撫でてみたい
「うーん、いい天気ね」
私、オリヴィアは窓の外から差す太陽を浴びながら伸びをした。
時刻は13時半を指す。
午前中から読書に没頭していたが、こんなに天気がいいなら外に出ようかと本を片手に部屋を出た。
そしてオリヴィアは外に出て庭園の方へと向かう。
「奥の方にガーデンチェアがあったはず……あら?」
すると、二脚あるガーデンチェアの内の一脚に誰かが座っていた。
というよりも、ガーデンテーブルに顔を伏せて寝てる様だった。
「ノア?」
私がそっと近づくと、腕の隙間からノアの顔が見えた。
普段も少し幼く見えるが、こうも無防備に寝ていると更に幼く見える。
そのふわふわとした髪が風に吹かれて少し揺れる。
「……」
髪の毛柔らかそうだなー。
そう心の中でオリヴィアは思う。
実はオリヴィアは前からノアの頭を撫でてみたいと密かに思っていた。
勿論本人に頼めば喜んで撫でさせてくれそうなのだが、その後に見返りを求められそうで決して口には出さなかった。
しかし、今はチャンスなのでは?
ふと、オリヴィアは周りを見渡す。
誰もいる気配がない。
気持ちよさそうに寝ているノアをじっと見てみる。
起きる気配はなさそうだ。
いける……!
オリヴィアはそっと近づき、ガーデンテーブルの端に本を置き、ノアの頭に右手を乗せた。
やはり想像した通り、というか想像以上にふわふわしてる。
実に手触りがいい。
これが男なのだから、少し勿体ない気もする。
いいなーと心の中で思う。
オリヴィアの髪は直毛で、サラサラではあるのだが、その実緩いウェーブがかった髪に憧れがあった。
もうちょっと大丈夫かな?
そうオリヴィアは手をもう少し近づける。
すると、ノアの体温が少しずつ伝わってきた。
少し生暖かい人の体温はオリヴィアは苦手なのだが、今はそれがあまり気にならない。
最近兄弟たちに抱きつかれ過ぎて感覚が麻痺したのかもと考える。
「っん……」
すると、ノアがぱちりと目を開けた。
やばいっ!
私は咄嗟に手を引っ込める。
「ぅん、誰か俺の頭触った……?……」
そう言いながら自身の頭をくしゃくしゃと掻く。
何やら少し寝惚けてるらしい。
「い、いや? 気のせいじゃない?」
私はそう少しノアと距離を置きながら返事をする。
すると、ノアは寝惚けまなこで私をジーッと見つめてきた。
暫く見つめた後、やっと私だと認識したらしく、ガバッと起き上がる。
「オ、オリヴィア姉様!?」
「あ、おはようノア」
私はなるべく平静を装って挨拶する。
「オリヴィア姉様、僕寝惚けて変なこと言ってませんでしたか!?」
そう何やらノアが慌てている。
どうやら頭を勝手に撫でた事には気付いていない様だ。
私はホッと胸を撫で下ろしながら答えた。
「特には何も言ってなかったわよ。
……あ、でも口調がいつもと違ってた。
俺って言ってたくらいだけど」
そう言うとノアはガーデンチェアから勢いよく立ち上がってすぐ様私の前に来た。
「オリヴィア姉様! お願いです!
他の人には言わないで下さい!」
そう何故か頭を下げられる。
「え? 何を? ここで寝てた事?」
私は何のことか分からず質問する。
「違います、僕が俺口調だったことを秘密にしてて欲しいんです」
そうばつが悪そうにノアは話す。
「どうして?
別に秘密にする程でもなくない?」
たかが話し方くらいで何故秘密なのだろうか?
