1日目:現れた転校生ちゃん
死期が見えるようになった。
西暦何年何月何日。
時間までは書いていない。
でもその日に必ず死は訪れる。
いつから見えるようになったかは覚えていない。
最初はただ数字が頭上に浮かんでいるだけだと思っていた。
俺は不謹慎にもその数字が当日と一致する日を待ちわびてしまった。というのも、毎朝元気な挨拶をしてくれる近所のおじいさんがもうすぐでその数字が近づいていたのだ。
当日の朝、おじいさんの挨拶はなかった。
その日の夕方、パトカーが物々しく赤いランプを音を立てずに回っていたのが脳裏にこびりついている。
原因は夜中の心筋梗塞。
発見に至ったのはおじいさんと面識のある町内会のおばさん達。
毎朝のご近所づきあいに決められた時間に世間話しに来なかったため確認しに行ったところ、違和感を感じ警察を呼びそのまま確認に至る。
そんな詳しい話を晩ご飯の最中に聞かされ、食べ物が喉を通りにくかったことを覚えている。だが、もっと喉を通らなくなったことがある。
近所の野良猫だ。
この猫も同じく頭上の数字が近づいていた。まるで自分の死期を眺めるように中空をじっと眺めていた猫はとても年老いていた。
俺はその後ろを一日中追いかけ、落ちてくる花瓶、急発進する車、真っ黒な服に身を包み時折光り物をちらつかせる怪しサングラス男など、その日は不幸が凝縮されたような厄日から猫を守ろうとした。
最後に誰もこなさそうな橋の狭いところで丸くなり、起きることはなかった。猫の頭上から数字が消えていた。
死からは逃げられない。
夜は等しく降りてくるのだと。
そのときから自分にとって死の数字は隣人になった。
夜遅く帰宅して親にこっぴどく叱られた。泣かれて怒られて抱きしめられ、そんな親の姿は初めてで、自分の身体が軋みに耐えかね悲鳴をあげる中、親の頭上には長生きの数字が記載されていた。ひどく安心してしまった。
自分の頭の上を鏡で見て、親不孝者にはならないことを何度も確認したのは別にいいだろう。
今までの話は俺が中学生までの過去話だ。あの時の中二的思考回路は何者も恐れない、その自身はどこから来るのか自分でも問いただしたかったが、自分の能力を一部を除いてひけらかさないことは褒めたい。
話を変えよう。そうとも。今の俺は高校生である。
高校生になって新しいクラスメイトとの自己紹介があったが皆の死期もわかってしまうのもご愛嬌。中には死期が成人式の日であるヤツもいるが、飲酒で酩酊するのだろうか。
だが1回こっきりの人生なのだ。
飲酒はほどほどにしとけよと伝えといた。
そんなこんなでなにも起こらなかった高校生活一学期。すでに中学生の頃より退屈さを感じ始め、想像していた青春とは全く異なる様相を醸し出していたのだが、
本日転校生ちゃんが来るようだ。
名前は未だ分からない。
女子だと分かったのはうちのクラスの変態四天王が1人、田中が、〘見知らぬ制服〙に身を包んだ見た目は〘少女〙を、早朝の日課である腕立てほふく前進中に見かけたそうだ。
分かるだろう?田中は変人だ。これぐらいの刺激に慣れてしまうと世界はモノクロに染まってしまうのだ。女子の制服姿にもう少し夏が来るとちょうど良いのだ。
え、変態四天王は他に?そんなに俺のことを知りたがるなんて、さてはテメー俺のファンだな(俺がその1人)まァ待て。変態に付き合ってられないと、ブラウザバックしかけた指をそっと下ろすんだ。下ろす先は分かっているな?
