夫なんて嫌かもしれない。でも君とずっと夫婦でいたいんだ。良き夫、父親になると誓う。でも、エリナーの理想とは違ってしまうかもしれない。その時は諫めて正して欲しい。一緒に善き夫婦、善き親子、良き国王王妃でいよう」


 俺は一気に捲し立てた。


 気持ちを伝えたいと言う思いが勝って、自分でも陳腐な事しか言っていないと思う。

 でもこれが俺の精一杯だ。


 産後と言う、精神も肉体も酷使した後に、こんな事言われても正常な判断など出来ないだろう。


 あわよくば、それで絆されてしまえば…と、卑怯な算段があったのだが、そう考えたちょっと前の自分を殴りたくなってきた。


 恐る恐るエリナーの様子を窺う。

 エリナーは静かに泣いていた。


 「えっエリナー⁈具合が悪いのか⁈それとも俺が不快か⁈」


 離れようと手から力を抜くと、今度は逆に、その手を空いていた手で握りこまれた。


 「陛下は、わたくしに興味が無いと思っておりました。わたくしは世継ぎを産む道具で、国益を得る為の結婚で、用が済めば公妾をもたれて、昼も夜もおとないが無くなると、覚悟して…」


 実際、ゲームの俺はそうだったのだろう。だからエリナーは息子に過干渉になったのだ。

 異国で縋れる存在が、息子だけだったから。


 王の寵愛を失った王妃ほど、憐れな者いないと、王族のエリナーは分かっていたのだ。


 「会うのは公務の時か、子作りの時だけ。それも最低限の会話と触れ合いだけでした」


 「…許して欲しいなんて言わない。君は許さなくていい。俺を最低だって責めていいんだ。俺は本当に馬鹿だ…」


 「傷付きました。でも、国同士の契約結婚なんてこんなものと、諦めていました…」


 過去を思い出すように、瞳を閉じて、再び開ける。

 エリナーのそんなさり気ない仕草さえ、尊くて美しかった。


 本当に俺はどうして、こんなに素晴らしく美しい女性を放置していたんだ?ゲームのヘンリーも、今の俺も、世界一の大馬鹿に違いない。


 「希望を持っても宜しいんでしょうか?わたくしは愛していただけるのですか?公妾は持っても構いません。一番でなくてもいいんです。二番でも三番でも…」


 最後まで言わせなかった。

 俺は産後と言うのも忘れて、エリナーを抱きしめる。


 「俺が生涯愛する女性は君だけだ!公妾なんて持つわけないだろ!最高で最愛の妻がいるのに、他の女なんていらない!」


 俺の大声にエリナーも、邪魔にならないように控えていた侍女や侍従も、息を吞んだのが空気で伝わる。


 永遠にも思えた時間が流れたが、おずおずと背中に腕が回されて、控えめに力が籠められる。


 「わたくしも、お慕いしております。だから、冷たくされて寂しかった…」


 「もう、そんな事しない」


 「はい…」


 エリナーが俺の胸に体を預けると、更に強く抱きしめた。




 侍女の声が、妃殿下宜しゅうございました。両殿下が心を通わせて良かった。と、すすり泣く声が聞こえる。


 そこでやっと冷静になって、俺はエリナーを優しく横たえると、王子はどこかと、照れを誤魔化す様に声を張り上げる。


 「陛下、王子殿下にございます」


 ベビーベットの中ですやすや眠り、健康そうな男の子がいた。俺の息子だ。


 「何て美しい子だ!エリナーの金髪を受け継いだんだな!ああ、エリナーにそっくりだ!」


 そっと抱き上げると、むずがって泣き出してしまう。その声まで愛おしくて、俺はみっともなく泣き出した。


 「産まれてきてくれてありがとう。お前とお母さんの事は、俺が絶対に守るからな…!」




