#13 隴を得て蜀を望むⅡ
颯汰郎たちが目指すファミリーレストランは、国道沿いにある。商店街を抜けていく道もあるのだが、やまびこ公園からだと若干遠回りになってしまうので、今日はその道を避けて通った。
「お二人様ですね?」と通された席は、ドリンクバーのすぐ近く。この店のモーニングセットにはドリンクバーも付いているため、ドリンクバー付近から席を埋めているようだ。無論、窓際が良ければ窓際席を案内してくれる。
颯汰郎は『パンケーキセット』、薫は『小倉クリームトーストセット』を選び、料理が到着するまでの間、ドリンクバーのジュースを飲みながら、暫し団欒することにした。
「颯汰郎先輩っていつも炭酸ジュース飲んでますね」
「そうかな? せっかくのドリンクバーだし、せめてジュースは制覇したいって思わない?」
「ボクは、飲みたい、と思ったのだけですね……全部飲むって考えたことなかったです」
ドリンクバーやバイキングと名のつく物は、取り敢えず全種類食べるのが颯汰郎の流儀だった。そうでなければ元を取った気にならないし、損した気分にもなる。が、原価換算すると元を取るなど不可能であるため、これは颯太郎の自己満足にすぎなかった。
それから話はLANP ON BLUESの話題になり、薫が目を爛々とさせながら語っていると、「お待たせいたしました」店員が料理を運んできた。
「パンケーキも悩んだんですよね……でも、今日は小倉の気分でした」
「ははっ、女子はパンケーキ好きだもんな」
「……そう、です、ね」
「あれ? 違った?」
「そんなことよりも、冷めないうちに食べましょう!」
なにかまずいことを言ってしまっただろうか? と颯汰郎は思ったが、小倉クリームを厚切りのパンに楽しそうに塗る薫を見て、気にしすぎかな、と自分のパンケーキにナイフを入れる。
八分割した一切れを口に入れた。
──不味くはないけど、美味くもないな。なんというか、普通だ。ホットケーキミックスのパッケージに書いてあるとおりに作ったような感じで、特に工夫されているところもない。ま、ファミレスのパンケーキなんてこんなもんか。
などと脳内で評価している颯汰郎の前で、小倉クリームトーストを幸せそうに齧る薫。
──ふわあああ……これはやばばな味がする! 小倉とクリームって和と洋だから合わなそうなのに、どうしてこんなに合うんだろー! 厚切りのパンももちもちしてて美味しいし、最近のファミレスってすごいなー!
薫は割となんでも美味しく食べる。それが初めて食べる料理であってもそうで、他人が言う『美味しくない』に惑わされたりしないのだ!
──颯汰郎先輩のパンケーキも美味しそうだなあ……。
熱烈な視線が、自分ではなく、パンケーキに注がれているのを感じた颯汰郎は、「一切れどう?」と皿をテーブルの中央に寄せる。
「いいんですか!?」
「いいよ」
「では、遠慮なく……」
追加注文したミニサラダ用のフォークをパンケーキに刺して、そのまま口の中へ。
「こ、これはまたやばばな味ですね!」
「え? あ、ああ、うん。やばばな味だね。──ところで、その『やばばな味』ってなに?」
「ふぇ? ボク、そんなこと言いました? 美味しいとは言いましたけど……」
「あ、いや。どうやら聞き間違えたみたいだ。気にしないで」
「変な先輩ですね」薫はおかしそうに笑いながら、ミニサラダを食べている。こうしてみると草食動物のようだ。もきゅもきゅと食べる仕草がうさぎっぽくも見えて──脳内メーターで颯汰郎の脳内を覗くと、『綾瀬川さんうさぎ可愛いマジ天魔』一色である。
──ファミレスのパンケーキも、悪くないな。
颯汰郎は他人が言う『美味しくない』に流されるタイプだった!
「それで、話したいことってなに?」
食事を終えて落ち着いた頃合いをみて、颯汰郎は言う。今日はファミレスに朝食だけを食べに来たわけではない。どちらかといえば、薫の話を聞くのが本題だ。
すっかり食事に夢中になっていた薫だが、忘れてしまっていたわけではない。先程も、颯汰郎の発言に対して、真実を隠している、という自責の念から上手に反応できなかった。
薫にとって、颯汰郎という存在は、いつも笑顔で楽しい、頼り甲斐のある先輩だ。同学年であっても敬語を使っているのも、バイトの延長線ではない。颯汰郎の人柄に、敬意を払っているからだ。
そんな颯汰郎に嘘をつき続けるのは心苦しい──と、秘密を打ち明ける覚悟を決めて家を飛び出したのに、いざ颯汰郎を目の前にすると、喉が塞がったみたいに言葉が出てこなかった。
「えっと、その……」
「ま、まあ、あれだよ。その、落ち着いて、ゆっくりな? こういうのって、ほら──勇気がいるだろうし」
「もしかして颯汰郎先輩、気がついてたんですか……?」
「え? ま、まあな? これでもほら、一応? バイトでは先輩だからな」
「そう、だったんですか」
なんというすれ違いコントだろうか。颯汰郎と薫は、全く別のことを話しているのに、どういうわけか会話が成立してしまっている。誰かに突っ込みをいれてほしい状況だ。無論、突っ込み役はこの席にいない。
「いつから気づいていたんですか?」
「いつから……そうだな」
颯汰郎は言葉に悩んだ。悩んで、悩んで、悩みまくって、薫が自分に好意を抱いていると気づいたのは、つい最近! ということにしておいた。
「つい最近、かな?」
「つい最近って、いつですか?」
──いやいやいや!? そんなことわっかんねぇよ!? てかこれ、本当に告白されるパターンじゃねえか!? これこそやばばだろう!?
内心パニック状態ではあるものの、表情だけは平常心を決め込む。
──動揺するな、冨樫颯汰郎! オレはやればできる子だろう!?
……あからさまに動揺している颯汰郎であった。
【修正報告】
・2021年9月16日……誤字報告箇所の修正。
報告ありがとうございました!