先程も言っただろう。自分の能力を一部を除いてひけらかさなかった、と。そういるのだ。発言した年代も年代でそれから中二病と呼ばれてしまったのだ。その憎き記憶を合わせ持つそいつが、このクラスにいる。人生ハードゲームとはまさにこのことなのかとは実感している訳でございまして……
「失礼します。」
ガラガラと扉が開く。いつの間にか担任の賀川先生の話が終わっていたようだ。インテリネガネ先生のことはさておき、〘高校一年生〙の〘二学期〙から転校してくるなんてどんな事情があるのかと想像しながら、その女子特有の〘高い声〙の主を見る。
「こんにちは」
最初は〘おどおど〙していたが自分のタイミングで話始めた。その挨拶にクラスメイトからも返事の挨拶があちこちから飛ぶ。俺も便乗してあまり出し慣れていない声をだそうとした。
〘残り〙 575398
「はじめまして。東雲咲良です。」
その数は教室の時計の針が1秒進むとともに刻一刻とその限りある容量を減らしていく。まるで砂時計の砂が落ちるのを止められないように呆然と〘彼女の頭上〙を見ていた。
「私は〘ある病気〙をかかえているのですが、その〘治療〙が行える〘未来病院〙の近くに住むことになり、こちらの〘阿形〙に引っ越して来ました。高校生活がとても〘楽しみ〙で、この学校で過ごすことを許して頂いたこの学校の皆様には大変ご迷惑をお掛けすると思いますが、〘1週間〙付き合って頂けたらと思います。〘1週間〙後に〘手術〙をし、その後も経過を監査して頂くので、皆さんとこの〘1週間〙楽しく過ごせればと思います。」
というようなことを言っていた。というのも全くと言っていい程集中出来ていないのだ。
〘残り〙 575288
先程から〘減り続ける数字〙が気になってしまうのだ。朝自習のために開いていたノートに写していた先程の〘数字〙と今の〘数字〙を引く、そして1秒で減る数を1分、1時間に直して出てきた数字は……〘あと6日と1日における3分の2の時間〙。
今が午前8時を過ぎてすぐだがら、来週の月曜日までの命だというのか。高校生活を〘1週間〙で楽しむことは出来るのか。全ての科目がほとんどの場合〘1回限り〙でそんな生活を高校生活と呼べるのか。彼女の思い描く高校生活ってこの一学期俺が過ごした現実との乖離が甚だしい青春的経験なんじゃないか。
「東雲さんはそこの席でよろしくな。んじゃ、今日から皆よろしくな!続けて1時間目を始める。うし、和樹、教科書見せてやれ。お前ら新入生のサポートよろしくな。」
自分の名前を呼ばれてはっとする。嘘だろ、東雲、隣の席かよ。少しザワザワする教室の中、机を引きずる音が響く。
「えっと……〘1週間〙〘迷惑〙かけます。〘ごめんなさい〙」
よろしく。ではなく、〘ごめん〙、か。〘愁い〙を滲ませた二重のパッチリとした大きな目に〘陰り〙を滲ませている。謝りぐせでもついているのだろうか。それとも自分の境遇に居心地の悪さを感じているのだろうか。罪の意識とも言う、自分で認めることなしに変えることの出来ない家族への通念が頭を過ぎっているのか。
その瞳は〘やっぱり〙って諦めていないか。何かに見切りをつけていないか。止めておけばよかったかなんて〘後悔〙してないか。自分のこれからの経験を始める前から否定しようとしてないか。
俺はその表情を1週間見続けるのか。ただ変えられない運命を観測するだけなのか。確定している事実の上に胡座をかいて、その上で手の届かない場所を眺めるだけの存在に、俺はなるのか。