 この日からヘンリー国王は、愛妻家へと変貌する。


 我が子を得た事で愛に目覚め、冷え切っていた夫婦関係も徐々に改善し、王妃が産後から回復すると、公務以外の時間は常に側に寄り添った。


 第二子の誕生も遠からずやって来るだろうと、国民は国王家族を、羨望と期待の眼差して見守っているのだった。










 夫婦関係は改善した。

 子育ても順調。

 間違っても毒親夫婦にはならないだろう。


 「次は、他の攻略対象者と悪役令嬢だ」


 俺達がまともになっても、その周囲の人物がイカれていたら、エドワードも影響されてしまう。


 攻略対象者は全員エドワードと同年代で学友。悪役令嬢は婚約者である。

 そして、全員家庭に問題があって性格が歪んでいる。

 雑に纏めると、全員親から虐待されているのだが、その解決策としてまず、児童保護相談所的な組織と法を作った。


 作っただけでは何も変わらない。そもそも人々に『虐待』と言う概念すらないのだ。


 子供が言う事を聞かなかったら鞭で叩く。それが躾とされている時世だ。

 ネグレクト?ナニソレ新種の虫かなにか?と言われる始末である。


 んな訳で、攻略対象者達の親には見せしめになって貰った。


 「聞いた?公爵様ったら実のお嬢様に、卑猥な事をしていたんですって。それも夫人の前で」


 「未亡人になった伯爵夫人は、ご子息に亡き旦那様の代わりを求めていたらしいわよ。当主の昼の役割も、夜の役割も…」


 「騎士団長は、幼いご子息に騎士と同じ鍛錬をさせて、出来ない時には折檻をしていたそうだ。出来ないと分かっていてやらせているくせに」


 「宰相閣下のご子息は養子だろ?実は前の宰相の妾の子…つまり閣下の異母兄弟だそうだ。だからあんなに当たりが厳しいのだな」


 「聞きました?大司教様の小姓、実のご子息だそうですよ。修道女に手を出して無理やり孕ませて、引き剥がして、自分の権力を引き継がせる道具にするとか…」


 これらの人物は、新しく設けた児童保護法に大いに当て嵌まったとして、とっっっっても厳しい処罰を下した。


 児童保護法を世間に広め、虐待を世間に認知させ、人々の意識を改善させるには丁度良い見せしめになってくれた。

 ありがとう、ありがとう!


 ついでに、貴族に傾いた権力を王家に戻す事も出来たので一石二鳥である。


 保護した子供達は、清く正しい後見人の下で、健康的に溌溂と育っている。

 良かった良かった。




 「ちちうえ~!」


 三歳になったエドワードは、輝く金髪に俺と同じ灰色の瞳を持った美少年に成長していた。因みに、弟のエンリケも誕生した。


 「エドワード、今日も元気だな!」

 「はいちちうえ。これをどうぞ。きれいなおはながさいていたので、ちちうえにさしあげます」

 「ありがとうエドワード。綺麗な花だな」


 頭を撫でると、エドワードは嬉しそうに笑った。

 側の東屋では、エンリケを抱いたエリナーも、嬉しそうにその光景を見つめている。


 「ちちうえ、ぼく、おおきくなったらちちうえとけっこんします!」

 「おお、嬉しい事を言ってくれるな。そんなに父上が好きか!」


 抱き上げてやると、破願して喜ぶ。


 そのセリフは、まだ結婚の仕組みがわからず、大好きをただ伝えたい、幼子の定番のセリフだ。

 気持ちを伝えたい、親の愛情を受けたい。と言う、素直な衝動からの言葉なのだろう。


 (まあ今だけだな。もう少ししたら、学友になる攻略対象者達と会わせるし、更に悪役令嬢と婚約もする。交流関係が広くなれば、俺への執着も無くなるんだろうな…)


