エマの憂鬱
「貴女の事がずっと前から好きでした!」
「……え?」
私ハワード家の長女、エマ・ハワードです。
今現在進行形で告白されています。
「え、えっと」
そうエマは告白してきた相手を見やる。
「……やっぱり、駄目ですよね。
いきなりでびっくりしますよね。
でも、気持ちを伝えたかっただけですので、えっと、それでは!」
そう言って相手は走り去って行ってしまった。
「……どうしよう」
「初めて女の子から告白されたわ……」
「は? 告白された? 良かったじゃない」
「ええ!? オリヴィアちゃん、ちょっとくらい嫉妬してくれたって良いじゃない!?」
オリヴィアは、はぁ、と溜め息を吐く。
突然エマが深刻な顔をして相談があると言ってきたのでエマの部屋へ来てみたのだが。
「何? 嫉妬させたくて私を呼び出したの?」
「あ、違うの、そうじゃなくてね。
男の子からは何度か告白された事はあるけど、女の子からは初めてだったから、誰かに話をしたくて」
そうエマは顔を赤らめて話す。
確かに、エマは見た目は可愛いし、性格も明るいから男性からはさぞかしモテそうだ。
「でもあんた的には良かったんじゃないの? 女子が恋愛対象なんでしょ?」
「違うわ! 私はオリヴィアちゃんが恋愛対象なの!」
何が違うのだろうか……?
そうオリヴィアは首を傾げた。
「男の子なら、今まで通り普通に断ろうと思ったんだけど、相手が女の子だと、難しいのよね」
「何が難しいのよ?」
そうオリヴィアは尋ねる。
男性であれ女性であれ、自分が良いと思ったら付き合えばいいのだし、駄目だと思うなら断れば良いだけの事だろうと思うのだが。
「ほら、私もオリヴィアちゃんの事が好きだし、同じ同性に恋をしている人って応援したいというか」
そうエマは照れながら話す。
「つまり断り辛いと」
オリヴィアはそうエマの気持ちを端的に訳した。
「そうなの!」
「なら付き合えば良いんじゃない?」
「いや、それはダメよ!
だって私はオリヴィアちゃんを好きなのに、そんな状態で付き合ったら失礼だわ!」
まあ確かに他に好きな人がいるのに付き合うのは相手に失礼か。とオリヴィアも心の中で同意する。
「まあ、かと言って相手に希望を残すのもどうかと思うけどね。そっちの方が残酷な事もあるし、断るならきっぱり断った方が良いんじゃない?」
「うぅ、やっぱりそうよね……。
と言うか、私告白してくれた子の事あんまり知らないのよね……」
「はぁ? 仲良い訳じゃなかったの?」
オリヴィアはその事実にびっくりする。
「う、うん。顔は見かけた事あるかなー? くらいで、本当に会話した事もなくて」
「えぇ……」
そんな事があるのだろうか?
にわかに信じがたい話である。
「それ、イタズラとかじゃないの?」
「うーん、だとしてもイタズラする意味が分からないわ」
オリヴィアも自身で言ったものの、確かに同性に告白するというリスクを負ってでもイタズラする意味が分からない。
しかし、単純に仲良くなりたいのなら何かの機会に挨拶や他愛ない会話等を話せば良いだけだ。
「特に付き合いたいとか、返事が欲しいとも言われてないの?」
「うん。なんて言うか、気持ちを伝えたいだけって言っていたし、でも、やっぱり伝えてくれただけありがたいし、返事はした方がいいと思ったんだけどね」
エマは割とそういう所は真面目なんだなとオリヴィアは思う。
「返事って言っても、何処の誰かは分かるの?」
「ええ、お手紙でお話ししたいってきたから……これよ」
そうエマは手紙を見せる。
オリヴィアは差出人を確認した。
「えーと、クリス・クローク?」
手紙の内容は、話がしたいと、簡潔に日時と場所が書かれているだけだった。
「そう、クローク子爵の娘さんなんだけど、特に今まで接点とかないのよね」
勿論、下町出身のオリヴィアも接点など無かった。
「一応私もお手紙を書いて、待ち合わせして返事をしようと思うのだけれど、オリヴィアちゃん的にはどう思う?」
「どう思うも何も、エマがそうしたいならそうすればいいんじゃない?」
オリヴィアはそうサラッと返事をする。
「それとも、お手紙で直接書いた方が傷つかないで済むかしら?」
そう言いながらうーんとエマは悩む。
「……どんな形にせよ、振られるんだから傷つかないなんて事は無いと思うけれど。
と言うか、そんなのあんたが一番分かってるんじゃないの?」
そうオリヴィアはエマを見て言った。
オリヴィアとしてはエマから直接告白された訳では無いが、隠す気すらない愛情表現を何度も断り続けてきている。
「……確かに、オリヴィアちゃんがノアと付き合うって言い出した時、凄くショックだったわ。
そうよね、どんな形で断ろうと、やっぱり傷つくわよね」
「それに、断る側もしんどいものなのよ」
そうオリヴィアはそっぽを向きながら言う。
「そっか……そうよね。オリヴィアちゃんもしんどかったのね」
そうエマがオリヴィアを抱きしめてきた。
「何故抱きしめてきた?」
「じゃあオリヴィアちゃんがしんどくならずに済むように、両想いになりましょう!」
そうエマは笑顔で提案してくる。
