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転生輪廻

作者: 狸寝入り

 自分の人生とは、何なのだろう。

 昔どこかで聞いた、ひたむき真面目に生きれば人生は豊かになるって、セリフも信じれなくなっている。

 父親は借金を残して、行方知れず。母はその借金を返済するために人生を使い、無理がたたって寝たきりになってしまた。 

 初めて付き合った女性には浮気をされ、よく分からないままに捨てられ。

 母の入院費のために働く。

 こんな人生に意味なんてあるのかな? 俺には分からない。

 でも、昨日すべてが終わった。電話があったのだ。

 仕事の最中に病院から、母が危篤状態だとを知らされ、俺は駆け付けようとしたが上司に仕事を押し付けられて、間に合わなかった。

 その後、自殺を決意したのだ。

 何時ものように起きた俺は、スーツを着て外に出る。

 職場に向かうわけではない。屋上に行くのだ。

 死に装束がスーツになったことに少し、笑ってしまう。

 屋上には先客がいた。

 セーラー服を着た金髪のギャル系の女の子だ。

 その子は転落防止の柵の向こうにいて、扉の開く音に振り返って俺を見ている。

 「やぁ、いい天気だね」

 そう言いながら、近づく。

 「はぁ? めっちゃ曇ってんだけど」

 彼女の言うように、今にも降り出しそうだった。

 「君は、ここで何をしているんだ?」

 「どう見ても、死のうとしてんだけど……てか、アンタには関係なくない?」 その言葉に笑ってしまう。

 「確かに、でも君に死なれたら困るなー」

 「なんでよ?」

 彼女は、不思議そうに聞いてきた。

 「だって、俺も飛び降りようとしてたんだ。先に死なれたら、ここで死ねなくなるだろ?」

 淡々と言ってのける。

 女子高生と無理心中とか、言われたくないのだ。

 「なら、アンタがよそで死になさいよ」

 「いや、移動するのもめんどくさいからさ、勝負しない?」

 彼女の側までたどり着く。

 「勝負って何よ?」

 「不幸自慢対決だよ。自殺するほどだから、あるだろ?」

 「だから、何でアンタに話さないと駄目なわけ?」

 すごく不機嫌そうだ。

 「勝負しないと、自殺の邪魔をするよ」

 そう言って、彼女の制服を掴む。

 「ちょ、変態」

 身をよじって振りほどこうとするも、俺は手を離さない。

 「まずは、俺から話さしてもらうな」

 一方的に言って、学生時代の事から自殺に至るまでのすべてを赤裸々に語る。

 死ぬ前だからか、恥ずかしいとも思わない。

 「何よそれ……」

 彼女は、驚いたように呟く。

 「マザコンって、言われてもいいよ」

 「言わないわよ……」

 彼女は、俯いてしまう。

 「で、君はどうして死のうと思ったの?」

 「……ふ、振られたの……」

 ばつが悪そうに、彼女は声を絞り出す。

 「青春だな」

 俺の言葉に彼女は、頬を染めた。

 「うっさい。どうせ、そんなことかと思ってんでしょ?」

 上目使いでにらんでくる。

 「いや、そんなことないよ。でも、もったいなくないか?」

 「何がよ?」

 不思議そうに聞いてきた。

 「だって、そんなに可愛いのに自殺なんて……」

 「な、何言ってんのよ!?」

 彼女は顔を真っ赤にして、バタバタと暴れだす。

 「落ちる、落ちる。落ち着いて」

 手に力を込めて、支える。

 「アンタのせいでしょ」

 そう言って、俺の方に倒れこんできた。

 「悪い、悪い。でも、もっといい男がいつか見つかるだろ?」

 「見付からなかった、どうしてくれるのよ?」

 彼女はまっすぐ立ち直して、聞いてくる。

 「その時は、願い事を一つ叶えてあげるよ」

 「死のうとしてるやつがよく言うよ」

 笑いながら彼女は柵を登って、俺の前にきた。

 「自殺は?」

 「何か、バカらしくなったの。じゃあね、変なおじさん」

 俺の質問にそう返して、彼女は屋上から去っていく。

 少しぼーとしってから、俺も屋上から出って行くことにした。

 まずは銀行に行って、母が残してくれた保険金を使ってから死のうと思い直したのだ。


 ・・・・・・・・・・


 長い坂道を下りながら、この先の事を考える。

 死ぬ前に考えることでもないかもしれないが、悔いなく死にたかった。

 でも、やっぱり思いつかない。趣味もなくただ入院費のために生きてきたことを痛感する。

 カンカンと少し先の踏切が、音を鳴らしバーが降りていくのが見えた。

 その真ん中に女性の姿が見える。何かを必死に押しているようだ。 

 俺は何となく気になって、走って女性のもとに向かう。

 どうやら、ベビーカーのタイヤが穴に挟まってしまったようだ。

 「もう電車、来ちゃいますよ」

 そう声をかけ、ベビーカーを持ち上げて女性と一緒に線路から出る。

 その後すぐに、電車が後ろを通過していく。

 「ありがとうございます」

 電車の音が鳴りやんでから、お礼を言われる。

 「いえ、べつに……」

 「ふふ、ありがとうって言ってるんだと思います」

 ベビーカーのふちを掴んでいた手に、中の赤ちゃんが手を重ねてきた。

 「どういたしまして。では、俺はこれで」

 二人に別れを告げて、歩き出す。