 それを寂しく思いながら、息子の成長を妄想して微笑みを浮かべる。


 「そのうち、本当にそう思いたい人が現れるよ。それまでは父上が、大切にその気持ちを閉まっておくな」


 エドワードは不満そうに唇を尖らせたが、俺の胸に顔を埋めて満足そうに身を委ねた。




 エドワードが七歳になった。


 次男のエンリケも外を駆けずり回れるようになり、三男エドガーと四男エルドレッドも誕生した。


 「父上ー!見て下さい。皆と一緒に作りました!」


 成長して美少年ぶりに磨きがかかったエドワードは、手に木工細工の馬を乗せて走り寄って来た。

 家庭教師からは、大変優秀で将来有望な君主になるだろうと、太鼓判を押されている。


 「上手く作れたな。皆も上手だぞ」


 東屋で他の攻略対象者達と仲良く木工細工を作る様子は、全員美少年なだけに、天上の楽園で天使が戯れているかのようだった。


 「陛下、僕のもご覧になって下さい!」

 「俺のは栗毛なんです!」

 「僕のは伝説のユニコーンです!」

 「私のなんて馬車つきです!」


 おお、全員可愛い。

 親が断罪されて、決して良いとは言えない家族関係なのに、俺が親と離れ離れにした元凶だと言うのに、明るく元気に育ってくれた。

 後見人が良い人物達なのだろう。

 選んだ俺、グッジョブだ!


