突撃! 隣のおじいさん
「それでは、本日のインタビュー、よろしくお願いします!」
「ああ、私なんかの話で良ければいくらでもどうぞ」
若干緊張した様子ですが、丁寧に受け答えするおじいさん。気持ちを落ち着けようとする時の癖なのか、左右の頬にある大きなコブをさわさわと撫でています。
「では……まず、こぶを鬼に付けられたというお話から伺ってもよろしいですか?」
「そんなこともありましたね。あの時は腹が立ったのなんのって……そもそもあいつが約束を守って、もう一度鬼達に会いに行けば良かったはずなんです。それなのに『踊りを見せたら鬼にコブを取ってもらった』ということだけを私に伝えて、それが質代わりに取られたことは黙っていたんですよ。信じられますか?」
おじいさんは当時のことを思い出したのか、怒りに声を震わせ記者に同意を求めました。
「私にとっては鬼がコブを取ったり付けたりすること自体が驚きですが……まあ、お話を聞く限りでは、その方に騙されたようなものですよね」
「そうなんですよ! あいつは私がろくに踊れんことも知っておったはずなんです。鬼達は私の下手くそな踊りに腹を立てて、『二度と来るな』とコブを付けて追い出しました。あいつは、そんな私のことを村中で散々笑いものにしました……」
うっすら涙を浮かべてプルプルと震えるおじいさんの姿にいたたまれなくなり、記者は話題を変えました。
「それでは、枯れ木に花を咲かせる灰事件のお話をお聞かせ願えますか?」
「あのじいさんもとんでもない奴でした。こぶの一件があって引っ越しをしたんですが、隣の家のじいさんが犬を飼っていましてね。私は犬が苦手なんですが、それをあいつに伝えたところ、むしろ飼い犬をけしかけて追いかけさせたんです。私が必死で逃げ回るのを眺めて、腹を抱えて笑うような恐ろしい人間でした」
「……それは酷い……」
「その犬に芸を仕込ませて、何やら詐欺のようなことを行っていたようです。更に寿命でその犬が死んだ後も、『霊験あらたかな犬の墓から生えた神木で作った臼』だと言って、ただの木臼を高値で販売していたんです。枝を燃やして灰にしたものも『枯れ木に花を咲かせる灰』として高額で売っていました。流石に被害者が増えて問題になったのですが、なんと奴は私のことを勝手に連帯保証人にしていたんです……おかげで私まで借金取りに追いかけられて……」
再び男泣きを始めたおじいさん。記者は慌てて別の話題を振ります。
「あの……おむすびとネズミの話をお聞きしたいのですが……」
「……アレは出来れば思い出したくないのですが……仕方ないですね。何とか借金を返し終えたものの、その土地にはいられなくなってまた別のところへ移り住みました。ただ、私の運の悪さは止まることを知らず……隣に住むじいさんは浮気性で食い物を粗末にするろくでもないやつでした」
たらりと冷や汗をかきながら、おじいさんはポツポツと語り続けます。
「反対隣は空き家になっていたんですがね、アイツは仕事に出掛ける時に、奥さんが持たせたおにぎりをその家にいつも放り込んで行くんですよ。『あんなババアの握ったメシが食えるか』って。そんなことを続けていたら、何が起こるか想像できるでしょう? 大量発生した奴等が、ついには我が家まで押し寄せて……もういいですか?」
青白い顔で尋ねるおじいさんに、頭を下げて詫びる記者。
「すみませんでした……では、最後に泉の話をお願いします」
「あの泉が私の人生における転換点でした。奴等のせいで住めなくなった家から引っ越したあとも、何度も隣の家のじいさんには苦しめられ続けました。どうして私がこんな酷い目に遭わなければならないのか、ひたすら思い悩みました」
おじいさんの顔に刻まれた深い皺の一本一本が、その苦悩を物語っているようでした。
「ある時、隣の家のじいさんが私に自慢話をしてきたんです。斧を泉に偶然落としたら、女神が現れて『あなたが落としたのは、こちらの金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?』と問いかけられ、正直に答えると褒美として金と銀の斧の両方をくれたって。私は、その話を聞いて泉に向かいました」
どう反応すればいいのか分からないといった様子の記者に、困ったように笑っておじいさんは続けました。
「勿論、そんな作り話を信じたわけではありませんよ。どうみてもメッキをかけただけの普通の斧でしたから。私はね、その泉に身投げするつもりだったんです。きっとこれから先、どこへ行ったところで永遠に隣のじいさんに苦しめられるのだろうと考えると嫌になったんです……でも、私はその泉で本当に女神と出会いました」
「……もう、おじいさんったら女神だなんて大袈裟ですね。さあ、長時間の取材でお腹が空いたでしょう? 記者さんもご一緒にどうぞ」
食欲をそそる香ばしい匂いのする鍋を両手で抱えて、ほんのり頬を赤らめたおばあさんが台所から現れました。
「大袈裟なことは何もないさ。君があの時止めてくれなければ、私は今こうして記者さんから取材を受けたり、君の作った絶品のシチューを味わったりすることもなく泉の底に沈んでいただろう。それまでの苦痛だらけの人生も、あの日、あの泉で君という女神に出会うための試練だったと思えばなんてことはない!」
「おじいさん……」
おばあさんから鍋を預かりテーブルに置いた後、情熱的な言葉と共に彼女の頬に手を添えるおじいさん。おばあさんもすっかりうっとりしています。
記者は先ほどまでとは違った理由でいたたまれなくなり、シチューをご馳走になった後は、早々に取材を切り上げ退散したそうです。
取材内容をまとめ、おじいさんの波瀾万丈な人生を綴ったノンフィクション作品は、瞬く間にベストセラーとなり、印税で大変お金持ちになったおじいさんとおばあさんは、いつまでも仲良く幸せに暮らしましたとさ。
※童話カテゴリと迷いましたが、幼年児童向けではないと思いますのでヒューマンドラマにしております。