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嫌われたくない

 問い詰められたノアは、ははは、と乾いた笑い声を漏らす。

 しかし、その顔は笑っているのに、何故だか悲しそうだった。


「オリヴィア姉様なら気付かないと思っていたんですけどね」


 正直私も母に言われなかったら気にもしていなかっただろう。


「まあ、私は基本自分の事しか考えてない様な性悪だからね」


「そんなことないですよ」


 ノアは少し怒り気味にそう言った。


「オリヴィア姉様は今だって僕の事を気にしてここに来たんですよね?」


「いや、私は自分の考えが合ってるのか確認したかっただけで、もう大分スッキリしたわ」


 そう私は清々しく答えた。


 それを聞いてノアはふふっと小さく笑う。


「なんて言うか、オリヴィア姉様らしいですね」


「ところで私の為とはいえ、何で私に1人の時間をくれたの?」


 私の質問に、今度はノアも素直に応じた。


「嫌われるのが怖かったんです」


 ノアはそう少し俯きながら答える。


「オリヴィア姉様が僕達兄弟のことを好きになれないのは、僕達がオリヴィア姉様の邪魔になってるからですよね?


だから、少しでもオリヴィア姉様に1人の時間が出来て、喜んでくれればなと思ったんです。


そしてあわよくば僕に感謝して僕の事を好きになって欲しかったんですけど」


 と、最後だけやたら早口で話す。


「成る程、最後のセリフがあんたの本心ね」


「まあ、でもオリヴィア姉様が悩んでた様に、僕だって悩むんですよ」


 ノアにそう言われて、私も心の中で納得する。


 誰だって、人には嫌われたくない。

 だから怖いのだろう。


「それに、今回だって本来シーラお嬢様がいる間だけのつもりで僕も考えてましたよ?

ただ、この方が残りの2人の暴走を抑えられるなと後から考えたんです」


「そういえば、あんたはあの2人と違って、妙に冷静よね」


 ルーカスやエマは私に対して大分ストレートに向かってくるが、ノアは何というか何を考えているか読めない、読み辛い感じがする。


「まあ、上の2人を見て学習してますから」


 これは恐らく末っ子故にだからなのだろうか?

 私は一人っ子だからあまり分からないが、恐らくノアは人一倍周りを見てるのだろう。


「ふーん、まあいいわ。

私はスッキリしたし、これでゆっくり眠れるわ」


 私はそう言って部屋に戻ろうとすると、ノアに腕を掴まれる。


「あの、オリヴィア姉様?

結局付き合ってるフリは続行でいいんですか?」


 はてと私は問題を思い出す。


 結局ノアは実はしんどい想いを私の為にしてくれて、そのお陰で私はのんびりお一人様ライフを手に入れている。


「うーん、私としてはこのままでも全く問題ないのだけれど」


 私がそう答えると、ノアは笑顔で私に顔を近づけて唇のギリギリ隣の頬にキスしてきた。


「!?」


 私は急いでノアを引き剥がそうとするも、それよりも強い力で抱きしめられる。


「ちょっと!?