違うだろ。たぶん彼女は〘手術〙を控えて安静にしておくべきはずのところ、無理を承知で学校に来た。来れてしまった。だけど学校に来れただけで〘満足〙するなんて違うだろ。違うだろ。
ここで立ち上がらないのは男ではない。そうだろ、男吉岡、1人の女性を笑顔に出来ずして童貞で終わるのか。違うだろ。そうだ。女性を笑顔に出来る童貞になるのだ。
俺の計算途中のノートを見る彼女に声をかける。
「こういう時はよろしくってんだよ!東雲さん!俺の名前は和樹、はい!挨拶の握手!1時間目は物理だけど、引っ越す前はどこまで習ったの?」
役得を感じさせる〘壊れてしまいそうな〙ふっくらとした手の柔らかさをもつ彼女は少し呆けたあと答える。
「えっと……実は……どの科目も全然得意じゃなくて……」
視線の先は〘嘘つき〙の目線だろうか、この先の授業についていけるのか〘迷い〙が見える。そんなに目をキョロキョロさせないで下さい。むしろこっちが不安になってしまいます。そうか、学校自体を楽しみにしていたのか。OK、全ての科目が未学習だと考えよう。
物理の岡村先生は黒板の前の壇上で右から左へ自分の身体を使って運動を示している。この合間に今日行うであろう範囲に目を移す。そして必要な事前知識を頭の中に想定する。
隣に座る東雲さんの視線の予測線を予測する。こういう相手は自分を押し殺すのが得意であるため、瞳のほんの少しの〘揺れ動き〙に注視し、その視線が明後日に向かう前に小声で話しかける。
「この内容ってさ、エアコンとかでも……」
なんてふうに話す。彼女は〘どんな細かい話も〙そうなんだって返してくれる。本当に興味を持ってるようで俺も楽しくなる。
──キンコーンカーンコーン──
と授業の終わり。
「次は体育か。」
「学食の弁当予約するか〜」
「昨日のテレビでさ〜」
「教科書と色んな説明ありがとね」
おぅふ、この笑顔は〘陰りのない笑顔〙。おじさんそんな笑顔されると次に話しかける言葉見つかんないッスよHAHAHA!
「カズ!お前が寝てないのって珍しいな」
「ナイスだ!北村!」
突然話しかけてきたこいつはクラスの奇行氏ムッツリーニと言われてしまった軽音楽部所属、男子高校生、北村ムッ……下の名前なんだっけ。俺の良き理解者だ。
〘残り〙 571754
ふと東雲さんの〘残り時間〙が目に入る。クソっ!北村の名前なぞどうでもいい。高校生活、部活見学とかどうよ!そんでもって知り合いに体験出来そうなのは頼み込む。
「北村後で要相談事がある。」
「おつ。昔の気迫を思い出すぜぇ、和樹?あぁ東雲さん。次は移動教室なンで、早めに移動しした方がいいっスヨ。という訳で本日の案内役はクラス1の居眠り野郎がしてくれるンでぞんざいに使ってやってくださいネ。」
「北村くんって紳士みたいだね。」
……紳士とは?ノブリスオブリージュとは?ファーストレディとは?フェミニストとは?博愛主義者とは?ダンディズムとは?聖人君子とは?
「北村……黄昏時まで摩天楼の天辺で語りあおうではないか……7の1乗暁の女神が帳を降ろす時」
「和樹……この学校は摩天楼と言うには小さすぎるゼ。お前の要件を満たすニャ〜今日の放課後までにダヌ、あぁ、東雲さん、コイツ頭おかしんデ気にしなくてええヨ?」
「はっはい。」
そこで可愛いなーとか言っている鳩慕を打ちのめし、覚えていろよと三下のような戯言を呟きさっていくのを笑顔で見送る。
「さぁ東雲さん。体育館まで行きまっ」
「何が『一緒に行きましょう』だ、この変態め!女子更衣室まで連れて行く気かっ!?その変な目で何見るつもりよ!?」
!