 「父上」


 くんくんとエドワードが裾を引っ張った。


 「ん?どうした?」

 「僕の馬は、将来父上をお嫁に迎えに行く時の馬です。どんな馬よりも立派で、どんな馬よりも早く駆けます」


 うん、まだまだ子供だね。

 そうか、お父さん大好きか~。父親冥利に尽きるな~。


 「殿下ずるいです。僕だって陛下をお嫁さんにしたいです!」

 「俺だって陛下をお嫁さんにしたい!」

 「僕も!」

 「私も!」


 俺モテモテだな。

 まあ年頃になったら皆、美人な彼女みつけて、『あっ王様うぃっす』とかの感じになるんだろうな。

 王様ちょっと寂しいけど、それが子の成長を見守る大人の運命(さだめ)なんだな~。


 「ははは、皆気持ちだけ貰っておくよ」


 そう言って一人一人頭を撫でると、皆口を尖らせて、不満そうだが撫でられて嬉しいと言う顔をする。


 エドワードだけは、意味深な笑みを浮かべて俺を見上げていた。




 「たとえ国王陛下であろうとも、わたくしはエドワード様のお后の座は譲りませんわ!」


 末っ子で長女であるエリザベスを膝に乗せ、五男エドマンドと六男エリオットが積み木遊びをしているのを見守っていると、そう宣言された。

 言うや、満足したのか去って行く。


 俺が産まれ変わる事を誓ってから十七年。


 夫婦仲は順調。政治経済も上手くいき、自画自賛になるが、なかなか良い王様っぷりが出来ていると思う。


 「ヘンリー様、今日もアマリリス嬢はお元気ですわね」

 「そうだねエリナー。エドワードの事が大好きみたいでなによりだ」


 夫婦揃って斜め上な会話をしていると思うだろうが、毎日の事だけに、もう礼儀だの不敬だの言うのも馬鹿馬鹿しくなったのだ。


 エドワードが王太子になり、公爵令嬢アマリリスと婚約して五年経っていた。


 乙女ゲームのシナリオ通りだと、彼女は悪役令嬢アマリリスになっている筈だが、その元凶の父親は俺がしょぴいたので、アマリリス嬢は健全な乙女として育っている。


 修道院で過ごし清貧を重んじ、気高く聡明な令嬢に育つと、未来の王妃候補として王宮でその身を引き取った。


 超絶美男子完璧王子に仕上がったエドワードに一目惚れし、俺が婚約を打診すると、食い気味に了承した。


 二人の仲も大変良好。

 結婚前に、アマリリス嬢の腹が膨れないかが心配だ、と言う臣下もいるくらい仲が良い。


 誤算は。

 エドワードがいまだに俺が大好きで、事あるごとに、『私の最愛の父上』と発言し、それを勘違いしたアマリリス嬢に、『殿下は譲りませんからね!』と威嚇される事だろう。


 「おとうさまは、エドワードおにいさまとけっこんなさるのですか?」

「馬鹿だなベス。親子は結婚できないんだぞ」

「それに男同士も駄目なんだぞ」


 膝の上のエリザベスが無邪気に問い、エドマンドとエリオットがお兄さんぶって知識を披露する。


 「コラ二人とも、妹を馬鹿と言っちゃいけないよ。でもよく知っていたね偉いぞ。それにお父様は、お母様と結婚しているからもう結婚する必要がないんだ」


 エリナーを抱き寄せると、もうと言いながらも身を寄せてくれる。

 狡いとエリザベスも俺に抱き着いて、エドマンドとエリオットが慌てて駆け寄って来る。


 「僕もお父様!」

 「僕もだよ!」

 「よしよし順番だ」


 家族団欒を満喫しながら、これは一度エドワードと話をした方がいいなと、俺は心に決めた。









 月が天高く上った頃、子供の頃よく遊んだ東屋のある庭で、エドワードがエンリケとエドガーに星について語っていた。


 エルドレッドは国外に留学に行っているのだが、王子に婚約破棄された、よその悪役令嬢を婚約者に連れて帰って来ないかひやひやしている。


 「星の観察は古来より重要な事だ。決して疎かにしてはいけなよ」


 「はい兄上!」

 「でも首が疲れたよ~」


 生真面目なエンリケ、やや集中力に欠けるエドガー。二人の弟に笑いかけながら、丁寧に星について説明をする。


 「あっ父上!」


 すっかり飽きたエドガーが目敏く俺を見つけると、ちゃんと勉強していたから誉めてくれと強請って寄って来た。


 「おいエドガー。まだ兄上のお話の途中だぞ」


 そう言うエンリケも、誉めて欲しそうにソワソワしている。でも、弟の手前我慢しているのだ。


 可愛い息子達に、エドワードと話があるので席を外してくれと頼み、一人ずつ抱きしめる。


 従者と共に室内に入った事を確認すると、俺はエドワードと東屋で二人っきりになった。


 「弟達の面倒ばかりみさせて済まないな、お前の勉学の邪魔になっていないか?


 「いいえ、そんな事ありません。私を慕ってくれるのは嬉しいし、それが励みになって、勉強が捗るんです」


 そうか、と頷く。

 嘘ではないと思うが、負担にならないように心がけよう。


 「星が、降ってきそうだな…」


 東屋から空を見上げれば、満天の星空が広がっている。宝石を散りばめた様だと例えられるが、この星々に敵う宝石などないだろう。


 「私にお話があるのでは?」

 「まあ、そうだ…。お前アマリリス嬢とは順調か?」


 こちらから切り出す前に言われて、星からエドワードへと視線を向ける。


 「アマリリスとなら、よい関係を築いていると思います。先日も共に野駆けに出かけましたし、一部の公務の手配は彼女に任せています」


 「うん。お前達が仲がよい事は知っている。婚約者同士として、理想的な関係だ。だからだ」


 一呼吸おいて、切り出した。


 「お前が俺を慕ってくれるのは嬉しい。父親として息子に敬愛されるのは例えようもない喜びだ。だが、それが婚約者を不安にさせるようではいけないのだよ。遠からずお前達は結婚するのだから、父親離れして、アマリリス嬢と愛を深め合いなさい」


 間違っても、以前の俺とエリナーの様にはなってはいけない。それは破滅への一歩だ。


 聡いエドワードの事だ。直ぐに心を入れ替えて、アマリリス嬢のもとへ馳せ参じるだろう。


 うんうんと一人納得していると、月光が遮られ、目の前に影が差した。


 「エドワード…?」


 「納得出来ませんねぇ…」


 いつもと違った雰囲気のエドワードが、覆い被さるように立っている。


 「アマリリスとの仲を深める為に、父上と離れる必要とはなんです?」

 「だから…、お前達の邪魔になるだろう?舅なんてさ…」

 「父上が邪魔になる事など、天地がひっくり返ってもありません。アマリリスがいるから父上と離れなければいけないのなら、彼女を王宮から追い出しましょうか?」

 「何て事を言うんだ!アマリリス嬢はお前の婚約者だぞ⁈」


 だから?と、エドワードが蠱惑的に瞳を細めた。


「幼い頃から申し上げておりましたが、私が結婚したいのは父上です。アマリリスの事は、いい女友達だとは思っていますが」


 はへぇと、間抜けな声が漏れた。


 何言ってんだこの馬鹿息子は。

 俺達は実の親子で、しかも同性だぞ?