そう質問すると、ノアは首を横に振って答えた。
「だって、僕みたいな見た目のやつが俺なんて言っていたらおかしいでしょう?」
私はノアをじっと見る。
「別に、私はノアがどんな口調で話してても気にならないけれど」
それを聞いてノアは少しびっくりした様な顔をした。
そんなに驚くことでもないだろうに。
「なら、オリヴィア姉様と2人きりの時は、俺口調で喋ってもいいの?」
そうノアに問いかけられる。
「別に私は何とも思わないし、いいけれど」
そう私が返事をすると、何故か一瞬切なそうにノアが笑った。
「じゃあ、オリヴィア姉様の前では俺、そのまま話すから、それでいい?」
「別にいいけど、つまりそっちの方が素ってこと?」
私はノアに質問し返す。
「まあね。でもみんなにこの口調で話したら驚かれるし、似合わないから普段は気をつけて喋ってるけど」
そうノアは笑いながら言った。
その笑顔は、いつもの仮面の様な笑顔ではなく、本心からの笑顔の様だ。
「ふーん、そうなんだ。
あんたも大変なのね」
私がそう言うとまあねとノアが返してきた。
「ところで、オリヴィア姉様は何でここへ?」
そう聞かれて、私はそうだったとガーデンテーブルに置いた本を持ち上げる。
「天気がいいからここで読書しようと思っていたのよ」
「天気がいいのに読書なんて、オリヴィア姉様らしいね」
そうククっとノアは笑う。
「あんたそっちの方が自然体に見えるわね」
「まあ、そうでしょーね」
そうノアは嬉しそうに笑いながら答える。
それからノアはガーデンチェアに座って読書をしようとする私をよそに質問してきた。
「オリヴィア姉様、この庭園気に入った?」
「……。
まあ、嫌いではないけれど」
ふと、ノアは特に何もない時はよく庭園に来ていることを思い出す。
「あんたって、よく庭園にいるわよね」
何となくそう言うと、ノアはそうだねと返事をする。
「俺もここ好きだし。
……それに、昔野良猫が迷い込んできてて、それの世話をしてたこともあったから」
私は少し反応する。
「野良猫が来ていたの?
今は来ないの?」
実を言うとオリヴィアは猫好きである。
下町にいた頃も野良猫を見るとつい触りたくて追いかけたりもしていた。
「ああ、でもそれはもう前の話で、多分死んじゃったんだと思う」
私は本から目を離しノアの方を見た。
そう語るノアの表情は寂しそうに笑っていた。
「……庭園で亡くなっていたの?」
「いや、ある日突然庭園に来なくなって。
猫って死ぬ時は誰にも見られずひっそりと死ぬらしくて。
だから多分そういう事なのかなって」
「……そうなんだ」
私は本を閉じて話を続けた。
「でも、その死ぬ時にひっそりと誰にも見られずに死ぬって気持ち、少し分かるかも」
私がそう言うと、ノアは少し驚いた顔をした。
「なんて言うか、自分の弱い所を見せたくないっていうか……。
多分、世話をしてくれていたノアを心配させたり、悲しませたくなかったんじゃないかなって」
私は自分で言っていてこれは何だかノアを慰めてる感じになってることに気付く。
「あー、だから、えーと。
人だって、弱ってる所なんて他人に見せたくないって気持ちもあるし、つまりそう言うことなんじゃない?」
そう私が言うと、ノアはふふっと笑った。
「ありがとうございます。俺のこと慰めてくれて」
「いや、慰めるつもりではなかったんだけれど」
私はそう否定する。
しかし、何だかいつもと違うノアの表情にびっくりしたと言うか、何か声をかけた方がいいのではという思いに駆られたからというか。
「まあ、結果的に慰めたみたいになっちゃったけれど」
そう私はすかさず本を開いて顔を隠した。
何だか私らしくない。
「ふふ、ありがとう、オリヴィア姉様」
そうノアはニコニコとオリヴィアに礼を言う。
「本当に、良く似てるや」
そう小さくボソリとノアは呟くが、しかしオリヴィアには聞こえていなかった。
それから、ノアは背伸びをしてもう片方の椅子に座り暫く読書をしているオリヴィアを見ていたのだが、気付いたらまた眠ってしまった。
オリヴィアはそんな寝ているノアの頭をまた撫でたいという葛藤の末、結局読書は捗らなかったという。
可愛い子は撫でたくなりますよね?
という訳でこれからノアの口調が僕と俺と二つになった事で混乱されるかもしれませんが気をつけて書いてきます。
と言っても何度か過去にもノアは俺って言ってますけどね。
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