「そうじゃなくて、そこはさ、『オリヴィアちゃんもこんな思いしていたのね、これから自重するわ……』みたいな展開じゃないの?」
「えー、でも可能性がある限り諦めたくないわ!」
「いや、可能性は0なんだって」
「例え不可能でも、私はオリヴィアちゃんの事が大好きだし、自重なんて無理だわ!」
こいつ……何言っても駄目じゃないか。
そうオリヴィアは内心思った。
「……ああ、そっか、そうなのよね」
「は? 何が?」
「ううん! 何でもない!」
エマは何やら一人で納得していたが、オリヴィアには訳が分からなかった。
「ありがとうオリヴィアちゃん♪
お礼に何か遊びましょう?」
「いや、解放して欲しいのだけれど?」
そして後日、エマはクリスと待ち合わせていた。
場所は前回と同じく、ハワード家の近くの公園だ。
「あ、あの、エマお嬢様」
そうおずおずとクリスは声をかけてきた。
クリスは水色の落ち着いたドレスに、焦茶の長い髪を両サイド三つ編みにして、ハーフポニーの様に結んでいた。
緑色の澄んだ眼は、エマを捉えていた。
「ご機嫌ようクリスお嬢様。
実はこの間の告白の返事なんだけどね」
「へ、返事なんて別に良かったですのに!」
クリスはそう顔を赤らめてあたふたしている。
エマより2つ歳下な為か、やはり何処か幼さが残っている。
「私ね、実は好きな人がいるの。
まあ、その子も女の子なんだけれど」
そうエマはえへへと笑顔で話す。
それを聞いてクリスは驚いた。
「え? そうなんですか?」
「うん。
だから、私はクリスお嬢様の気持ちに応えられないけど、女の子だから駄目とかじゃないの。ただ、私がこんな事言うのは変なんだけどね、その、同じく同性を好きな者同士、仲良くしたいなって!」
エマはそうクリスの手を取ってお願いする。
結局、振られたって、相手をすぐに忘れるなんて出来ない。
かと言って、それで変に距離を置かれるのも、それはそれで辛いとエマはそう考えたのだ。
それに、自分と同じく同性が好きと言う人を初めて知ったので、友達として仲良くなりたいと思ったのもある。
「あの、エマお嬢様、申し出は凄くありがたいです。是非仲良くしたいです!
ただ、私、男なんです」
「……え?」
エマはそれを聞いてぴたりと固まる。
「その、私昔から女の子の物が好きで、それで周りからは男のくせにってからかわれたりして、そんな時、エマお嬢様に助けて貰ったんです。
多分、その時は男の格好だったしエマお嬢様は覚えていないかもしれませんが……」
「え、待って……あー、何かそんな記憶が確かあったわ、うん」
エマはふと自身の過去を思い出す。
あの頃は一番荒れていたというか、喧嘩っ早くて周囲から散々怒られていたというか。
本人的には黒歴史である。
そんな時、虐められてる可愛い男の子を助けた記憶は確かにあった。
「確か、チャールズだっけ? あのいじめっ子の主犯格」
「そ、そうです! 覚えていたんですね!
私、あの時からエマお嬢様に憧れて、可愛くて強くて羨ましかったんです。
私もこうなりたいって」
「そ、そうなの?」
エマは内心過去の自分を褒められるも、何だか複雑な気持ちになり苦笑いする。
「その時、私、エマお嬢様に好きなものは好きだって胸を張って言えばいいって言われて、私も変わろうと思って。
だから、今の私がこうしていられるのも、エマお嬢様のお陰なんです。
本当にありがとうございます」
そうペコリとクリスは頭を下げる。
「いや、そんな感謝される様な事じゃないわ」
そうエマは両手をブンブン振る。
「いえ、私にとっては恩人なんです。
ところで、やっぱりエマお嬢様も流石に私の事男だって気付いてなかったですよね」
「いや、だってそんなに可愛かったら気付かないわ! びっくりしたもの!
ん? て事は……。
同性が好きと言う訳ではないのよね?」
エマはそうクリスに確認する。
「はい。確かに女の子の物や可愛い物は好きですけれど、恋愛対象は女性です」
「成る程、そうなのね」
エマは同性が好きな仲間ではなかった事に少しがっかりした。
「エマお嬢様、やっぱり、気持ち悪いですか?
男なのにこんな格好してるのって……」
そうクリスは少し悲しそうに訊いてきた。
恐らくエマががっかりしたのは自身の女装のせいだと思ったのだろう。
「あ、違うの! 全然気持ち悪くなんてないわ! むしろ凄い似合ってるし、良いと思う!」
「ほ、本当ですか?」
「うん!」
クリスはパッと明るい笑顔を見せた。
「じゃあ、こんな私と仲良くしてくれますか?」
「勿論よ!
同じく恋する者同士、仲良くしましょう!」
「嬉しい、ありがとうございます!」
こうして、エマとクリスは友達になったのでした。
女装男子が好きです。(2回目)
中々ノアに女装させる機会が無いのでそれなら新キャラにさせようと歪んだ思いの元クリスが仕上がりました。作者は気に入っています。
読んで下さりありがとうございます。
面白い、もっと読みたい、と思って頂けたら評価を下の星マークから応援頂けると嬉しいです!
もちろん星1でも構いません!
ブックマークもして頂けたら今後のモチベに繋がります(^^)
よろしくお願い致します!