何するのよ!」


「付き合ってる()()ですよ♪」


 そう上機嫌にノアは答える。


「いや、今は人も居ないんだから、こんなことしなくてもいいでしょ!?」


 しかし、ノアは全然離してくれそうにない。


「だって、オリヴィア姉様は僕の考えを全部知った上でそれでもそのままを望むなんて酷いじゃないですかぁ」


 まるで拗ねた子供の様にノアはそう言ってくる。


「確かに私も酷いかもしれないけど、それを言い出したのはノアでしょ?」


 するとノアは更にギューと抱きしめる力を強めてきた。


 流石さっきチラッと見た限りでは引き締まった身体なだけあるな、と妙に感心してしまう。


 いや、今はそういう場合ではないのだが。


「なら、条件を変えます。

僕だけはオリヴィア姉様とずっと一緒にいていいことにします」


「それやったら私本当にあんたの事嫌いになるわよ」


 私がそう言うと、むーと不満げな声を出して渋々ノアは私を離してくれた。


「全く酷いお方ですね」


「まあね、自覚はあるわよ」


 まあ、本当はこのまま全てを知った上でノアと付き合ってるフリをしても良かったが、それではあまりに可哀想か。


 それに、こういう嘘は長引けば長引くほどろくなことにならないだろう。


「明日、ネタバラシするとしましょうか」


 私の言葉に驚いたのか、ノアはジッとこちらを見つめてきた。


「オリヴィア姉様、本当に宜しいのですか?」


 嘘をバラしてしまえば、もう私の幸せなお一人様ライフは出来なくなるのだろう。


「かと言って、ずっとこのままという訳にもいかないでしょ?

それに、私は確かに邪魔ばかりするあんた達のことは好きじゃないけど、仲が良さそうなところは羨ましいと思ってたのよ?」


 私には兄弟というものがいなかった。


 父は物心ついた頃にはもう居らず、母も仕事ばかり。


 もし私に兄弟がいたら、もしかしたら私の性格も少しは変わっていたのだろうか?


 他の兄弟を見てると、そんな事を考えたりもした。


 それは、このお屋敷に来てからも変わらない。


 もし、私に本当の兄弟がいたら。


 なんて、想像したところで無駄なのだけれど。


「へぇ、オリヴィア姉様はてっきり僕らの仲なんて興味ないと思ってました」


 ノアにニヤニヤとした顔でそう言われて、私は少し喋り過ぎただろうかと後悔する。


「まあ、とにかく!

私は今日一日ゆっくり出来たから満足よ。

それに関してはありがとう、ノア」


 私がそうお礼を言うと、ノアからお礼を提案された。


「ならご褒美に、またもう一度だけ大好きって言ってくれませんか?」


 私は内心この野郎、懲りてないだろうと思った。


 調子に乗るなと殴りたくなるのをなんとか抑える。


「別にいいけれど、嘘で言われてるのにあんたはいいの?」


 こう訊けば少しは躊躇うかなと思ったが、すぐ様問題ないです。と否定されてしまった。


「例え本心じゃなくても、オリヴィア姉様のお声でそう言われるだけで嬉しいですから♪」


 そう言われたら、もう言うしか選択肢が残されていない。


「……はぁ、一回しか言わないわよ。


大好きよ、ありがとうノア」


「どう致しまして♪」


 そう言ったノアの表情はとてもにこやかな笑顔であった。


 そして私はそれじゃあ、おやすみ。と去り際に言ってからノアの部屋を後にした。


 ……ノアの笑顔は、何処か引っかかる。


 顔は笑っているのに、心は笑っていない様な、綺麗に作った精巧な仮面をそのまま綺麗に貼り付けている様な、そんな感じがする。


「……まあ、私には関係ないことね」


 私はそう呟いて自分の部屋へと向かった。



 一方ノアはオリヴィアが出ていった後、バタンとベッドに横になった。


 焦った。


 正直、ノアにはあまり余裕がなかった。


(あの時、オリヴィア姉様が嫌いになる、なんて言わなかったら、最後まで抑えられなかったかも……)


 そもそも、夜、自室に無防備にも1人で来るなんて、オリヴィア姉様は天然なのか、はたまた僕を男として見てないだけか……。


 しかも着替えてるところは見られるし、更に、それをオリヴィア姉様は何とも思ってないし、それがなんか悔しい。


「はぁ、結局、意識してるのは俺だけなんだよなぁ」


 何とか意識させたくて、キスしたり抱きしめたりしても、驚きこそするが赤面すらしないとは。


 なのに、大好きと言うのには赤面するんだよなぁ。


 つまり、自分がされる立場はなんとも思わないけど、自分がする側になったら恥ずかしさのせいで赤面してるという事なのだろう。

 でもそれは相手が誰であろうと同じだろうし、まだまだ片想いは長引きそうだな……。


 そんなことを考えながらノアは眠りについた。

 オリヴィアは基本そこまで赤面しません。

 フラグへし折っていく系ヒロインです。


 読んで下さりありがとうございます。


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