 あの親子がこの先も、仲良く暮らして欲しいと思いながら……。


 ・・・・・・・・・・


 銀行についた俺は、窓口に向かった。

 高額な引きおろしは、機械ではできないらしい。

 「いらしゃいませ、どういった御用でしょうか?」

 窓口の女性が、テンプレートなことを聞いてきた。

 「お金を下ろしたいんですが……」

 そこまで言って、女性の視線に違和感を感じる。

 どうも、俺ではなく後ろを見ているようだ。

 客は自分くらいしかいなかったので、順番を抜かした覚えが無い。

 「……」

 振り向いて、確認して固まる。

 自分の後ろに、ライフル銃をもった、ザっ強盗ルックの小太りの男がいたのだ。

 「動くな、金を出せ」

 男の声は、少しなまっている。

 「あの、どうしてお金を?」

 何となく気になって、聞く。

 どうせ死ぬなら、怖がっても仕方がない。

 「お前、この銃が見えねえのか?」

 男が少し戸惑ったような声で聴いてくる。

 「いや、見えているよ。たんに興味がわいたんだ」

 窓口の女性は、状況が分からないのか微動だにしていない。

 「妹が病気で、金が要るんだよ。邪魔するな」

 俺はため息をついて、男に平手打ちを入れ言う。

 「バアロ。そんな汚い金で、妹が喜ぶかよ」

 「じゃ、どうすやいいんだよ。もう時間がねえんだよ」

 男は声を上擦らし、俺に銃口を向けて聞いてくる。

 「いくらいるんだ?」

 「一千万万だ。こんな金、強盗以外でどうするんだよ」

 「ちょっと、まってろ」

 そう言ってから、窓口の女性に声をかける。

 「……」

 反応がないので肩をゆすって、もう一度言う。

 「いくら入っている?」

 自分の口座の残高を聞いた。

 基本、引き落としとクレジットカードの生活だったので、ここ数年間口座の残高を見たことがなかったのだ。

 「少しお待ちください……一千、五百万円です……」

 おびえながら、教えてくれる。

 「良かった。ほら」

 自分の通帳とカードを男に渡す。

 「なんだよ……」

 男は戸惑って受け取らない。

 外から、パトカーのサイレンが聞こえる。

 防犯システムが、作動していたようだ。

 「あげるよ……罪を償って、これからは真面目に生きなよ」

 男の手に通帳とカード握らせて、暗証番号を伝え銀行を後にする。

 外にいた警官が戸惑っているのを横目に、俺は歩き出した。

 パトカーを横切るタイミングで、呼び止められてしまう。

 「えっと、話を聞かせてくれる?」

 警官の一人が声をかけてくる。

 「ええ、大丈夫ですよ」

 一時間ほど、話したところで解放された。

 犯人の事を聞いたところ。

 犯人の事情を聴き、銀行側が許したこともあり、罪が軽くなると俺に教えてくれた。


・・・・・・・・・・


 何処へ行くともなく、電車に揺られる。

 今日は、色々な人と喋ったな……こんなに話すのはいつ以来だったか。

 どこで死のうかそんなことを考えていると意識がもうろうとしてくる。

 「少し……休もう……」

 目を覚ますと何故か、ベットの上で寝ていた。

 辺りに視線をめぐらすも、カーテンで仕切られていてよく分からない。

 妙に静かで、清潔な白いカーテンを見てここは病院かなっと思った。

 起き上がり、カーテンを開ける。

 誰もいない、一人部屋だ。

 屋上に行こう。そこから、落ちて死のう。

 ここがどこであれ、目的は変わらない。

 俺はベットから下りて、部屋を後にする。

 出てすぐの所に、階段があったので上っていく。

 外も静かで人の気配がなく、窓から何故か青い空が見える。

 屋上に出るドアは鍵がかかってなくて、すんなりと開いた。

 一日曇りかと思っていたが、雲一つない青空が俺を出迎えてくれる。

 「何をしておる」

 屋上の端までいったところで、声をかけられて振り向く。

 「こんにちは、お爺さん」

 振り向いたさきに、白い長いひげで頭がつるつるの、杖をついたお爺さんを見つけて、挨拶をする。

 「ふぉふぉ。そんなところで、どうしたんじゃ?」

 改めて、たずねてきた。

 仕方ないので、答えることにする。

 「死ぬことにしたんです……ここから落ちて」

 お爺さんの方を見ながら、柵に手をかける。腰ほどの高さなので、超えることは容易だ。

 「それは、無理じゃよ」

 「はぁ?」

 お爺さんの言葉に素の返事をしてしまう。

 「死ねないって、言ったんじゃよ」

 「何で? 落ちたら、死ねるだろ?」

 階段は、少なくとも六階分は上ったので、高さは十分のはずだ。

 「下を見なさい」

 そう言われ柵から身を乗り出して、下を確認する。

 「白い……」

 「そう、ここは雲の上、天国なんじゃよ」

 「あんたは一体……」

 「ワシは、神じゃ。心筋梗塞で死んだお主をここに連れてきたんじゃ」

 その言葉に俺は、笑った。

 壊れたように笑い声を上げ、涙を流す。

 グッバイ、マイライフ。ハロー、セカンドライフ。

 そう、心で呟き。膝から崩れて座り込んだ。

                     (完)

 




 


 

 



 


 

 

 


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