神田梓
B:80W:57H:87
20XX/08/27……フフッ、コレイジョウハイケナイ
「その分かってるって顔やめろー!無駄に感が良いだけなヤツに感謝なんて絶対にしないから!別に私はあんたなんかに罪悪感なんて感じていないし、むしろあんたが苦手な女子を引き受けるだけマシと思え!このバカズ!」
とうとうやってきやがったな!この早口でまくし立てるヤベーヤツ。コイツとは深い因縁をもつ。そうだ。俺のハードモードはコイツが原因だ。いや、原因作ったの俺だけど。俺だけど。俺なんだけどさぁ。
「ごめんなさい。このバカズ屋に何かされなかった?大丈夫?安心して、私たちが絶対にこの変態から守るから。」
「神田てめぇ、勝手に変態と決めつけんじゃねぇ!まだ俺は何もやっていない。清廉潔白、私欲もなければ偽りも全くなく心から東雲さんに学校を楽しんで貰いたいだけだ!」
「うるさいこのバカズ!まだって言う所が怪しいの!それに今日はいつもより変なテンションだし何やらかすか分かんないのよ!このケダモノめ!」
──フューイ──
【神田の友人・坂井が現れた】
【神田の友人・伊藤が現れた】
クっ神田めっ指笛で仲間を呼びやがった!ぐぬぬぬ、以前見かけた神田のばっちゃの死期の当日にのうのうと登校してきたコイツに『今日は休んで家族と過ごせ!家族と過ごせ!?な!?』ってホームルーム前に両肩掴んで揺らしたのは事案だし、『頼むからな!?』って俺が泣いて帰って頂いたのは本当に悪いと思っている。え?その後、俺は教師陣に優しく『今日は帰れ。親にはそれとなく理由を言っておくから休め。』って言われましたけどなにか。その次の日、神田に泣きつかれてそれはそれで問題になって……なんで俺の過去話になってんだ!
──キンコーンカーンコーン──
『『やべっ!』』
集団遅刻かました
__パッ!……パッ!
「ごめんね。うちのクラスの和樹が迷惑かけてて。変にテンション高いから疲れちゃうでしょ?」
ミントンが放物線の軌跡を描く。
「ふふっいえっむしろこんなにしてくれて面白いです。それにあの掛け合い。神田さんは和樹さんと仲良しなんですね?」
ミントンのアーチがへにゃる。
「そーなんだよね。神田っちは和っちのこと嫌いにはなれないんだよね〜」曰く坂井。
「ほんとにね〜。中学校のあの迷シーンは忘れられないよね〜」曰く伊藤。
ミントンがふにゃる。
「待ってください。どんなことがあったんですか?私、気になります!」
ミントンが急勾配になる。
「ダメだったらダメなんだから!まだダメ!」
「「まだだって(笑)」」
「分かりました!」
「分かってないでしょ!」
なんてことがあったなんて露知らず俺は、お天道様もにこやかに迎えてくれるフィールドに立ち、むさ苦しい男ども相手に号令をかける。
「本日の通達を行う。運動部班!」
「鮫島、午後15:45着、サッカーでスーパープレー」
「田中、午後16:00着、テニスでスーパーラリー」
「剛田、午後16:15着、ラグビーのハカ」
「文化部班!」
「宮下、午後16:45着、化学の爆破実験」
「梅宮、午後17:00着、お茶」
「飯田、上路、午後17:20着、ストリートダンスと音楽の合わせ」
「北村、この後神田達のガードを突破し、本日の予定を聞きあわよくばエスコートする。」
「いいゼ?俺とお前の仲ダ。堪んねぇな?だが場合によっては神田どもを巻き込む。高校生活を凝縮させるんだろ?男子にしか、女子にしか出来ねぇことはあるさ。」
……北村。
「だが今は俺たちの力が必要なんだろう?」鮫島!
「俺の筋肉も同意している」……田中!
「……ウム」剛田!
「正に爆発的なのだろう?」宮下!
「お菓子も用意しとくよ」梅宮!
「非現実を楽しませてやるよ」飯田!
「〆はまかせな」上路!
「お前がバカなのは今に始まったことじゃねぇ。だが俺もお前の熱に当てられたバカだ。いつも羨ましく眩しくて見えなかったその位置に並び立てることを誇りに思う。」北村!
俺たちの戦いはこれからだ!
「「「「押っ忍!!」」」」
俺達は固く結びついた。今日限りのグループLINEが作られた。
〘残り〙 567845
「おっす!東雲さん!体育どうだった?楽しかった?」
「3m以内に近寄るな!目を離したらすぐこうだ!」
「神田……お前には聞いていない。東雲さん、今日の放課後時間空いてる?」
「えっと……17:00までなら大丈夫、かな?」
少し〘強ばる頬〙、作られた仮面を前に押し出して〘素顔を隠す〙ような不自然な強ばり。この〘サイン〙は何を暗示している?気を付けろ。親、病気、薬、活動可能時間、どれが正しい?
