砂の焔その3(了)
初陣はどんだけ年を取っても先走る物のようです。
[作戦中止]
シャオは途方にくれていた。転移門を潜ってしまった事で、神樹とのリンクが切れてしまったのだ。ウロに戻るかプロシージャの誰かに接触しなければ回復出来ない。
「ふしゅー」
ツノウサがすり寄って来た。
「優しい子」
どうしよう。砂の上に文字を書いて誰かに見付けて貰おうか。
「私の事、お忘れですか?」
「あっ」
歪なダンジョンへの迂回路を作る為の、コアのデュプリケイトがいたのだった。シャオは木目シャオに連絡を取った。
「作戦中止、大至急」
歪なダンジョン経由の同期が成立し、説明が不要になったのは助かった。
[騎士団母艦]
「高度千まで降下」
飛竜が出たと報告があった。翼竜用の装備では太刀打ち出来ないだろう。艦載砲の出番だ。
「艦長、作戦中止命令です」
「分かった、飛竜を始末し次第、撤収する」
「全機、攻撃中止だ!あれは空軍司令だ」
なんだって、こんな所にいるんだ?いや、まあ、昔から突拍子もない人だったけれど。カンナプス中隊長は呆れた。
サルーはなんとか宥めることに成功していた。
だから、おとうさんのお友達だから、
うん、直ぐ止めさせるから、
うんうん、だいじょうぶだから。
「中隊長、母艦の大砲が飛竜を狙ってますけど」
「騎士団母艦、カンナプスだ、砲撃を中止しろ!空軍と戦争になるぞ!」
「空軍と戦争?何を言っている」
「あの飛竜は空軍元帥の乗騎だ」
「今、確認する」
しかし、その時、砲煙が上がった。
[カヌーベ]
サルーとシャオが消えた。その事は空軍府を震撼させた。
程なく森人の長から二人が何らかの重大事の解決の為、砂漠のダンジョンに向かったらしいと連絡が来たが、一時は水軍の工作部隊の潜入を許したかと、半ば戒厳令状態であった。
「あの人はまた功績を立てる気ですか」
ぼやく参謀長。
「取り敢えず、司令から外さ無いと駄目ですね」
何れくらいの効果が有るかは不明だが、少しでも[功績]から遠ざけないと、と白髪の目立って来た頭を掻くのであった。
[ビーフジャーキー]
「クヮックヮッ!!」
いや、嘘じゃないよ、
本とに友達だって、
きっと遠かったから、
わからなかったんだね。
咄嗟の転移でオアシス近くに移動していた。
飛空艇は攻撃を止めていたし、多分サルーに気付いたのだろう。
なら、追撃はない。
…多分。
てか、すごいな。
護衛の積もりか翼竜が周りを取り囲んでいる。
あー、君たちダンジョンに案内してくれないか、
お礼にビーフジャーキーを上げよう、
虎治くんからお裾分けに貰ったもんだから、
あんまり数はないんだ、
一頭一本づつな。
だめ?
[終結]
「告げる、各艦、高度千五百に占位その場で待機せよ。現在空軍司令がダンジョンとの和平交渉中である。此方からの攻撃は厳に慎む事」
木目シャオからの正式な命令で戦闘は終結した。
「城の時と似たような終わり方じゃね?」
「作者ワンパターン説」
「結局司令の一人勝ち」
三人娘がやや辛辣な講評をしているのは、せっかくの高速時離艦の出番がなかったからだろう。普段はもっと良い子達なのだ。
[世評]
右も左もわからぬ候補生達は別として、教官達や熟練兵、はたまた騎士団の眼から視るとシャオの失点は小さくない。
死んでいた筈のダンジョンが生きていた。それは良い。発見は功績とも言える。だが結果論なのだが交渉可能なダンジョンに仕掛、敵対的な関係を作ってしまった。
これは、兵学校の校長として失格の烙印を捺されかねない、失点に見える。だから、批判すると言う分けではなく…。
「司令官も、運が悪いよなぁ」
「普通、何がいるか判らん所に使者なんか送んねえしな」
同情的であった。
なぜ、空軍司令=元帥が交渉可能だと知っていたのか、そもそもの謎なのだ。そして単身飛び込んで来たのは、いつもの事だと、話題にすらならない。
いや、そっちの方が問題だから。
[結節点]
コアルームには、サルーとリュウコ、マリー、そしてリュウコがコアルームに到達した事で展開可能になった転移門でやって来た、シャオ、ツノウサ、デュプリケイトコアがいた。
おっと忘れてた。虎治とデュプリケイトコアもいる。虎治は模様無い方が美人だよね、とか相変わらず能天気だ。
リュウコを通して砂漠の結節点にアクセスする事でかなりの事が分かった。
まずシャオに干渉していたのはリュウコであった事、
これはコミュニケーションを取ろうとしていただけらしい。
未熟な上に、ただクヮクヮ言ってるだけなのだから、
雑音としてフィルタリングされ干渉だけが残った。
それと、結節点の意図とも言えぬ意図。
死んだとされて来たダンジョンは
管理プロシージャとダンジョンマスターを失ったにも拘らず、
細々と生きていた。
細く繋がった神樹との検索網から
脆弱な結節点が極めて短いスパンで二柱も神樹の庇護下に入り
安定したのを知った。
なので庇護下に入ろうとした。
しかし、管理体を持たぬ悲しさ、方策を考える事すら出来ない。
特異点を、歪なダンジョンの模倣として作り直し、
なけなしの情報子を叩いてキーとなるかすら分からない、
ただ関連しているだけのプロシージャ[リュウコ]を作り出した。
幼体とは言えプロシージャだけあって、
[リュウコ]は考える事が出来た。
取り敢えず、神樹の森に行ってお願いしないと始まらない。
結節点の力を借りて、転移した。
その時はまだ自分の力で転移する事は出来なかったからだ。
伏線の半分も消化出来なかった感。
まあ、まだ終わりじゃないんで、なんとか纏まるかも。
ん?手遅れ?恐ろしいことを…。




