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No.002

 奴隷商に売られ魔法が覚醒してから6年が経った。

 俺は元気に暮らしている。


 魔物に襲われたあの日、俺は近くに森に姿を隠しそれからずっと森の中で暮らしている。

 なぜ、6年もの間、街に出ず森の中で暮らしているのか疑問に思う方もいるだろう。

 理由はいくつかある。


 まず一つ目、金がない。町で生きていくにはもちろん金が必要だ。しかし、その金も木からなるわけではない。

 6年前の俺では職に就くことは難しくまず、その金を稼ぐことができなかっただろう。最終的に犯罪者か乞食になって奴隷堕ちか野垂れ死ぬのが関の山だろう。

 運良く、奴隷堕ちを免れたと言うのにわざわざ、死にに行く理由もない。


 理由二つ目、森の中も案外不便じゃない。

 住めば都と言うように最初の時こそ毎日のように魔物に追われ食料も満足になく飲み水にも苦労したが、6年もの時間が経てば、家を作り、設備を整え、襲われていた魔物をむしろ食料にするなんてこともできるようになるわけで、むしろ、6年前よりもいい暮らしをしている。


 理由三つ目、街の場所がわからない。

 理由二つ目の時に言ったように、この森に入ったばかりの頃は逃げ回ってばかりいた。戦闘もろくにしたことない人間が魔物一匹を殺したぐらいですぐに殺し合いに慣れる訳もなく。怪我の痛みに耐えながら、逃げて逃げて逃げまくって、そうしたらいつの間にか森の中で迷子になっていた。


 この三つの理由で今日も森の中で暮らしているわけです。

 それで今は、日課の狩猟に来ている。

 森での食事は基本的に自給自足。というか、自給自足しかない。周りに店がある訳ないからね。

 毎日、狩猟に出て食料を貯めておく。こうすることで、その日の成果がなくても飯にありつけると言う訳だ。


 今、狙っているのは金剛鹿(こんごうじか)