1つ1つの見えない爆弾がそこらかしこにばらまかれてやがる。何が不安材料なんだ。何かを恐れている。気づかれることを恐れている。念頭に置いておこう。
左後方、壁際の北村がLINEで報告。運動部は同時刻に行う。30分の繰り上げ。長年の夫婦のように北村とアイコンタクトでやり取りする。
「バカズ!何企んでんの!今日はもう東雲さんは私たちとの予定が入ったのよ!」
「神田、和っちの前だからって嘘はいくないよ。」
「で、何をしようというのかね?」
クッ分が悪い……キタムラ!
「俺の主人は人使いが荒いゼ、まぁなんだ、1匹オス狼の周りが全員女子なんだ。3人よれば姦し。その上も1人追加だ。どうにか吐き出せる言葉も思いつかんさ。俺ちゃんも入れさせて貰うゼ?おうおうドウドウ。そんなゴリラ見てぇにドラミングするもんじゃねぇ。転校生ちゃんさんも学校に慣れていないんだ。学校は野生動物の跳梁跋扈する魔界じゃねぇだろ?おう、ビンタが気持ちいい。ありがとうございます。さて、学校に慣れるということは授業を受けるだけだろうか。先生の話を聞いて終わる1日なんて考えるだけでつまらなくないか?誰かと行動する部活動だって高校生活の1つだ。1週間なのだろう。東雲さんがこの学校に所属していられるのは。1週間で全ての部活動を回りきることは出来るだろうか。現実的に考えればとても不可能だ。宛のない訪問はぐだみを産み余計な気を使わせ時間が消えゆくだろう。さて、そんな不可能を可能にしてしまうようなやつがいる。ここの万年寝太郎くんは帰宅部であるのに各々の部活動に知り合いが多くいる。それも影が色濃い友人らである。数少ない時間で各々の部活を回るのに乗るのにちょうどいい馬って訳だ。今のこいつニャーお礼の言葉が鹿せんべい見てぇなもんさ。どうだい?東雲さんは部活動気にならないか?」
迷いが見える。この後どのように自分の身を動かすか。〘薄桃色〙の柔らかな唇の〘端〙が震える。今は皆に合わせよう。これが私の〘望んだ生活〙。それならば〘受け入れられる〙。この後にどんな〘罰〙が待ち受けていたとしても、流されるままに身を委ねることが正解なのだ。これが〘高校生活〙なのだ。
それは違う。
さんの願う高校生活は寸暇の灯火のような幸せではないのだろう。1日の中で自分が誰かと行動する一体感に幸福を見出している。自分が主人公とか、その主人公を助けるカッコイイ補助役ではなく、物語の語り手。ゲームをしている人を横から見ているだけで楽しいと思う人なんだ。
「……北村、あとは女子に任せよう。神田、放課後頼むわ。」
「……うん。」
そして1時間目のようにちょこちょこと解説をこまめに挟んで1日の授業が終了。
〘残り〙 548755
俺ちゃんそんな簡単に諦められないのよね。
「押っ忍!」
「押っ忍!」
「ハッ!」
「リフティングパス」
「粗茶です。」
──Shall we dance?
──Hey You!
超高速5分間セレモニー。ついでにトランペッターも拝借。何が起こっているか分からないキョトン顔頂き!よし!ありがとう皆!先生が来る前に撤収だ!急げ!