 結婚云々の前に、倫理的にも俺的にもアウトだ。

 つーか子供の頃言ってたのって、それぐらい好きですよって意味だだろ?家族愛だろ?


 えっまだ勘違いして…、るわけないよな!聡明で名高いうちの息子が、いつまでも結婚の意味が解ってないわけないよな!




 ―――つーことは本気じゃねえか!




 「待て!冷静になれエドワード!」

 「冷静ですよ。だから今まで気持ちを秘めていたのです。でもあなたにあんな事を言われて、友人達もあなたに気がある素振りを最近見せている…。もう我慢ができません」


 えっ友人て、虐待の事実を明らかにして、お前が子供の頃、学友に召喚したあの子達?

 確かに最近よく合うし、やたら二人っきりになりたがってたけど、まさか。

 将来の話をしたいって、政の要職に就く為の話じゃないの?

 えっ?もしかしなくても、ソッチの話⁇

 ソッチの話だったの⁈


 さあっと、血の気が引いた。


 「おっおおおおおお俺には、エリナーと言う最愛の妻がいる!エリナー以外の女性なんて考えられない!」

 「うん。母上は父上の唯一無二の妻だね。じゃあ夫は?」


 そういう事を言ってるんじゃなーーーい!


 つか、俺が妻になるのかよ⁈


 エドワードがこちらにぐっと身を乗り出して来た。仰け反る様に避ければ、長椅子に倒れ込むようになってしまう。


 「エドワード?エドワード⁈」


 エドワードがとろんとした瞳をして、俺にどんどん迫ってくる。


 これはヤバイ。ヤバイやつだ!

だれか人は…俺が人払いしたんだった―――!


 必死に思考を巡らせるが、瞬く星がエドワード越しに見えるだけで、解決策が浮かんでこない。


 攻略対象者達の危機は救えても、自分の貞操の危機は救えないのかよ!




 ここは『星巡りの最愛を君へ』の世界。


 攻略対象者の選択を途中で変更する事も、データをリセットする事も出来ない。


 ハッピーエンド(攻略対象者の幸せ)以外の終わりは無い世界。




 (これじゃ俺がヒロインじゃねぇか!)


 ヘンリーの心の叫びは、流れ星と共に消えて行った。









 「おかしいわね…。攻略対象者達が全然闇落ちしてないじゃない。悪役令嬢の評判も良くて、それ所か、闇落ちの原因となる貴族達捕まってるの?児童保護法?なにそれ日本の法律じゃない」


 星が煌めく夜空の下で、新聞の束を片手にぶつぶつと呟く少女の姿があった。


 「もしかして、悪役令嬢が転生者で、断罪回避の為にチートでもした?なら納得だけど…」


 しばし考えこむと、少女は新聞の束をゴミ箱に捨てた。


 「それは重畳だわ。こんなクソゲーの、メンヘラヒロインになるなんてゴメンだもの。悪役令嬢がその役を買ってくれるっていうなら、喜んで差し上げるわよ!」


 足取り軽く少女は歩き出した。


 乙女ゲームの舞台となる王宮を背にして。


 その夜空には、流れ星が一つ瞬いていた。






    おわり




ここまで読んで下さって、ありがとうございました。



タイトルを変更しました。



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[良い点] ーハッピーエンド攻略対象者の幸せ以外の終わりは無い世界。 いきなりすいません、読了しました大好きです!ご褒美小説をありがとうございます!是非、エドワード氏には最愛の方と結ばれて幸せになっ…
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