 宝石のように輝く大角を持ち、一秒間に一キロの距離を駆ける魔物だ。

 肉は非常に美味しく度々、他の魔物に捕食されている姿が確認できる。

 性格は温厚で基本的にこちらが何もしない限り襲って来ないが、身を守る場合や戦闘になった場合、その脚が牙を剝く。


 一秒間に一キロを駆ける脚で蹴られるのだ。

 もちろん、一発で肉が弾け飛ぶ。

 実際、俺も戦闘になったことがあるが、その時は掠っただけで骨が砕けた。

 その上、突進してくるのだ。宝石のような大角はその煌びやかさとは対照的にとんでもない強度を誇っている。

 そのため、その突進に当たった時の破壊力は絶大である。


 正直、正面で戦えば6年前に戦った緑色の魔物より厄介だと思う。

 まあ、今はそんな魔物を追いかけている訳だ。

 一秒間に一キロ駆けると言っても、入り組んだ森の中で最高速まで出せない。なので、わりかし簡単に金剛鹿を捕まえることは簡単である。


 肩に背負っていた弓を手に握る。

 この弓は俺の魔法で作り出したものだ。

 どうやら、俺の魔法は想像したものならどんなものでも作り出すことができるらしい。

 以前は失敗した剣やナイフもしっかりと想像して作ったら軽く力を入れただけで岩を切れるぐらいの業物ができた。

 他にもフライパンや鍋と言った調理器具はもちろん、ソファーやベッドと言った家具も作ることができた。


 その上、イメージしたものなら未知の道具でも作り出せるらしく、6年前に魔物を殺したあの武器もこの世界には存在しないものだった。

 まあ、あれだけ小型であの巨体を一撃で殺せる武器がこの世界にあれば今頃、もっと普及しているだろう。

 俺は、あの武器に魔導拳銃(まどうけんじゅう)という名前をつけいつも携帯している。


 これだけ、便利な魔法だがもちろん、デメリットもある。

 まず、物を一つ創造するのにかなりの魔力を使う。

 実のところ、6年前のあの日森に入った瞬間、魔力切れで倒れた。

 今は、魔力量も魔法の使い方も上手くなり魔力切れになることはなくなったが、それでも魔力を多く消耗するため連発はできない。


 そして、俺は基礎魔法が使えない。

 基礎魔法とは、火、水、風、土などからなる一般的な魔法で、ほとんどの人が基礎魔法を使うことができる。

 しかし、なぜか俺はこの基礎魔法を使うことができない。

 一応、想像した武器や道具に魔法を付与することはできるが、ほかの人間のように火の玉を発射できないわけだ。


 別に困っているわけではないが、ふとしたときにあったらいいなと思う。

 焚き火とかするときね。


 弓を静かに引き、走る金剛鹿に狙いを合わせる。

 放たれた矢は深々と突き刺さり心臓にまで達する。

 金剛鹿はその場で倒れこみ、痙攣する。

 どうやら、一発で仕留めることができたようだ。


 金剛鹿に近寄り、手を合わせ、刺さった矢を抜き取り、足を掴む。

 そして、肩から掛けていたバックを地面に置いて、その中に無理矢理ねじ込む。

 このバックも弓同様、魔法で作ったものだ。

 バックの中は亜空間が広がり、バックの口に入るものならどんなものでも入れることができる。

 そのため、狩りや荷物の長距離運搬時には非常に役に立つ道具だ。


 爆音と衝撃が森の中を走る。

 大地が揺れ、鳥たちが慌てふためき、飛び去っていく。

 西から風に乗ってきたその音は明らかに自然に発するものではなく何かにより起こされた人為的なものだった。


 俺は自然と臨戦態勢に入る。

 弓を引き、周りを警戒する。

 周囲に気配はない。殺気も感じないので俺を狙った攻撃ではない。

 実際、音が聞こえてきた場所からはかなり距離があったので、俺を引いた攻撃であることは限りなく少ないだろう。


 二発目の爆音と衝撃。

 次は治らない。連続的な攻撃だ。

 魔物同士の戦闘か?それにしては戦い方が下手すぎる。

 ここの魔物は頭がいい。なので大抵の攻撃には音がないもしくは音を限りなく小さくし漁夫の利をされないようにしている。

 しかし、これだけの音を鳴らしながら戦うということはそれだけ実力が拮抗しているか、実力を隠して戦えるほど生半可な敵ではないかの二択だ。


 めぇ〜、そんな腑抜けた声が聞こえてきた。

 振り返るとそこには一匹の羊がいた。

 深淵のような黒目でこちらを覗き、うねった角は不規則で黒く光沢がある。体毛もグレーに近い黒色で、全体的に黒といった印象を受ける。

 体格は決して大きくないが謎の威圧感がある。


 頬を汗が伝う。

 黒羊だ。

 この森で完全な捕食者側に立つ数少ない魔物の一人だ。


 再び、めぇ〜という腑抜けた鳴き声を上げる。

 俺はとっさに右へ回避。弓を構える。

 横目で、さっきまで立っていた場所が一メートル四方に削がれていることがわかる。


 ためらいなく矢を放つ。

 しかし、その矢は黒羊にあたる寸前、塵となって消滅する。

 俺は苦笑いするしかなかった。


 黒羊、彼の者がこの森で絶対的捕食者に位置付ける理由。

 それは、攻撃及び防御を完璧とする空間魔法あってのことだった。


 弓を肩に背負い疾走。

 腰のホルダーから魔導拳銃を取り出し、マガジンの中身を確認する。

 中には十三発の弾丸。その全部が通常の弾丸であり、黒羊に効果のないものだった。


 「あ〜、くそ!こんなことになるなら、反空間魔法の弾丸持って来ればよかった!」


 後ろを確認すると黒羊が周りの空間を削りながら追ってきている。

 木々が倒れ、地面が削れている。

 目の前に岩があろうが鳥がいようが御構い無しだ。

 様々なものが黒羊の空間魔法によって消滅する。


 魔導拳銃をホルダーに戻し、全力で逃げる。

 いま手元にある弾は火魔法と水魔法、雷魔法とその他諸々の弾で黒羊にダメージを与えられるものはなかった。


 ユディアが逃げる先は先ほど爆発音が聞こえた場所である。

 今だに爆発音は鳴り止まない。

 むしろ激しさを増しているように感じる。周りの地形が心配だ。

 だが、音が止んでいないということは、この音を出している本人とこの攻撃を受けている相手の二人がいるはず、最悪、そのどちらかしかいなくても黒羊をそいつになすりつける。


 爆発音の発生地点まで残り500メートル。

 黒羊がすぐ背中まで迫っている。


 ちくしょう!このまま逃げられないか!一度、時間を稼ぐ。


 拳銃にもともと入っていたマガジンを投げ捨て、ホルダーに入っている新しいマガジンと交換する。

 ゴーグルをはめ魔導拳銃を空へ向ける。

 そして、引き金を引く。


 一秒後、空中で炸裂、発光。

 真昼の森に二つ目の太陽が誕生する。

 黒羊は目の前がホワイトアウト、一瞬、速度を落とすがすぐに回復、また追跡を開始する。

 しかし、その一瞬で距離を離したユディアが爆発音の発生地点に到着する。


 少し開けたその土地に飛び出したユディアが見た景色は信じられないものだった。

 夜空のような不定形の靄と五人の男女がいたのだ。

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