大空の妖怪
まにあえーーー!
[囲まれたら]
「こちら一小三番、弾切れです」
アサミは舌打ちを仕掛けて止める。
部下に聴こえるかもしれない。
「了解、全機離脱せよ」
後続が来るまで粘りたかったが仕方がない。
帰投することにした。
途中軽い隠蔽の天馬の編隊とすれ違う。
サスケラ小隊だった。
「一波と比べてどうだった」
サスケラが訊いてきた。
第一波は同数でこちら優位で始まった。
今度は隠蔽に依る優位はあるが、数的に極めて劣勢だ。
発射煙から位置を推定され囲まれれば不覚を取る事もあり得る。
アサミ小隊は全機被弾している。
「対隠蔽の訓練積んでるみたい、囲まれたらヤバイ」
「わかった、情報に感謝する」
[都市伝説]
「おい、ワルキューレほんとにいるのかな?」
都市伝説だったかも知れないと候補生達は思いだした。
しかし、敵の動きは鈍くなっているし、
墜ちていく敵機も何機か確認している。
何よりシールドの損耗が減ったし、隠蔽は回復してきている。
確かに何かがいたのだ。
今いるかは知らないが。
[サスケラ]
上空に占位し、サスケラはタイミングを伺う。
水軍機はこまめに機位を変えている。
何処にいるか分からない天馬を警戒してるのだろう。
母艦に接近するのは同時には二機だけだ。
それを狙おう。
いた!あれだ!
「ダイブ!イーハー!」
「一番は一分が貰う、二分は二番を墜とせ、確実にだ!」
射弾を送ると同時に上昇する。
二番機は付いてくる。
敵一番は胴体に大穴を開けられて墜落中だ。
二分は?あ、馬鹿か!別の編隊を追いかけている。
被られるぞ。
「二分!離脱しろ、捕捉されている!外翼パージだ」
第二分隊長は、第一波の時の感覚で戦っている。
一撃離脱を徹底するべきだった。
「助けにいかないんですか」
二番機が訊く。
「いくさ、だが此方の安全を確保してからだ」
隠蔽を過信してはいけない。
陽炎とも靄とも似た気配は残るのだ。
数的劣勢なら墜とされる。
四番機が隠蔽を剥がされた。
が外翼をパージしている。
いま食いついている一機の軸線を外せば…
くそ!敵機もパージした!
そうか、鷲型とおなじで着脱が容易なタイプか。
まにあえ!
急降下を先に始めた分まだ此方の方が速い。
外翼をパージ、二番機も倣う。
真後ろからの射弾は四番機も射線に入ってしまう、
が、射つ。
射弾は敵機の噴進発動機の一つを破壊した。
二分には帰投を命じる。
後は、一分だけでチマチマやるしかない。
[さぁ?]
「いまのワルキューレかな?」
接近してきた二機が立て続けに墜落した。
こっちの弾が届かない距離だ。
「さあ?」
そうだとは思うが、何分みえない。
[ランサー]
マリコ小隊が到着したのはサスケラ小隊は撤退した直後だった。
アサミから聴いたのとは違って敵の編隊は大分バラけている。
高度計を見る。
四千を切っている。
母艦の高度が維持できなくなりつつある。
猶予はない。
「旋回しての戦闘は禁止します」
マリコが突拍子もない事を言い出した。
「真っ直ぐ突っ込み、真っ直ぐ離脱します。
安全域で旋回し、繰り返します」
隠蔽があると初撃は権利みたいなものだ。
それを繰り返そうというのだ。
「行きます!れっつらごー!」
この騎兵の突撃のような攻撃は意外に旨くいき、
一航過毎に数機に被害を与え、
騎士団とミーティア小隊が到着する迄に七機を墜としていた。
これは小隊単位でのハイスコアとなった。
特筆すべきは被弾した機が一機もなかった事で、
ワルキューレの基本戦術の一つとなった。
[大空の妖怪]
「絶対いるよな?」
気が付けば敵機の数は半分を切っていた。
ワルキューレがいないとしても、
妖怪だか、幽霊だかがいて水軍を化かしてるに違いない。
「ワルキューレ、妖怪説か?」
「うん、間違いない、妖怪の類いだ、敵にとって」
[仕上げ]
「あっれー?」
虎治は聞いていた敵の数と大分違うと、不満をもらす。
「ほほう」
ミーティアは、マリコの成果だろうと見当を付ける。
敵に動きがある。
八機の鷲型を発見したのだ。
見える敵がいれば見えない敵はさらに見えなくなる。
ミーティアはニヤリと嗤った。
「分隊毎の連携は密にしろ、後は、好きに墜とせ」
水軍航空隊はこの日潰滅した。
[騎士団母艦]
騎士団母艦艦長は、高度を三千に下げるように指示した。
酸素瓶の消耗を減らすためだ。
酸素は艦内で充填出来はするのだが、損耗を補填すべき箇所は
無数にあって、省略できるものは、省略したい。
戦傷者は多いが、戦死者が出なかったのは奇跡だ。
いやまだ浮いていられる事こそ奇跡かも知れない。
三機の発動機の内、真面なのは一機だけで、
他の発動機と出力を合わせるため、速度は五十しか出ない。
全速で鷲型の発艦が出来てしまう、何て皮肉だ。
外皮は殆ど剥がれ墜ち、隠蔽がなければ内部丸見えだ。
魔素の消耗の少ない境界迷彩に順次切り替えているから、
意外と損害は軽微には見えるだろう。
どれもこれも森人由来の技術のお陰だ。
また一人森人信者が騎士団に誕生した。
[メタではない]
「あれ?俺の出番は?」
ペタンペタンと判子を捺しながらサルーは呟いた。
「うちらなんか現場に居るのに出番無かったっす」三人娘。
「以下同文」木目シャオ。
一見会話している様だが、偶然同時刻に発言しただけである。
決してメタではない。
メタの定義は作者が決める。従ってこれはメタではない。
(暴論)




