幻警 日本第一支部
土曜日、天はバイトのため、とある建物に来ていた。
世界人口七十億人のうちの百万人足らずの幻人が起こす、小犯罪から大規模な事件までを取り扱う特殊警察。その日本第一支部である。
"ファントム・ポリス" みんなは"幻警"と呼ぶその機関は、構成員も主に幻人である。第一支部は新都のビル街に位置する。全身黒のこの建物は常に異様な雰囲気が漂っている。
はっきり言って家から遠いので、月一通うのも面倒なのだが、二年も続けているのにはちゃんと理由がある。
建物に入ると、普段は見かけないいろんな幻人たちがいた。猫耳、有翼、エルフ耳なんかもいる。
そんな人たちを尻目に、私は目的地に到着した。
月一で行われる報告会議は、バイトの私も参加しなければならない。
音楽ホールの客席のような会場には、三十人ほどの人がすでに集まっていた。
「おっ、天ちゃん。おひさ〜」
「お久しぶりです。猫さん。」
猫山 葉月。通称猫さん。ブロンドのショートヘアーに猫目、猫口、猫耳、スレンダーなボディはいかにも猫です、という人だ。そのデカ乳を除いて。
「毎月毎月遠くの方から。お疲れ様ねぇ。」
「いえいえ。たいした事ないですよ。」
もちろん嘘です。本当は交通費とか都会での買い物費とかで、いろいろたいした事ある。
そうして、お互いの仕事のことを話していると、会議は始まった。
会議は、管轄ごとの報告、最近の犯罪状況や、手段、各管轄から報告された犯罪者の情報などが主に話される。
自分にとっては退屈な会議も一時間で終わると、楽しみにしていた時間がやってきた。
会場の脇から、まるでラグビー選手のような体躯で強面の男が出てきた。
「会議はこれで終わりだが、最後に給料明細を配るので、確認してから帰るようにしてくれ。」
そう言うと、会場の脇からいくつかの封筒を手にした人達が出てきて、それぞれに配って回った。
私は、手渡された封筒をすかさず開封する。中からは給料明細書と、自分の活動記録や貢献度などが書かれた二つの書類が出てきた。
まず確認するのはもちろん明細書。そこに書かれた数字の羅列を目にする。
「おぉ…」
ここで、なぜこのバイトを二年も続けているかに戻る。その理由は、バイトでも普通に公務員くらいの給料が出るからだ。しかも貢献度によってボーナス有り。そりゃ二年も続くもんだ。
確かに、身体を張った仕事ではあるので、これくらい出てもおかしくないだろう。
「何?ニヤケちゃって〜。お給料貰うのそんなに楽しみだったの?」
「に、ニヤけてなんかないですっ」
いつの間にニヤけてたんだ、私。お給料貰うのが嬉しいのは確かだが。
「ふふっ、天ちゃんはかわいいにゃあ。からかいがいがある。」
「っ………。」
顔が熱くなったのが自分でも分かった。
猫さんと共に会場を出るとすでに建物内は閑散とし始めていた。
「天ちゃん、今日のご予定は?」
「今日はいろいろ買い物して帰ろうと思います。猫さんはどうするんです?」
「そうだにゃー。私も買い物するつもりだったからな。よかったらご一緒しようかな。…良い?」
「も、もちろんです!こちらこそよろしくお願いします。」
「んじゃその買いもん、オレもご一緒させてくれよ。」
突然入って来た男の声。その聞いたことがあるような無いような声に私は振り返った。
「よう、ネコ。二月ぶりだな。」
「……誰かと思えば、鷹さんですか。」
さっきまで柔らかかった猫さんの声が明らかに尖った。
猫さんが、鷹さんと呼んだその男。前に聞いた話では、自分を「ホークス」と名乗っているらしいが本名は不明。経歴も詐称しているらしいが、なぜか日本第一支部ができた当初からいる謎の多い人物だと。
「なんだよ。冷てえなぁ。もうちっと愛想持ってくれてもいいんじゃねえの?」
「あいにく、私はあなたに対する愛想なんて持ち合わせてはいませんので。それでは、私たちはこれで。」
最後まできっぱりと言い放った猫さんに手を引かれて、半ばひこずられるようにその場を後にした。
鷹の目がこちらを睨んでいた。
***
「良かったんですか?その………。」
「良かったの!あいつとなんか、構ってらんないわよ。」
よほどあの男が嫌いなのだろう。猫さんはあれからずっとイライラしている。確かに感に触る男だったが。あの男と何があったのだろう。
「ごめんね。折角の買い物気分崩しちゃって。」
「いえ、大丈夫ですよ!」
あえて明るくしてみたが、強がりは見透かされたらしい。そりゃあ、目の前であんなの見たらちょっとは気が沈む。
「まあでも、折角の二人で買い物だからね。さっさと気分持ち直そうじゃないか!」
そう言って猫さんが駆け出した。走れば気分も良くなる精神だろうか。
私はその背中を追いかけようとしたところでふと、後ろから視線を感じた。振り返るも、そこにいるのは道をゆくまばらな人影だけ。
「天ちゃーん、何してんのー?置いてくよー。」
猫さんが呼んでいる。少し背後を気にしつつも、私は猫さんを追いかけた。
この時、この視線の正体に気付いていれば、後にあんなことにはならなかったのに……。
前話から三ヶ月くらい空けてしまって申し訳ないです。学生は忙しいけどさすがに空きすぎです。本当に申し訳ない。
さて、世界情勢がいろいろ大変な中、小説というものは暇つぶしに最高のお供です。夢中になれば1日なんてあっという間です。外出れなくて退屈ー。暇ー。という方たちの助けに少しでもなれるようになりたい。そう思うお年頃なのであります。(?)
最後に、今話を呼んでくださいまして、ありがとうございます。作者は嬉しいです。不定期で下手な文章ですが、楽しんで頂けると幸いです。