森の聖女
[竜骨戦艦再び]
シャオはサルーに直接交渉して消失した竜骨戦艦の代わりに、廃艦になる強襲艦を貰い受けた。半日程で解体され竜骨だけになったのだが、前のと比べて長さも厚みも足りない。解体材を使っての延長、補強にさらに半日掛かった。
それで準備は整った。
[事故]
それは、一瞬の事故だった。
台車のワイアーは太目で木馬のそれは細目の物が使われていた。
台車用のワイアーは、巻き取り機で巻き取るのだが、
木馬用の物は手作業で回収され脇にとぐろを巻いていた。
そのとぐろに作業員の一人が足を取られた。
命綱を掛けていた為、落下は免れたが膝から下の肉をゴッソリと失い、風に舞う身体を確保するにも相応の時間が掛かり、失血死も有り得る危険な状態だった。
当然以降の訓練は中止になった。
[魔石]
シャオにとって気掛かりは、飛竜の転移能力であった。
あれは、果たして神樹の産み出した飛竜に特有の能力であったのか、全ての飛竜が持っている物なのか判然としない、神樹の分離したプロシージャである木目シャオに問い合わせても
「凡そ、全ての魔素を扱う物は転移出来得る」
との一般論しか返って来なかった。
ならば転移可能として対処するしかない。
どうやって魔石を食わせようか。
小型木馬に人形を乗せて突撃させても、ブレスで焼き払われるだけかも知れない。
俺にやらせろと名乗り出る者があった。カマーンチュである。彼の弓の腕前はシャオもよく知っている。魔石を託し作戦は調った。
[ただ視ていた]
虎治は医務室の前でウロウロしていた。九死に一生を得たのが彼の嫁の一人だったからである。四つ足人形の針捌きに感嘆し、火力の増強より休暇に価値を見出だす、あの三人娘の一人である。
「マスターなにしてんのさ」
残りの二人が見舞いに来た。
「お、おれ、なにもできなくて」
へたれがエグエグ泣きだした。
あの時、模型に座っていたのは虎治である。
「虎治!切り離すな!ワイアーが暴れる」
突然の事態にワイアーを切って助けにいこうとした虎治を、
ミーティアが制した。
何かをすればより酷い状況になりかねない位置にいる事に、
虎治は気付いた。
血を撒き散らしながら斜めにぶら下がった嫁が、
クルクルと舞っているのをただ視ていた。
エグエグ泣きながら視ていた。
[カマーンチュ]
上空に引きずり出された飛竜は頭を押さえられ、上昇できずにいた。
その真下にシャオの乗る竜骨戦艦が忍び寄る。
だが、森人以外の誰も気付かない。
勿論、窓から戦いを観戦している市民達も。
飛竜は領督の在する大きな街に大胆にも陣取っていた。
庁舎の中庭が丁度良い塒にでも見えたのだろう。
市民は移動中に襲われるのを恐れ大半が家に隠っている。
夜逃げの構えだ。
そこへ森人空軍は、文字通り、忽然と現れ飛竜を挑発した。
半数は姿を現し、半数は消し、
そして目まぐるしく位置を変え役割を変えた。
飛竜のみならず、見ている者がその機動を把握出来る事は無い。
シャオは位置取りに粗漏がない事を確認すると、
カマーンチュに、合図をした。
カマーンチュは、殺到するのに丁度良い位置に移動する。
丸太の群れが一斉に隠蔽を解き、顔面に魔法の矢を放つ。
飛竜は首をもたげた。
「ナマヤサ(いまだ)!」複数の声が重なる。
カマーンチュは疾走して、ブレスを吐こうと口を開けた、
その口の直近からすれ違い様、魔石付きの矢を放った。
[帰省許可]
「これは、帰省許可証、怪我人をダンジョンに連れ帰る事の許可」
木目シャオに渡された物を見ながら、虎治は言う。
「一人じゃ無理」
台車に乗せて押して帰らなければならないのだ。
「後二人連れていく許可になっている」
「でもさー、マスター」
三人娘の二人を選ぶのは当然の選択、
その選択が質問した。
「いつも、てか毎晩あたしらアーカイブの小部屋に連れ込まれてるじゃん。おんなじ手で良くない?」
神樹との結び付きの強い歪なダンジョンの、マスターである虎治は、神樹の検索網が通っていれば、かなりの事が出来る。
分割ルームの呼び出しは出来る。
新嫁の召喚なら、うっかり、しよっかなー、と思っただけで出来てしまう。
だが、キチンとした送還は、コアの手助けがないと出来ない。と言うかやった事がない。
ならばコアを呼び出せば良いのだが、なぜか、シャオには呼び出せるのに虎治には出来ない。慣れが必要なのかな?
それ以上の追求もなく転移門を潜った。
[森の聖女]
「ネーネヤシガ」「ネーネヤシガ」
森人のチャントが轟く。
飛竜は竜骨戦艦の上で、完全に繭と化していた。
こうなれば、もう、抗う術はない。
シャオはサルーの願いを実行する事にした。
あまりしたくは無いが、しなければ準備が無駄にもなる。
討伐が上手く言ったら共和国と森の宣伝もしておいてね、
サルーはそう言ったのだ。
上空に展開した森人の丸太をスクリーンに使う。
隠蔽の応用だ。そこに巨大なシャオの肖像が現れた。
繭をスピーカーに使っての声を拡声する。
何事かと見上げる市民。
「私は、神樹の森のネーネ=ハイマオ、キオトとイバーラクの要請により、飛竜の討伐に来た。イェードゥの民に新樹の加護あれかし」
爾来、ネーネ・ハイマオは森の聖女として、大きな後光と共に描かれる事に為った。
シャオがファミリーネームだけを名乗ったのは何故なんでしょうかね。気恥ずかしかったとか?




