観察させて下さいませ。
「ルーカス様とはどこまでの仲なのでしょうか?」
シーラの質問に、一瞬で辺りの雰囲気が変わる。
しかし、私としては逆にチャンスだ。
これを機に私はルーカスの事はなんとも思っていないし、寧ろ貴女の恋愛を応援すると味方だと言ってシーラ側につけば、お互い関係値は良好で争い事にも巻き込まれない……はず。
「その、ルーカス……義兄様のこと、私は何とも思っていません」
ここは誤解されない様にきっぱりと伝えた方がいいだろう。
しかし、私の言葉を聞いたシーラの表情が一瞬強張る。
何故だ? 今私はシーラにとって嬉しい情報を流した筈では?
「私は寧ろ貴女の様な素敵な女性がルーカス義兄様には向いていると思います」
私が更に言葉を続けると、シーラは持っていたカップをソーサーにガチャンと強めに置いた。
私は一瞬その様子にたじろぐ。
「えっと、あの?」
「……んでよ」
シーラは小刻みに震えながら小さく何かを言ったのだが、上手く聞き取れなかった。
「あの?」
「何でルーカス様と一緒にいて何とも思わないのよ!?」
私が何事かと尋ね返そうとしたら、シーラはそう逆上しだした。
「え?」
私はまさかの展開にびっくりして固まってしまう。
シーラは席から立ち上がり、熱演を始めた。
「あの、ルーカス様と一つ屋根の下で暮らして、何も思わないなんて、あなた本気でそう言ってるの?
ルーカス様はこの世にまたとない逸材なのよ!?
性格も良くて頭も良い! 剣術や馬術もトップクラス!
そしてあの整った顔立ち、少し低めでスッと耳に入ってくる声、文武両道で非の打ち所がないあのルーカス様と共にいて何も思わないだなんて!」
そこまで言い切って、シーラはハッと我に返ったらしく、コホンと咳払いをしてまたソファに座る。
「ごめんなさい、私ルーカス様の事となるとつい熱くなってしまって」
彼女はそう言って照れ隠しの様にまた紅茶を啜った。
「そ、そうだったんですね」
私は苦笑いで答える。
「その、シーラ様のルーカス義兄様に対する愛の深さは分かりましたわ。やっぱり私は貴女の恋を応援したいです」
「応援?」
私がそう言うと、またシーラの雰囲気が変わる。
どうやらまた地雷を踏んでしまったらしい。
「ルーカス様は貴女の事を好きだと言っていたのですよね?
それなのに私を応援? 私をどれだけ惨めにさせるつもりなのかしら?
私は貴女よりも魅力的な女性になって、正々堂々とルーカス様に認められたい、今日はその為に貴女がどんな方なのか調べようと思っていたというのに、貴女がはなからそんなんでどうします?」
私はまた凄みに負けそうになる。
やばいちょっと涙が出そうだ。
そこでまたシーラがハッと我に返る。
「やだまた私ったらごめんなさい。
どうしてもルーカス様の話になると熱くなってしまって、お恥ずかしい限りです」
そうシーラはシュンと小さくなる。
その温度差が逆に怖い。
何となく、ルーカスがシーラとの婚約破棄を前から考えていた理由が分かった気がする。
恐らくルーカスは、というか他の妹弟にも言える事だが、チヤホヤされるのが当たり前の環境で育った為、シーラの様に直接的な愛情を貰っても何とも思わないのかもしれない。
寧ろ、愚直なまでの愛は時として重すぎる場合がある。
シーラとルーカスの2人のやりとりを見た事はないが、察するに、シーラがガンガン攻めていたのではないだろうか?
ルーカスにとって(不本意ながら)私の様な女性が好みのタイプなら、シーラは正反対のタイプである。
そうなると、この2人をくっつけるのは大分難しそうだ。
「あの、要するにシーラ様は今日私の視察に来たという事でしょうか?」
私がそう訊くと、シーラは顔を赤くする。
「え、えっと、まあどんな方なのだろうと思いまして……。
正直、ルーカス様にぴったりな非の打ち所のない相手でしたら、素直に負けを認めて祝福しようと思っていたのです」
シーラはそう真剣な眼差しで私を見てきた。
恐らく本心で間違いなさそうだ。
まあ、怒りたくなる気持ちも分からなくもない。
自分の好きな相手が好きになった相手が、全くもってやる気がなければ、何でこんな奴がと思われて当然である。
私の言い方も正直悪かった。
「でも、貴女がその調子なら、私はルーカス様を諦めきれません。
貴女に応援されなくとも、ルーカス様を振り向かせて見せます」
どうやら、彼女の心に火がついた様である。
「ただ、何故貴女がルーカス様に惚れられたのか、そこがさっぱり分かりません」
はっきり言って、私もそこは同感である。
「なので、今日は貴女の事を是非とも観察させて下さいませ」
「え?」
私は何を言われたのかさっぱり分からなかった。
「ですから、観察させて下さいませ。
根掘り葉掘りと」
そうシーラはとても綺麗な笑顔でお願いしてくるのだった。
唐突なストーカー宣言。
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