「楽しんでくれたかな?残り6日間は同じことが出来るとは言えないけれどこれからの学校生活楽しんでくれよな!じゃまた明日!」
〘残り〙 548443
ぶった切るように一方的に話かけたのは、変わらない時間に嫌気が指したからだろうか。廊下を駆け抜けるさいに、重く感じる足に力が入る。なんとなく東雲さんの〘待って〙が聞こえてきたような気がした。
〘残り〙 548321
ふと向こう側から来た黒塗りの運転手の頭上に目がいく。見たことない車だ。誰かを迎えに来たのだろう。
そして気になってしまって振り返ってもう一度見る。
〘残り〙 548245
〘残り〙 548521
〘残り〙 547988
俺の目がおかしいのだろうか。
登下校する生徒達の頭上に似通った数字が映る。
ほんの少しだけ異なる秒数は何を意味しているのか。
いままでなかったことに困惑する。
黒塗りの車が止まる。
神田達が東雲さんに笑顔で手を振っている。
手を振り返した東雲さんが振り返り、車に乗ろうとする。
その表情は悲痛に瞳だけが揺れていた。
顔は笑顔であるように見えるが、夕焼けの光に瞳に溜まった涙が反射している。
〘残り〙 548432
あぁ。
それぞれ持っている時間は異なる。流れ方も違う。自分が思っている以上に早かったり遅かったり。でも1つだけ言えることは、
今面と向かって話しているこの瞬間だけは相手は自分と同じ時間のが流れている。
俺にはむずかしいことは分からない。けど、出来ることはしてあげたい。明日に備えて下心を解放せねばならないのだ。
少しだけ家に戻る足が早まる。
__2日目の朝
──キンコーンカーンコーン──
「うし、おはよう。今日東雲さんは休み。今日の体調は優れないようだ。以上。解散。」
賀川先生嘘だろ!?おい、北村!?
「〘未来病院〙場所はここから北へ約2kmほど。面会ぐらいは出来るだろう。コチラ華道部が選定した見舞い花でございます。何、先生には俺が話をしてやる。上手くまとめてやるよ。」
……歴戦の友よ。この借りはいつか……
じゃあな!
__ガラガラ
「おっ、和樹はどこ行ったんだ?」
「トイレです。」
「そうか、では昨日の計算から……」
ふぅー実はその見舞いの花には少し仕掛けがあってだな……
「センセー北村君がニヤニヤしてます!」
「お?神田、いいのか?カズの1番は俺が頂くゼ。」
「……世の中には友愛数というものがあってな……」
「センセー!」
などということが繰り広げられているなんて思いもしない。現実逃避した先生イベントなど知る由もない。現在俺はこの受付の人に生温かい目を頂戴している。なんて目だ。さも、私はわかっていますよ。青春してますね。その若さを私に分けてくださいな。そういった言葉がありありと伝わってくる。なんてラスボスだ。
え、見舞いすること自体初めてだけどなんかこの通路おかしくね?普通と違う気がするんですけど。見舞い客が入るような通路ではないですよね。扉が重々しいというか。
「この先よ。彼女の〘心〙を〘否定〙しないであげてね。さぁ男らしく入った入った!」
急かされるままに扉に転がり込む。やっぱりラスボスじゃねぇか。身だしなみを今更整える。ちょっと汗臭いかもしれない。どうすればいい。いやもう目の前だし無意味か。
__ふふっ
その時笑い声が後ろから聞こえる。誰だっ!という風にバッと振り向く。勢いで出てきたんだ。勢いで行くしかねぇ。学校ボイコットしてきたんだ。いつ連絡入るか分からねぇ。
「さすがに抜けて来るのはダメじゃないかな?」
何故分かった?俺が学校からの脱走兵なんて言っていない。まさか自前の諜報機関を使って身辺調査を行ったのか!?貴様!?可愛い顔してなんて悪魔的なんだ!?
「待って待って!?この時間に和樹くんは制服姿だからそう判断するでしょ!?」
あぁ、そういうことか。やっぱり汗臭さが残ってしまったか。風薫る男臭さを消すことは出来なかったようだ。と、1人心の中で考えていたことをやめる。
「ところで、今まで声を出してなかったけどなんで会話が通じるんだい?」
ハッと驚愕する表情。可愛い。気まずくなっている雰囲気。しきりに助けが来ないかと扉の向こうを確認している。まるで話を合わせて来たんじゃなかったの!?と言わんばかりの慌てよう。
〘残り〙 483299
to be continued