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#9 目五色に迷うⅨ


 財布を持たずにはどうしようもない、と観念して踵を返した颯汰郎の目に飛び込んできたのは、新作ゲームの販促チラシ──ではなくて、GAOアプリ会員募集ポスターだった。


 太いフォントで書かれた『初回登録者限定! CD、DVD、どれでも一枚無料チケットプレゼント!』の謳い文句の下に、QRコードが貼り付けてある。──既にアプリを取得している者は対象外ではあるけれど。


 アプリの存在を失念していた颯汰郎にとっては、まさに光明が差したといっていい。ビビッと電流が体内に走るような感覚に興奮を覚えつつも、恐る恐るGAOアプリをタップした。


 真っ白い画面に切り替わり、GAOのロゴが中央に表示された。数秒後にそれらがフェードアウトし、アプリのメインメニューがデバイスに映し出される。


 所持ポイントを確認すると、画面右端に『五二〇GPガオポイント』と記してあった。


 通常のポイントカードを引き合いに出して考えると、五二〇円分の買い物ができると思うだろう。しかし、GAOアプリのポイントはそのままで使うことができない。例え五二〇GPあったとしても、お会計時に五二〇円分割引きされるわけではないのだ。


 では、GPの使い道はどうするのか? というと、GAOアプリ内にある『割引きクーポンくじ』でこのポイントを使う──それ以外の用途は存在しない。


 当然ではあるが、『くじ』ということは『あたるかあたらないか運任せ』ということで、GPを消費するからといって()()()()()()()()()()()()()()。不要、必要に問わず、引いたら景品を獲得できるソシャゲガチャのほうがまだ良心的ではないだろうか──。


 ──この仕組み、本当にせこいよな。一〇〇GP貯めるのにリアルマネーでいくらかかると思ってるんだ。


 二〇〇円で一GPが加算されるということは、つまり──あまり考えたくない。


 先にもいったが、颯汰郎はつくづく運が悪い男だ。


 あたりを引き当てる確率は五分と五分。でも、運なし颯汰郎が『あたり』を引き当てられる確率は、二階から目薬をさすようなもの──されど、引けない理由があった。くじは引くのだけれど。そうではなくて、精神的な意味で。


 その『引けない理由』とは、「ランブルのCDを借りたよ」と薫にメッセージを送信するためである。


 女子とまともにメッセージのやり取りをした経験のない颯汰郎が、悩みに悩んで導き出した答えだ。


 第一投が『初めまして』は変だし、『どうもこんにちは』も他人行儀だ。会話を続けるためにもお互い共通の話題があれば──それだけのために、コツコツ貯めた五〇〇ポイントを水の泡にしようとしている。


 ──クソッタレメェッ!


 とはいえ、引くしかない。


 颯汰郎が狙うのは、『旧作のCD、シングル、アルバム、どちらか一枚無料』のチケット。DVDや漫画のチケットもあるが、それらには脇目も振らずにCDチケットを選択する。


 このくじの仕様は、『くじを引く』のボタンを押すと、即座に結果が発表される。ミニゲームなどでお茶を濁すこともしない。一世代前のモバイルゲームSNSのほうが、まだ凝った作りをしていたと言えよう。


 あたりの場合は、画面上部に『あたり』の文字と、『チケットを入手しました』のメッセージが表示されるのみ。無論、サウンドエフェクトもない。無駄を省いたといえばそうなのだが、手抜き感は否めなかった。


 はずれた場合、『はずれ』が表示される。ポイントが残っていれば『再挑戦』のボタンが、ポイントがなければ『GAOポイントを貯めて挑戦しよう』のメッセージが表示される。──チャンスは五回のみ。


 全部あたればそれに越したことはないけれど、颯汰郎にそこまでの運はない。一枚あたれば御の字といったところだ。一枚くらいならあたるだろう──そう思い、なけなしの五〇〇ポイントに一縷の望みを託す。


 一回目──はずれ。


「ま、まあ、まだ四回あるからな。軽いジャブだよ、ジャブ」


 二回目──はずれ。


「そう簡単にはあたらないってわけね。ふぅん、やるじゃん」


 三回目──はずれ。


 なんだか雲行きが怪しくなってきた。


「いやいや、おかしくね? これ、五割の確率であたるんじゃねぇの? この時点で五割じゃないんだが? 確率弄ってんだろ、おい」


 無論だが、そんなはずはない……と思う。


 ここまではずればかりが続くと、颯汰郎も焦り始める。頼む、頼むから一枚くらい当選してくれと願いを込め、祈るような気持ちで画面をタップした。


 四回目──はずれ。


「ああ、わかったわかった。これはあれだわ。最後の最後であたって『わーいやったー』のハッピーエンドルートなんだろ? 見え見えでありきたりな展開なんだよなぁ。まあ? 無料で借りられるわけだし? 五〇〇ポイントで一枚ってのも妥当な数字だよな」


 五回目──はずれ。


「どおおおしてだよおおおおっ!?」


 思わず店内で叫んだ颯汰郎に、周囲にいた人々の視線が集まる。遠方では、ひそひそと、額を寄せるご婦人たち。レジの奥で買い取った商品を整理していた店員が、やばいヤツを見るような目を向けていたりと散々だ。


 このままでは店員に警察を呼ばれ兼ねない。


 ──チクショウ、消費者を舐めやがって! これだからアプリ運営は嫌いなんだああああっ!


 悲しみを胸中で絶叫しつつ、慌てて店を出て行く颯汰郎であった。



 

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・報告無し。

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